第47話 希少サンプル

 どたどた。ぎしぃ~。あ~やっぱりこの椅子いす良いわ。

 「え~と、何故なぜ殺人罪で捕まえる事ができないか。これは俺の私見しけんだよまもちゃん」

 「じゃぁー」


 「多分検察はね、βベータ1の事件で殺人罪での立件はしない。理由は殺意の立証と、・・・βベータ1が車の荷台で何時いつまで生きていたのか、川に打ち捨てられる時も生きていたのか、客観的に示せるものがなく困難だから、遺体はもう無い、遺体検案書にもそれは書かれていない。それより明確な目撃証言のある遺体遺棄の現場、物的証拠がある強制性交等致傷ちしょう行為、βベータ1は亡くなっていて、首付近に扼痕やくこんがある事から強制性交等致死ちし行為で有罪に持ち込もうとするだろう」


 「なんですかそれっ、難しいから最初からあきらめると言う事ですかっ」

 「まもちゃん、裁判には一事不再理いちじふさいりと言うのがあってね、もし無罪判決が出て、後から有力な証拠が出ても同じ事件での再起訴は出来なくなるんだ」


 「そんな」「いやまもちゃん、この原則があるから裁判に意味があるんだ」

 「でも」

 「一度無罪になったのに、捏造ねつぞうして有罪になるまで裁判をする。そんな社会がまもちゃんはいいのかい、言い訳ないでしょうよ」


 「まぁ~そうですけどぉ~」「終わった事件の捜査は二度としないけどね」

 「だめじゃんっ」「司法制度の良し悪しもあるから」


 「そうだよぉ~明乃あけのちゃんの言う通りだよまもちゃん、例えばジムの母国、おこめ合衆国の裁判制度は陪審員ばいしんいん裁判」

 「そのぐらいは私も知ってますよ」


 「さっきまもちゃんが言った事を陪審員ばいしんいんうったえれば、きっとまもちゃんと同じ考えをする人が多くいると思う」

 「私もそっちの方がいいと思う」


 「さくたん、俺もそうは思うんだけどね。あと、量刑の範囲の決め方にも違いがあるから」

 「なんですか」そんなにふくれなくても良いでしょうよ。


 「ここはね、併合罪へいごうざいがある時」「併合罪へいごうざい

 「一人が複数の罪を犯している事よ。今回の場合、強姦こうかん、殺人、遺体遺棄かしら」


 「そんな感じだね、明乃あけのちゃん有難う、定めがあって、【その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。】と言うのがあってねぇ~」

 「つまり併合罪へいごうざいの場合、重い方の1.5倍まで、と言う事?」


 「そう言う事なんだはじめちゃん、おこめ合衆国の場合は」

 「それは僕が言おう、一つ一つの罪状につて裁判が行われ、一つ一つ有罪になった量刑が単純加算されるのさ、だから懲役ちょうえき200年と言うのもある。マイハニー、僕を閉じ込めて」


 「有難うジム」「マイハニー明乃あけの待ってるよ。むぅ~ちゅっ」

 ぱっし。「行かないってばっ」なはははジム、また撃墜げきついされたぞ。


 「ここでは一つの事件の量刑の上限が決まっているんだ」

 「納得いきませんっ、私、単純加算される方が良いですっ」


 「じゃぁ~ここが民主主義を口にしている間に、取り敢えず次の選挙に行こうか」

 「行きますっ。それでぇ~何とか行為でαアルファΔデルタ、捕まえられるんですかぁ~」


 えらくダウナーだなもう。「αアルファについてはぎりぎりだよ」

 「おっちゃんどうしてぎりぎりなの、人殺ひとごろしだよね」

 Oh~ダウナーが伝染してる。


 「えっとねさくたん、時効があって、強制性交等致傷ちしょう行為は15年、強制性交等致死ちし行為は30年で」

 がたっ。「明乃あけのちゃんまもちゃん、通して」

 「待ちなさい」「ちょっ、はじめちゃんっ」


 これは以外、クールなはじめちゃんがこっちに来る。

 かつかつ。「ちち警部補」


 腰に両の拳を当て、すっくと立ちはだかり、大凡おおよそ人としての体温を感じられない寒々さむざむとした瞳。

 躊躇ためらわずに震える小鳥の心臓を止めようと、冷気を降り注ぐ。

 はじめちゃん、そんな目で見ないで、チキンなんだから、俺死んじゃう。

 ピュアハートが凍り付いちゃうでしょうよ。


 「どうして同じ殺人さつじんなのに、時効があるのですかっ」

 「・・・そう言われも、現行法がそう成ってるとしか。これをさだめた爺様じいさま達は、もういないだろうし、殺人罪と強制性交等致死ちし行為の大きな違いは、えっちをしてるかいなかだから」


