第38話 ノンキャリアの所長

 「国家公安委員会委員長って、内閣が警察権力を牛耳ぎゅうじる為に、唯一ゆいいつ閣僚を置いてるんでしょう」

 「まぁ~そう見えるかもだけど、迅速じんそくに対応して、また多角的視点から物事を判断する為に、ポジションにはこだわらないのよ、海自のかいちゃん」


 「ちっがいますぅ~、嘘っぽいですぅ~」

 「まぁ~、そこは気にしないで、取り敢えず証拠をさが


 「ちょっと皆」「「「なになに」」」」すたすた

 なにしてんの。また俺だけのけ者にして、スクラム組んで。

 「分かったよ。終わったら教えてよ」がたっ。ぎぃ~。まったくぅ~。


 「それでこの招集しょうしゅうは何かしら、海自のかいちゃんツゥー」

 「違いますっ、あのぉ~前々から気になってたんですけど、所長」

 「「「「「「きゃぁ~」」」」」」「違いますっ、その気になってる違いますっ」

 がたっ、ぎぃ~。えええぇぇぇ~~~何、又悪巧わるだくみしてるの。


 「じゃぁ~何、気になってるから取っちゃ嫌宣言じゃないのなら」

 「はじめちゃん、怒りますよ」「いいもん、さくたんにいやしてもらうから」

 ぎりっ。「話を進めて頂戴ちょうだい


 「そう、明乃あけのちゃん、所長ってノンキャリアですよね」

 「ええそうよ、ただの地方公務委員」


 「なのにキャリアすっ飛ばして総指揮と全ての権限て」

 「ここの情報を守る為に必要なのよ。Δデルタの様に公務員でありながら守秘義務しゅひぎむを守らない人もいるわ、その人達は直ぐにご退場してもらわないと」


 「私もそこは疑問だったわ、自己顕示欲じこけんじよくの強いキャリアがよく納得するわね」

 「勿論もちろん政治的圧力が掛かるのだけれど」


 「でもぉ~、あの椅子に座って、日がな一日られながら、コーヒー飲みながら、そこの窓辺まどべながめてる人ですよぉ~。それに明乃あけのちゃん、内閣情報センター次長クラスで、どう考えても所長のポストは明乃あけのちゃんだし」

