第46話 生体情報の痕跡

 「ぶぅ~~~、それでαアルファの家を調べるの」「まぁ~そうなるね」

 「βベータ1の事件については、どんな条件が揃えば良いとパパは思ってるの」


 「あ~フランソワーズ、事件発生直後ならなんてことないと思うんだが、要するに事件現場となったαアルファの家から、βベータ1やΔデルタの指紋などの痕跡こんせきが見つかれば、αアルファΔデルタが何らかの形で関与していた事は明らかで、そこから調書を取り自供に基づき証拠固めをして、容疑を確固たるものに出来る、と思う。γガンマの身勝手さと、βベータ達とαアルファ面識めんしきがなく、同姓、同名、同年齢の女の子達がいる事を知らない為に起きた事件だからね。Δデルタは当時、恐喝きょうかつ事件の担当だけど、αアルファの家から警官の痕跡こんせきが見つかるのは、14年経過した今でも不自然だ。だけどβベータ1を、山奥まで乗せた車はおそらくもうない。遺棄現場の状況とそれぞれの自供を照らし合わせる事になるね。はじめちゃんαアルファの家、何か残ってると思う」


 「無理だと思います。指紋は皮脂ですから、それにいく物臭ものぐさな男でも、自分の家の掃除ぐらいするでしょう。もしゴミ屋敷だっら尚更なおさら無理です。明乃あけのちゃん、中の様子については何か情報は無いの」

 「あるわ、とても小ぎれいにしているそうよ」


 「そうなんですかぁ~、そんな風には見えませんけど」

 「まもちゃん、αアルファはイメージ通りよ」


 「人は見かけじゃないのね明乃あけのちゃん」

 「フランソワーズ、αアルファに限って言えばイメージ通りっ、あの男は女の子をとっかえひっかえして、色々色々した後で、家事一式をさせてるのっ、それを隠す気なんて微塵みじんも無いのよ、ろくな奴じゃないわっ」


 「何か、うらやま」「「「「所長っ」」」」

 「御免なさいっ、失言しつげんです」

 「私はWelcomeウェルカムだよ、パァ~パ」


 「うがっ、おっちゃんはだめっ」「さくたんも早くこっち側においでぇ~」

 「「「さくたんはだめっ」」」


 「ダディ仮にだよ、14年間清掃せいそうをしていなかったとしても、犯行現場が保全ほぜんされる事は無いと思うし、個人を特定できる生体情報は残らないと思うよ」

 ジム、唐突とうとつだな。

 ここは乗っかて戻さないと、ずぅ~っと言われそうだしな。


 「やっぱりそうだよなぁ~、さくたん、ふけとか表皮とかがどっかに残ってる可能性は」

 「おっちゃん見たいな、むっさい人のものでもダニが食べちゃう。ふん」

 「おっ、お~そう」えらく怒っていらっしゃる。


 「ん~~~となると、βベータ1に対するαアルファの遺体遺棄と強制性交等致傷ちしょう行為と、Δデルタβベータ1に対する遺体遺棄及び強制性交等致死ちし行為での逮捕は難しいかぁ~」

 「おっちゃん、殺人じゃないの、女の子、殺されたんでしょう」


 がたっ。「はじめちゃん明乃あけのちゃん、ちょっと御免ごめんっ」

 「ちょっ、ちょっと」「まもちゃんっ、待ってっ」


 どたどた。「所長っ、いいえちち警部補っ」「なっ、何かなまもちゃん」

 どえらい剣幕けんまくまもちゃんが俺の前に来て、ロッキングチェアの手すりに両手を置いて、全体重を掛けて俺にし掛かる様に詰め寄る。


 がたんっ。背凭せもたれが勢いで壁に当った。

  あっ、まもちゃん、御やめになって。う~~~ん、かおるなぁ~。

 「まもちゃん、危ないよ」


 背凭せもたれにもう少し長さがあれば、窓ガラスを割っていたところだ。

 「どう見たって、人殺ひとごろしじゃないですかっ。レイプされて、もてあそばれて、首を絞められ殺されて、戻って来たのにっ、病院へは運ばずに車の荷台に乗せて、荷台ですよ荷台っ。粗大ごみの様に山奥の川底に投げ捨てられて、もう一回殺したんでしょっ。・・・あの子、17ですよ」


