【 検証篇 】

第39話 非日常

 私は起きているのだろうか。


 私が見ている光景は、実在するのだろうか。

 私の心がり動かされた、彼の横顔に。

 今まで知らなかった、知り得なかった感情、いいえ違う。

 知っていた、きっと知っていた、と思う。


 朝の窓辺まどべから差し込む柔らかな光、それが彼の横顔を、輪郭りんかく金色こんじきふち取る。

 猫背ねこぜの丸めた背中から、熱く暖められた空気が立ち昇り、ほこりが舞い上がると、きらきらときらめく金色きんいろの翼が、見えるのだ。


 私は、起きているのだろうか。



 「!!!、明乃あけのちゃんっ、はじめちゃんっ、まもちゃんっ、来てっ」

 がやがや「何々、さくたん」「何かあったの」「どうしたのかしら、大きな声を出して」

 「見てっ、おっちゃんがっ、仕事してるっ」



 あぁ~のねぇ~、さくたん。そんな感傷かんしょう的におどろく事ないでしょうよっ。

 心の声、全部出てるよ。

 俺だってねぇ~、給料の1/10ぐらいは働くのよ。


 光そそ窓辺まどべに丸テーブルを動かし、日常はくつろぎを共にするロッキングチェアも又、その後を追う。


 紙の束を積み重ね丸いテーブルへON。

 ノートパソコンを丸いテーブルにON。

 ディスプレイを開き電源をON。


 シュウィ~ンとファンの音。

 一時ひととき待たせる間、いくつもの異名を持つ道化どうけがくるくると回る。

 店のワゴンの上はギャラリーとなり、それはそれは多くの書類が並ぶ。


 俺は今、仕事やる気マックスだよっ。

 嗚呼ああ、出来ればこれ以上は嫌だなぁ~、働きたくないなぁ~。


 ごとんっ、ごろごろごろ、ごわわわわ、ごわん。

 まもちゃん、おぼんぼん、うちのは木なんだから当たると痛いよ。

 「所長が、仕事」声が裏返ってるよ。


 「明乃あけのちゃん、はじめちゃん、ちょっと帰って来てよう」

 立ち尽くしてるね、意識は別の世界を彷徨さまよってるのかなぁ~。


 ゆさゆさ「ちょっと、二人共帰って来てっ」

 「はっ、な、何かしら予算、予算よねさくたん」

 「あっ、えっ、そぉ~バリスティックトランジスタの事だったわね」

 「ちがうぅ~、おっちゃんっ」


 「 「 「仕事っ」 」 」

 すたすたすた。「所長っ」「あ~はい、明乃あけのちゃん、何かな」

 かつかつかつ。「何をしているのです」「はじめちゃん、書類の作成を」

 ごと。「よっ」たたたたたた。「私も」たたたたたた。


 そんな、みんな集まって来る様な事じゃないでしょうよぉ~。

 「はい、明乃あけのちゃんおぼん

 ちょっ、まもちゃん、何故なぜぼんを渡すのかな、かな。


 ばこっ。・・・痛いっ、手の甲が痛いっ、頭は防いだけど。

 ちょっとぐらい手加減したらどうよ明乃あけのちゃんっ、パワハラだよ、パワハラッ。

 「明乃あけのちゃんっ、痛いよっ」


 どうしてかなぁ~、ちゃんと仕事してるでしょうよ。

 「おっちゃんっ、何してるのっ、仕事なんかしてっ。おっちゃんがそんな事する人とは思わなっかたっ、軽蔑けいべつするっ、えんがちょっ」

 「えんがちょって、さくたん」さくたんが、錯乱さくらんしてる、なんつって。

 仕事しろって責められたし、これ書いて一応逮捕状の請求準備しとかないとだし。


 「もぉーーー、殉職じゅんしょくするとこでしたよう」

 何でよっ、まもちゃんもこの前、仕事しろって責めてたでしょうよっ。

 「いやぁ~ほらまもちゃん、こう言うの書いといて、家宅捜索とか逮捕状の申請準備とかしとかないとだし」


 「どうしてここでするのさ、私、心臓ドキドキしたんだからっ、もぉ~~~ぅ」

 「ぁ~、さくたん、場所が無いと言うか、ほら、ここ俺のオフィスでしょう」


 「ここは喫茶店です。お隣ですればいいのでは、ご同輩どうはいもおられますし」

 「いやはじめちゃん、狭いから、野郎やろう一人が精一杯でしょうよ」


 マンション桜花の玄関、所謂いわゆるエントランスへの入り口は、2枚の大きな特注の防弾ガラスで仕切られ、オートロックになっている。

 解除して扉を開けるには、桜花の認証が必要となる。


 エントランスに入ると、1.7畳ほどの警察の詰め所があり、そこに詰めている警官が持ち物などをチェックする。

 机もあるにはるが、それは3交代で詰めている警察官が使用していて、俺がそこへ入って作業するスペースはない。


 「おっ、はじめちゃんとこ、2階の外務省分室のつく」「嫌です」

 「良いでしょう、部下の子一人だし、はじめちゃんの机空いてるでしょうよ」


 「私の可愛い可愛い部下を、いやらしい飢えた獣に差し出す様な事は出来ません」

 俺は人畜無害じんちくむがいでしょうよ、羊さんだよ。

 毛皮だけじゃないよ、中身も羊さんだよ、・・・いやチキンかな。


 「じゃぁ~明乃あけのちゃん、3階の内閣情報部の詰め所を」

 「お断りします」二人して、俺の言葉をさえぎって断るのかな。


 「どうしてかなぁ~、明乃あけのちゃんがここ、喫茶きっさNTRにいるのだから机、空いてるっしょっ、最近部下の女の子、あんまり来ないし」

 「あっ、私明乃あけのちゃんが嫌がる理由わかった気がする」

 何かあるの、俺の知らないひめめ事が。


 「お~」「あ~そう言う事」まもちゃんもはじめちゃんも知ってるの。

 「内閣情報調査室、内閣情報官、内閣情報センター次長、明石あかし明乃あけのさん、隠し事は困りますよ」

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