第36話 第3観測点、崖の上のα《アルファ》とγ《ガンマ》、及び第4観測点

>ZCEH年 7月03日08時31分 がけの上■

 「だめなんだよ、困るんだよ」

 『何に困っておられるんです。話して、・・・下さらないとお力になれませんが』

 「・・・あの先輩の所に」『先輩、αアルファさんの事ですか』


 「そ、そうです。・・・先輩です。その、あの日βベータを連れて行ったんですっ」

 『落ち着いて、何時いつのお話です』「取り下げをしに行ったじゃないですかっ」


 『6月の28日、ですか』

 「そう、そうです。先輩に被害届を出した保証人を連れて来いと言われて、11時過ぎに」

 『・・・ほぉ~、βベータさんを』


 「でも、でも違う。βベータじゃないです」

 『違う、βベータさんなんですよね』


 「違う、違う俺、βベータが別れるって、あの日家に帰ったんです」

 『βベータさんではないのですか』


 「俺怖くてつい、βベータの友達を連れて行ったんです」

 『βベータさんでないなら、無関係でしょう』


 「あいつら行ってた学校も年も同じで」

 『まぁ~友人なら良くある事ですね。どうしてそんな事を』


 「同じなんですよ。あいつら」『何がです』

 「名前が」『・・・よくある事ですが、何を困っておられるのですか』

 「だからっ、言ってるでしょう。名前が、苗字も全く同じなんです。それで俺」


 『ちょっ、ちょっと待って下さい。整理しましょう。γガンマさんがαアルファさんの家に、保証人として連れて行ったのはβベータさん』

 「はい」

 『保証人として名前を書いたのはβベータさんのお名前』

 「はい」

 『・・・γガンマさんがαアルファさんの家に、連れて行ったのは、交際中のβベータさん』

 「いいえ、あいつは家に、だから、だから隣の県に住んでるβベータを」


 『あの、すみません。βベータさんは二人いるんですか』

 「ええ、あいつら、年も学校も名前も苗字も、字も全く同じですけど、別人なんですよっ」


 『じゃっ、αアルファといたのは、交際中のβベータさんじゃない』

 「だから、先輩の所から連れ出してくれませんか。あいつ、関係ないんですよぉ~」


 『なっ、・・・わかりました。・・・γガンマさん、今、どこです』

 「俺、どうしたらいいか分からなくて」


 『落ち着いて、今、どこですか』「俺、俺、・・・断崖。ハシビロコウの断崖」

 『そこにいて下さい。私が何とかします。良いですね』

 「分かった、どうにかして下さい」ぴっ。


 「・・・缶コーヒー、・・・ぅ~~~俺の事、心配して来てくれたのか、あいつ」

 ずず、ずず。「ぅんだよぉ~、・・・ぅ~~~剛毛かぴばらの抜け毛かよ」

 がた。「ぅっ、くっそっ、・・・別のん買って来いよ」がぎっ。ごくごくごく。

 「まじぃ~~~よ。有難うぅーーー、何で置いて来ちまったんだよぉ~、俺」



>ZCEH年 7月03日08時55分 がけの上■

 すさっ、すさっ、すさっ。「ん」「おいγガンマ

 「あっ、せっ先輩、なんでここに、βベータ1、どうしたんっすか」


 「ぼけっ、お前それどころじゃねぇ~ぞ。こんなところでなにしてやがる」

 「おっ、俺っβベータ1が気にな」


 「知らないのかお前、警察が血眼ちまなこになって探してんだよ」

 「えっ、何で」

 「お前一昨日おとといばん、事故ったろ」「まぁ~」


 「そいつを昨日きのう警察が調べてよ。どう言う訳かお前が殺人犯になってんだよ」

 「はっ、何で俺」「善良な市民の俺が知るかよ」

 「えっ、俺どうすりゃいいすか」「ここから飛び降りろ」


 「嫌っすよっ」「ぼけっ、ふりだよふりっ、しばらく隠れるんだよ」

 「どこに、ですか」「まだ免許もってっか。この靴の上に財布ごと置け」


 「αアルファ用意がいいわね」「Δデルタですよきっと」「そうね」


 「持ってるっす。この上に置くっすね」「来いっ」「でも先輩っ」

 「いいからこいっ、お前が捕まっちまったら、俺がとばっちり喰らうだろうが」

 「いっ、いやでも」「来いっつてんだろうがっ、人目に付かない所に連れてってやる。ほとぼりが冷めるまでそこにいろっ」

 「待って」「とにかく来いっ」ざっざ、ざっざ、ざっざ。



>ZCEH年 7月03日09時04分 がけの駐車場■

 「何処どこくんすか」

 「人が来ない、警察もこねぇ~ところだよ」