 かた。たた。「まもちゃん、取り敢えずこっち来て、おっちゃんの後ろのガラスが割れちゃうから」

 さくたん、ガラスを心配するんだね。おっちゃん寂しいよ。

 まぁ~割れたらただじゃ済まないけど、大きいから、防弾だけどね。


 まもちゃんは直ぐに感情が表に出る。半べそ状態だよ。

 さくたんにうながされ、ロッキングチェアから少し離れてくれた。

 さくたんが背中に手を当てて、気遣きづかってくれている。

 まずはソファーに戻ってもらって、それから俺の考えを話そうか。


 がた。近い近い近い、立ち上がると項垂うなだれるまもちゃんのつむじが見える。

 「どうしてですか」ぱち。て、胸をたたかれても、司法制度の違いとしか。


 ぱち。「まもちゃん」

 ぱちぱち。痛いよ。「取り敢えず座ろうか」

 ぱちぱちぱち。痛いってば。「硬い」


 「・・・」「!まもちゃん」両腕を首に回して、メイドさん密着っ。

 「なっ、まっ、まままっ」「はっ」「ちょっ」「えっ」「OH」

 「もう立てません運んで下さい」「・・・はいはい」


 少しまもちゃんの左側に移動して、右腕を背中に回し、浅くしゃがんで両足の膝裏ひざうらに左腕を当てて。

 「つかまって」わずかにうなずき、首に巻き付いた両腕に力が入った。


 左腕で両足をすくい上げ、右腕に増していく重さを支えながら、しっかりとまもちゃんの右肩辺りをつかまえ、立ち上がりながら引き寄せる。

 「おっちゃん、ちょっ、おっちゃんっ」「がっ」「な、んて事」「パパずるいっ」


 「おっ、さくたん、大丈夫、まもちゃん意外と軽いよ」

 ぱち。「痛いよまもちゃん」「私、・・・そんな軽くないですよぉ~」

 まったくうちで働くメイド姿の女の子達は、良く分からん。一歩二歩なのに。


 たた。「はいはぁ~い、明乃あけのちゃんはじめちゃん、悪いけど奥に詰めてくれる」

 「所長、いえマスター、違うっ須利亜すりあっ」


 「明乃あけのちゃん、名前呼びはちょっと」

 「ではちちっ」

 「こうして改めて名前で呼ばれると、俺の名前って変だよねはじめちゃん」


 「おっちゃんっ」「はい、何でしょうさくたん」

 「何でお姫様だっこっ」「だってほら、立てないって言うから仕方ないでしょうよ」


 「「はいっ」」「空けましたっ」「早く降ろしてっ」「まもちゃん降りてっ」

 「嫌です」「「「「まもちゃんっ」」」」

 「皆が怖いですぅ~」「説明するから座って」「きゃっ」左腕を抜いた。

 「ん~~~」「はい座って、えっ、何さくたん」後ろからシャツを引っ張られた。


 「私、もう立てない」とか言ってしゃがまないの。

 「立てないぃ~」一歩二歩でしょうよ。


 「・・・はい、腕を回して、しっかりつかまって」としゃがむと。

 「イェイ」がしっとしがみ付くと、お姫様だっこはできないよ。


 「さくたん、もう少し腕をゆるめて」「あっ、うん」

 「立ち上がるよ」「きゃっ」あ~やっぱり凄く軽く感じる。


 「ぉっ、・・・ぉっちゃん、そんなに顔見ないで」

 「それは仕方ないよさくたん、そう言うもんだし、まっ、直ぐだから」

 たた。「ほぉ~い着いたよぉ~」「ぁっ、うん降りる、恥ずかしいねこれ」たん。


 「パパ、私には一度もしてくれなかったっ」「そうだっけ」

 「今度ベットまで連れて行ってっ」「うん、考えとくよフランソワーズ」

 「聞き飽きたっ」「えええぇぇぇ~~~、そうかな」


 「マイハニー達、お姫様だっこは僕のとく」「「「「「ジムは黙ってて」」」」」「OH~」

 皆ストレスが蓄積ちくせきしてるのかな。

 ん~~~慰労いろうかぁ~、何かあるかなぁ~。

 まずは目の前の事を片付けようか。

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