 「ん~~~、やっぱりそう思う、空自のくぅ~ちゃん」


 「ちっがいます。どこか弱い所つっつかれてるとか」つんつん。

 「ちょっ、やぁ~めて、そう言うのないから。調べたのよ、どうして私じゃなくて地方公務委員のちち警部補なのか」


 「うがっ、何か秘密が」「全然、めっちゃオープンだったわ」

 「それで、あなたを押しのけてNTRの所長に相応しい理由があったの」


 「ええはじめちゃん、所長ね、高校を卒業して直ぐにおこめ国の大学に行ってるの、心理学で、それも最高峰の、犯罪心理で博士号まで持ってるよあの人っ」

 「「「「「えええぇぇぇ~~~」」」」」


 「あっちは大学が認めないと取れないのよ博士号」

 「でしょぉ~」あ~もう、絶対俺の悪口だわこれ。

 「それだけじゃないらしいの、向こうで何か凄い実績をあげたらしいのだけど、流石さすがにおこめ国はセキュリティーが硬くて、何をしたのかまでは分からなかったわ」


 「ほぉ~でもどうして地方公務委員、おこめ国のあの大学なら、世界ランキングトップクラスですよね」

 ぎぃ~。嗚呼ああ、働かないで、のぉ~~~んびり生きたいなぁ~。

 「この国の大学じゃ無いから、国内での学歴は高卒なのっ」

 「「「「「!」」」」」「盲点でしたぁ~」


 「でもそれじゃ学歴詐称さしょうじゃぁ~」

 「いいえ、詐称さしょういつわる事でしょう、国内での最終学歴は間違いなく高卒だし、個人情報をさらけ出さなければならない理由も法律もないもの」


 「明乃あけのちゃん、それ、裏取れたの、同姓同名じゃないの」

 「はじめちゃん残念だけど、フルネームで顔写真もばっちしってたの」


 「・・・普段ふだんの所長からそんなの想像つきません、無理ですね。働かないし」

 「私以上に能力あるはずなのに、働かないのよっ、私ばかり働かせてぇーーーむきぃーーーっ」


 「「「「お~」」」」「日々のあれはそう言う事だったんですね」「皆で叱咤しったしないとだめね」

 ざっ。なっ、なんすか。ぎぃ~。

 「「「「「「「働けっ」」」」」」」「あっ、はい」

 だから、段取り決めて、証拠を探そうとしてるのに、そっちで集まってるからでしょうよ。


 「じゃぁ~はじめちゃん、何か証拠探すから、αアルファγガンマを殺害するところからもう一度、皆席についてくれるかな」


 ばふっ、どさっ。皆凄い勢いでソファーに座り直した。・・・俺、何かした。

 「はい、どぉ~ぞ、きりきり働いて下さいな、所長ぉ~」「ぉっ、お~」


 モニターにαアルファγガンマの頭を、長手方向に20cm程度、狭い方向に15cm程度の石をかかげ、一撃を入れる所から始まる。

 この打撃でγガンマの頭部が凹んでいるのが、流れ出る血の反射で見て取れる。


 次を逃れる為、γガンマは必死にαアルファの頭髪をつかみ、攻撃を阻止そししようと試みている。

 結果は先ほど見た通り、γガンマの頭部は柔らかめの半熟卵を潰した様に、悲惨ひさんな状態で事切こときれた。


 その肉塊を、山肌の崩れた岩のくぼみへ運び、ごろごろと崩れ落ちた石の上に乗せ、足を投げ出した形で座らせ、上半身を岩のくぼみに押し込んだ。


 そこいらじゅうにある大きめの石、頭を砕いた石ぐらいの物を幾つも幾つも放り投げ置いて行く。

 γガンマが見えなくなっても置いて行く。


 次に隙間を埋める為だろうか。

 手のひらに収まる大きさの石を、とにかく投げつける。

 ここに埋まっています、ここに在りますと言わんがばかリに積み上がったそれを見て、2時間余りの成果を見て、つばを吐き捨て去っていった。


 この絵は14年前の出来事、遺体は腐乱ふらんし、血肉は残っていないだろう。

 問題はこの殺しを、αアルファ仕業しわざだと結びつける何かがいる。


 「はじめちゃん、γガンマは激しく抵抗してたでしょう、爪の隙間すきまとかにαアルファ皮膚片ひふへん、残ってないかな」

 「無理ですね。からからに乾いた砂漠ならともかく、高温多湿のこの国の気候では、直ぐに微生物に分解されます。14年間も保持される事は有り得ません」


 「あのぉ~」「はいっ、空自のくぅ~ちゃん」

 「ちっがいます、名前ぐらい覚えて下さいっ。ほらαアルファが髪の毛を抜かれたって言ってたじゃないですか。あれは残って無いんですかね」


 「ん~~~そうね、比較的長期間残り易いけど、まずγガンマαアルファの髪を何時いつまで持っていたかを確かめましょうか」

 はじめちゃんがタブレットを操作すると、αアルファあらがγガンマの手元が拡大表示される。


 「あっ、結構な本数を引き抜てますね」「痛そう」

 「γガンマ陥没かんぼつした頭を見たでしょうまもちゃん」

 「そうなんだけど」


 はじめちゃんが早送りをする。

 岩のくぼみに押し込められたγガンマの手を、そのももの上に乗せようとした時に、髪の毛がにぎられている事に気付いたαアルファが、手を開こうとするがあきらめて、殺害に使った石を置きおさえる。

 そのまま石で埋めて行く。


 「はじめちゃん、髪、にぎられたまま埋められてるね。残ってると思う」

 「ん~~~地中に埋められていたらγガンマの骨もαアルファの髪も残っていないと思います。この国の土のほとんどが酸性土で、骨は時間を掛けて溶かされます。髪などは土中のケラチンを分解する菌などによって無くなります」


 「否定はしないのね」

 「はい、この石積いしつみの下の環境に期待するしかありませんが、可能性はあります。たとえ細胞1個分でも正常なDNAを見つける事が出来れば、増幅に日はかかりますが、現在の技術では検出可能です」


 「有難うはじめちゃん、希望が出て来たよ。まもちゃん、陸自のりくちゃん」

 「覚えろぉーーー」


 「うぅん二人共、証拠を確保する為に同行してもらうよ」

 「それは良いけど、具体的な任務は、部隊長に出さないとなので」


 「おっ、俺が迷子にならない様にする事と、現場の撮影と現場保持、証拠を荒そうとする者は実力をもって排除してよろしい、許可は内閣から取っとくから、結構な税金がかかってるからね。あっ、ゴム弾にしてね」

 「「了解っ」」


 方針は決まった。

 14年前の犯罪を白日の下にさらす。

 「あっ、明乃あけのちゃん、マスコミへのリーク準備よろしくしくぅ~」

 「うぅーーーもっ、分かりましたっ、私ばかり働かせてぇーーーっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る