第42話 lovely《ラブリー》 さくたん

 だだだだだ。「私ここっ」

 さくたんが大慌おおあわてで、誰も座っていなかった玄関に最も近いが一番奥まったソファー、その窓際まどぎわ、俺が座るロッキングチェアの隣を陣取った。


 「・・・納得は行かないけど、ジムやフランソワーズに近付けない選択ではあるわね」

 「ええはじめちゃん、まもちゃん、これはやむを得ないと思うの」

 「まぁ~そうですね、じゃぁ~私がその隣で」


 「ちょっと待って」「まもちゃん」がっし。

 さくたんの横に行こうとするまもちゃんを、明乃あけのちゃんとはじめちゃんが肩をつかまえたね。


 たんっ。「もっ、明乃あけのちゃんっ、はじめちゃんっ、まもちゃんっ、3人ともここのソファーに座ってっ」

 折角せっかく座ったのに、さっ、と立ち上がって俺の直ぐ横まで出て来たよ。

 今日のさくたんは、滅茶苦茶めちゃくちゃ怒ってるな。


 「「「Yes!Yourイエス!ユア Majestyマジェスティ」」」

 「おだてても駄目っ」

 ばたばたばた。3人がソファーで落ち着きそうだ。

 ソファーとロッキングチェアの間は、人一人分のスペース、上手に通り抜けるもんだ。


 「怒っちゃや」「うんうん」「今度からキスマークは見えないところに」

 「ふがっ」ぽかぽかぽか。「痛い痛い痛い」「あっ、私も」

 「ちょっ、はじめちゃんずるいですぅ~、明乃あけのちゃん、私も替わって下さいよぉ~」


 あほかこの3人は。「さくたんもうそのくらいで」「ふんっ」

 ぉぉぉおおお~~~、膨れるもんだねぇ~、振り返ったさくたんの頬っぺたがぱんぱんだ。


 「もぉ~ね、明乃あけのちゃん達もからかうのはそのぐらいにしといて」

 「可愛い妹の困った表情は、明日を生きる為に必須ひっすうの栄養素です」

 「ええ、可愛い妹があたふたするさまは、最上さいじょうの精神安定剤です」

 「その通りです、可愛い妹がぷんすかするのもせぇ~ぎですっ」


 「しゃーーー、しゃしゃぁーーー」

 はいはい、さくたんも威嚇いかくしないの、それじゃぁ~猫でしょうよ。

 ・・・まぁ~確かに、からかい甲斐がいはある。


 「ふん」おっ、何だ俺。「おっちゃんっ、椅子いすっ」

 ともう一脚のロッキングチェアをゆびさす、結構重いからね。

 おっ、この場を支配下に置いている高貴こうきな女の子のおおせとあらば、かない訳には行かないでしょうよ。


 かた。御前みまえ片膝かたひざを突き、片手をその上に。

 うやうやしくこうべを垂れ。

 「Yes,My lordイエス、マイロード


 そっと御手おてを取り。「へっ、おっちゃん」「おおのままに」

 その甲に親愛のあかしを。

 「ちゅっ、ちゅぅ~したら、・・・たたく」


 「Oh~私も良くあ~やって遊ばれたわ」あっ、フランソワーズ今言うなよ。

 「ぅぅぅううううーーー、おっちゃんっ」

 がた、ばたばた。「はいはい椅子いすね」「むきぃーーー」おもろいな。


 がたがた。「何処に置くさくたん」「ぅ~~~ワゴンの横ぐらい」

 「分かった」さくたんもワゴンの近くに移動する。

 「ほい、さくたん椅子いすね」さくたんの後ろから椅子いすを押して行く。

 ひざの裏に当ると、手すりに手を置き深く座り込む。ぎしぃ~。

 「大義たいぎである。うん、やっぱりらくちん」もうだ丈夫そうだね。


 「まっ、チャンスはまだあるさ、それでダディ、何に困ってるんだい」

 「14年前の出来事についてかしら」

 何処どこがリーク元なのか、よく知ってるなぁ~。


 「まぁ~、そうなんだ。俺達は法治国家の住人だ。罪科ざいかを犯せし者に、法のさばきを受けさせるには相応そうおうの証拠がいる」

 「パパ、罪科ざいかて」「あ~罪の事だよフランソワーズ」


 「そう言えば良いのにぃ~」「悪かった、そうするよフランソワーズ」

 「パパ優しいから好きよ」「なっ」「有難う」


 「おもてになるんですね、所長」「くさえんかな、フランソワーズ」

 「私は本気よ、パァ~パ」「ふがっ」「僕も本気だよマイハニーあ」「ジム」

 「後にするよダディ、話を進めてくれいかな。それで、何がそろえば良いと思ってるんだい」


 「うん、まず旧道で殺害されたγガンマなんだが、犯人にひも付けるは、手にしている髪からDNAが検出される事が大前提ぜんていだ。もし出なかった場合、未解決事件は解決するが、それは全てγガンマのした事として終わる」


 がた。「そんなの可笑おかしいじゃないですかっ。死んだ人が自分で石を積んで、まる訳ないでしょっ」

 「そうだよ、まもちゃん」「だったら」「多分、そこは公表されないわ」


 「はじめちゃんの言う通りだと思う。ただですら疑念ぎねんを持たれている事案じあんですもの。逃亡したγガンマ潜伏せんぷくしていた旧道で、罪の意識にさいなまれ自殺した。14年の年月をて、戦史研究を手掛ける郷土史の調査隊がたまたま発見。全てのとがγガンマが背負い決着」


 がたん。「そんなあほなっ、おっちゃんっ」

 「まもちゃんもさくたんも座って、で、少なくともγガンマは自殺じゃない、誰かに殺害され、世間に溶け込んで素知そしらぬ顔で今も暮らしている殺人犯がいるとしたい。今の殺人罪に時効はない。新たに捜査が始められるだろう。見ていたのは14年後の俺達だけなんだ、さくたん、まもちゃん」


 「・・・殺害が行われた物的証拠、・・・つまり凶器がその場から見つかれば」

 「フランソワーズ、まさにそこだ。14年間、石はあそこに埋まっているだろう、しかし何か残っているんだろうか。さくたん、はじめちゃんどう思う」


 「へっ、私見てないし」

 「そうだった。古い道をミス・テリーとかぴたんが見つけたのは覚えてる」


 「まぁ~そこは」

 「あの道を900メートルほど入ったところで、このぐらいの石でαアルファに頭をくだかれてγガンマは殺されたんだよね。その遺体を山の岩肌いわはだくずれて出来たくぼみに入れて、その上に石積いしづみをしてめたんだ。凶器と成った石もまってる。とてもじゃないけど、さくたん、ミス・テリー、かぴたんに見せられる様な光景じゃなかったよ」


 「死んじゃったのは、話しの内容からわかってたけど、そうなんだ」

 「何か思いつかないかな」


 「そう言われても、DNAも他のタンパク質も、分解ぶんかいされてるだろうし」

 「だめかぁ~」「ごめんなさい」「さくたんがあやまる事じゃないよ」

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