第53話 給与を差し押さえ

 可愛らしい少女よ。可憐かれんな乙女よ。

 美しい人よ。ほがらかな人よ。

 聡明そうめいな人よ。凛凛りりしい人よ。


 何故なぜ取り囲む。

 耳に届く言葉が、追い立てる

 耳に届く言葉が、め立てる

 耳に届く言葉が、追いめる


 華々はなばなしい功績こうせきをあげた者への褒美ほうびは、日頃ひごろ手にする事がかなわぬものであって良い。


 なのに、耳に届く言葉は高価であり過ぎる。

 なのに、耳に届く言葉は金銭の多さ。

 なのに、耳に届く言葉はお金のことばかり。


 嗚呼ああ何故なにゆえたたえてはくれぬのか。



 「可憐かれんな乙女が教えてあげる。私、食べさせてもらって無いしぃ~、おっちゃんの日常はあのロッキングチェアで、ほけぇ~としてろくに働かないしぃ~、なぁ~んにも手柄てがらをあげてないから、たたえ様がないじゃん。明乃あけのちゃん、力が抜けちゃったでしょう。それにおっちゃん、駄々だだれになってるぅ~」

 おや、またやっちまった。


 「さくたん、パパはそれがいいんじゃなぁ~い」

 ぉぉぉおおお~~~、でしょうよぉ~フランソワーズ。


 「さくたん俺、一生懸命いっしょうけんめい重労働に従事じゅうじしてるでしょうよ。それに今回の未解決案件を、解決する偉業いぎょうげるでしょうよ。もうちょっとで」

 「まだじゃん」ぐぅっはっ。さくたん、それは言わない約束でしょうよ。

 「そんな約束してないしぃ~」あっ、いかんいかん、また口走ってもうた。


 「私も食べたいぃ~~~、わっ、苺も3万越えてる」「はぁ~~~」

 「「「「「あああぁぁぁ~~~」」」」」「「「明乃あけのちゃん」」」

 「Oh!マイハニー明乃あけの、気を確かに」

 「明乃あけの」「明乃あけのちゃん、大丈夫ぅ~」


 「だ、大丈夫よ、有難うさくたん、ミス・テリー、かぴたん」

 両側にいるミス・テリーとかぴたんに支えてもらっている。

 明乃あけのちゃん、大袈裟おおげさでしょうよ、ただの、バナナと苺だよぉ~。


 「伝票かして明乃あけのちゃん」

 「ええ、有難うさくたん。まもちゃんりくちゃん、早くカウンターに」

 「「はぁ~い」」


 「ほい、バナナ」「あい、バナナ」並べられて行くバナナ。

 「わぁ~真っ赤で綺麗きれいな苺」「あい、本当ぉ~真っ赤か、4パックも」


 「おっ、レモンがいっぱい」

 「あっ、それは僕です、実家の庭に沢山出来たからって送って来たの。勿論もちろん無農薬ですよ。でもレモンって1個あれば良いし、お店なら蜂蜜いっぱいあるし、使ってもらえるかなって」