 「そっ、そんな所」「あるんだよ。俺がガールハントした後、連れ込む所が」

 じゃら。「おっ、運転っすか」「おう、道案内する」


 「運転させて、逃がさない心算つもりね」「所長っ」「まもちゃんこれ、過去だから」


 ぴぴっ。がっちゃん。「どこのホテルっすか」

 「あほ、山ん中だ、泣こうがわめこうが誰にも聞こえやしねぇ~、車から逃げ出しても逃げ場なんかありゃしねぇ~」



>ZCEH年 7月03日09時05分 がけの駐車場■

 「へぇ~、そんな所があるんすか」「あ~乗れ」

 かじゃ、かじゃ。ばたん。ばたん。シュ~~ン。ズザザザァ~。



>ZCEH年 7月03日09時14分頃 旧道入り口から150m付近■

 がたがた。ばちばち。がたがた。ばちばち。シュ~~ン。

 かじゃ、がさがさ。かじゃ、がさがさ。ばたん。ばたん。


 「あんな所に道が、草、ぼうぼうすね」

 「あ~、前はわだちぐらいあったんだがな、行くぞ」「えっ、車は」

 「お前、出る時はバックで出るんだぞ。こっからは歩きだ」がさがさがさ。

 「凄い所っすね」がさがさがさ。



>ZCEH年 7月03日09時30分頃 旧道入り口から1075m付近■

 「まだ先っすかぁ~」「あ~」

 「ここ、道なんってもんじゃないっすねぇ~、細くなるし、大きな石はごろごろしてるし」

 「あ~、聞いた話じゃ、戦争中に突貫とっかん工事で造ったもんらしい」

 「木がぼうぼうで暗いし、こっちの岩肌なんてぼろぼろで崩れて、えぐれてますよ」

 「あ~、一人ぐらいはいれそうだな」


 「「「「あっ」」」」「おっきい石を拾って持上げましたよっ」「まもちゃん静かに」


 「そうっすね、せんぱ」「んーーーーーーーーーー」どっかっ。どっさ。

 「・・・ぅ~、なに」「ここでじっとしなっ」どっかっ。


 「一撃で陥没かんぼつしているわ」「ゴリラ並みのパワーみたいねはじめちゃん」


 「やっ、やめっ」「いだだだだだ。離せっ、ぼけっ」どっかっ。ぐっしゃ。

 「ぅ」「髪を離さんかいっ」どっかっ。ぐっしゃ。どっかっ。ぐっしゃ。


 「・・・ぃ」「いででででで」どっかっ。ぐっしゃ。どっかっ。ぐっしゃ。

 「ぁ」「いてぇーーー」どっかっ。ぐっしゃ。どっかっ。ぐっしゃ。どっかっ。


 「うぉぉぉぉおおおーーー」どっしゃっ。ぐしゅっ。

 がざがさがざ。「頭つぶしてまだ動くのか。くっそ、髪抜きやがってっ」

 どっしゃっ。ぐしゅっ。どっしゃっ。ぐしゅっ。どっしゃっ。ぐしゅっ。


 「ぅっ、私トイレ」「ぉっ、付いて、行きます」「海自のかいちゃん1、2大丈夫」


 「いい加減じっとしてろっ、がぁーーーぺっ、気色きしょくの悪い、中身出してんじゃねっ」

 ごとん。「あ~血が飛んでんじゃん、ふん」どかっ。



>ZCEH年 7月03日09時40分 旧道入り口から1075m付近■

 ずずずずず。「動かないと、結構重いな」

 ずずずずず。どさっ。「きっしょっ」どさっ。どさっ。

 「あつらえたみたいにぴったりだな、おい」どっか。


 「ん~~~、こいつっ、どんだけ髪抜いてんだ。・・・んーーー、手が開かね」

 どっか。「まっ、誰もこねぇ~からいいか。いてぇ~、・・・硬くなる前に腕を足の上にのしとくか、俺に迷惑かけてんだ、小さくなってろ」

 ざっざっざっ。「おし、さっきの血の付いた石で腕をおさえて、土は無理か、・・・石で埋めるか」



>ZCEH年 7月03日09時55分 旧道入り口から1075m付近■

 ざっざっざっ。がきっ。ざっざっざっ。がきっ。ざっざっざっ。がきっ。

 「もとはと言えば、前が悪いんだからよ。俺の紹介した所を逃げ出しやがって、半分は紹介料として毎月俺に入るはずだったのによ。迷惑料の保証人に別の女連れて来やがるし、ろくな奴じゃね。Δデルタが言ってたぞ。まっ、俺的にはやれて、稼いでくれりゃどっちの女でもいいがな。名前も年も同じなら両方でいいか」



>ZCEH年 7月03日12時00分 旧道入り口から1075m付近■

 ざっざっざっ。がきっ。「うしっ、こんなもんだろう。おまけだ。最後は自分でけつを拭け。βベータ1殺しはお前の所為せいだからな、ここで化石になるまでじっとしてろ。誰も警察もこねぇ~から、安心しな」


 がぁーーー、ぺっ。「くそっ、ほんときしょく悪いぜ」

 ざっざっざっざっざっざっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る