 「レイプして殺すと罪が軽くなるんですかっ」

 こんな感情的なはじめちゃんを初めて見るよ。


 かつ。「俺には」ぎしぃ~。

 俺の方へ来てロッキングチェアの手すりに両の手を置き、ゆっくりと体重を掛けて俺にし掛かる。

 こつん。背凭せもたれが壁に当った。

 髪の毛がさらりと滑り落ちて来てほほを刺す。

 近い近い近い、ぅ~~~これなの香り。


 「は、はじめちゃん、ちゅうしちゃうよこの近さだと」

 「私は構いませんよ須利亜すりあ

 「「「さくたんっ」」」「はっ」がた。たた。「はじめちゃんっ、離れてっ」


 さくたんに引っ張られて、下がってくれた、惜しい事をしたぁ~。

 いや、たとえ事故でも安住の地を追われかねない。

 俺には約束の地はない、ただただ40年も彷徨さまよったら、・・・その間に老後突入でしょうよ。


 ・・・そうだ、フランソワーズがいる。

 やしなってくれるって言ってるし、美人だし、スタイルも良いし、まぁ~8個ぐらい年の差があるけど、おやじやおふくろも10個以上空いてるし大丈夫でしょうよ。


 「あああぁぁぁ~~~眩暈めまいがぁ~~~」「もぉ~~~はじめちゃん」

 とか言ってしゃがみ込んでもね、さくたんも同じ感想でしょうよ。

 芝居掛しばいがかってるよはじめちゃん。


 ん、手招てまねきされたさくたんも、腰を落としてぼそぼそ話しだした。

 「さくたん、大事な事なの、抱っこされた時、どんな感じだった」

 「ぇ~、・・・どきどきして、恥ずかしかった。でもすごく安心できた。きゃっ」


 「そうじゃなくて、筋肉の付き方とか、骨格とか」

 「・・・そう言われれば、見かけよりがっしりしてた様な、首周りも太かった様な」

 「さくたんっ、とんでもないサンプルよ」「サンプル?」


 打ち合わせまだ終わらない。皆次の展開を待ってるでしょうよ。

 「所長は量子探偵業務で、1.5ジー以上の重力下で、3時間から4時間動き回っているわ」

 「はっ、順応っ」


 「地球型太陽系外惑星でハビタブルゾーンにあるその多くは、1.5ジー以上の環境」

 「現在実在するどんなに強力なエンジンでも、実際にそこへ行くには世代宇宙船になっちゃう」


 「そして目の前に実際に行く事が困難な、惑星環境下の貴重なサンプルがあるの」

 「うがっ、データとらなきゃっ」「生殖機能も調べないと」


 「はじめちゃんのえっち」

 「さくたん、とても大事な事、移民船が目的の惑星に辿たどり着いても、生殖機能が失われるのなら、世代宇宙船で行く意味が無いわ」


 「ほっ、はじめちゃん滅茶苦茶めちゃくちゃ大事、おっちゃんを隅々すみずみまで調べないと」

 なっ、何、二人して、・・・脳に電極を埋め込まれたマウスを見る様な、無慈悲むじひな目は。



注+++++++++++++++++++++++++++++++

 20230702 次の指摘を頂きました。

 強制性交致傷の控訴時効は30年ですが、死刑適用罪である強制性交致死の場合は2010年に時効が撤廃されていたかと思います。


 参考にした情報が古かった様ですが、それを素にストーリーを書き進めた為、残念ながら書き直す事が困難です。

 しかし、事件の解決に向けた物語は、量刑の長さではなく、如何に証拠を示すかで進んでいるので、ここまま進めます。

 お容赦下さい。

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