 「りくちゃん蜂蜜、いっぱいあるのかしら、いっぱい」

 「ええ、食器棚の下の引き戸を開けると」ぎょっ、誰も見ないと思ってたのに。


 たた。さぁ~。「ほら」あっ、ちょっ。「あい、まもちゃん」

 たた。「ほい、りくちゃんって、何この高そうな蜂蜜」たた。ごとん。

 「後2つねぇ~、あい」

 たた。「ほい、うわっ、美味しそぉ~~~」たた。ごとん。ごとん。


 「あっ、送り状入ってる。直販かな。価格が、・・・あい、まもちゃん」

 「あいって、」たた。がさっ。「私見てない」たた。「さくたん、ほい」

 たた。「私」がさがさ。たた。


 「う~~~んと、明乃あけのちゃんさ、送り状に値段が書いて」

 「さくたん、読み上げてくれない」「ぴえ~~~、怖い」

 「何を言うのさくたん、私はとっても心根が優しいわ、ええ、優しいですとも」


 「えっ、とっ、1つ180gが、税込み8300、3つで24900」

 「しょっ、マスタァーーーッ、私がおじいちゃん達の魔手ましゅを、腰やお尻に近付くのを回避しながら報告をあげてる合間に、何をしていたのかしらっ」

 明乃あけのちゃん、声が裏がってるでしょうよ。落ち着いて、冷静にぃ~。

 「さくたんっ」「ひぃ~~~」「バナナ納品前後の伝票調べてっ」「はいっ」



 ぱさぱさぱさ。「おっ、小麦が二つ納入されてる。何時いつもと別のが全、粒、粉ぜん、りゅう、ふん1kg、662、いつもの薄力粉はくりきこの倍じゃん」

 「あ~体にいいやつですね」


 「ほかには何かあるかしら、さくたん」

 「あれ、えっ、あ~、え~とっ」

 ぱさ。ぱさ。ぱさ。「グラニュー糖1kg、数量1、276と、和三盆糖わさんぼんとう220g、数量5、8495。これもお砂糖なの」

 「ええ、非効率的な製法で、人の手によって造られている、とても高価で、ものすごく美味しいと評判のお砂糖よ、さくたん」


 「はじめちゃん詳しい」

 「えっ、まぁ~一度食べてみたいなぁ~とは思っていたものだから」

 「明乃あけのちゃん、いいの20倍以上するよ」


 「そうね、さくたん、にはない」「うん、ちょっと待って」

 ぱさ。ぱさ。「あった。ココアが2種類納入されてる。いつものかぴたん専用と、ババンホーテン業務用、無糖純ココア400g、数量1、1650。やっぱり高いし、無糖だとかぴたん飲めないよ」


 「でもかぴたん、チョコソースとか言ってなかった」「多分パパが作ったのね」

 「りんごさんの言う通りだよ。かぴたんは超感動した。香り高くほろ苦い、カカオの風味を邪魔しない上品な甘さ、最高っ」

 「かぴたんの言う通り、漆黒しっこくのとろみが光沢こうたくはなち、お口にれると芳醇ほうじゅんなカカオの香りが立ち込め、鼻に上がって来るの。上品な甘さがほろ苦さを引き立て、素材の良さを際立きわだたせる。グッドなチョコソース」


 「二人共どうしたの」「チョコソースがそうさせる」「さくたんも食べればあかるよ」

 「ミス・テリーとかぴたんに、中二病全開の様な事を言わしめるとは、なんて恐ろしいチョコソースなの」

 チョコレート買うと直ぐばれちゃうから、ココアで代用しようとしただけなんだけどね、ちょう受けてるでしょうよ。


 「うん、ちちを怒るのはそれからでも」

 「そうだよ明乃あけのちゃん、一回食べたら、『こいつ無しでは、生きられない体にしてやるぜ、ぐへへへ』て、なっちゃうよ」

 誰よ、小学生にこんなあほな事教えちゃ駄目でしょうよ。

 ともかくミス・テリー、かぴたん、有難う。

 俺を責めないでいてくれるのは二人だけでしょうよぉ~。


 「はぁ~、それが良いかも知れないわね」

 「いいの明乃あけのちゃん、何時いつもの倍以上の物ばかり仕入れてるけど」


 「バナナと苺と蜂蜜の所為せいで、1万以下の物には反応出来ないらしの、さくたん」

 「おっちゃんっ、明乃あけのちゃんの金銭感覚が変わったじゃん」


 「さくたんっ、これから俺は事件を解決するんだよ、前祝まえいわいぐらい良いでしょうよ」

 「だめっ、おっちゃん見たいな人を甘やかすとろくな大人にならない」

 「えええぇぇぇ~~~」もう30過ぎてるけど、よく言われるでしょうよ。


 「さくたん、問題ないわ、これは全てちち警部補けいぶほの給与から差し押さえます」

 「明乃あけのちゃんっ、それはあんまりだよ。でもまぁ~いくら明乃あけのちゃんと言えども」


 「ちち警部補けいぶほ、お忘れですか。私は内閣府直属の国家公務員です。地方公務員の給与を差し押さえるぐらい、昨日きのう晩御飯前ばんごはんまえに出来ますぅ~」

 「国家権力の横暴おうぼうだぁ~、職権しょっけんの乱用だぁ~、民主社会の崩壊ほうかいだぁ~」


 「民主主義は、須利亜すりあが行った様な、民衆から集めた税金を私物化する事で瓦解がかいするんですっ」

 がはっ、正面突破された気がするでしょうよ。

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