第35話 γ《ガンマ》を置き去りに動く事象

 窓辺まどべを見ている。何時いつも見ている。きずに見ている。

 差し込む光は必ず変わっていて、雨の日はどことなくモノトーンで、白と黒の落ち着いた写真の一コマ。

 雲が空にひしめく日には、淡い色合いが広がり物悲ものがなしいく物足りない。

 青い空を白い雲が闊歩かっぽする日は、まばゆい光が、それはそれは色鮮いろあざやかではなやかにしてくれる。

 もたらされる光だけで、見える景色が異なってしまう。

 同じ場所から、同じものを見ているのに。


 BGMはバッハ、G線上のアリア、パイプオルガン伴奏ばんそう付き。


 コーヒーは、ブルーマウンテン。

 ジャマイカで厳格げんかくに品質がチェックされ、ブルーマウンテン山脈の標高800~1200mのエリアのみで栽培された物だけが、ブルーマウンテンの名をかんする事が出来る。

 黄金のバランスと言わしめるほどの、苦味・酸味・甘味・コクの全てが均等に調和。

 そしてその中でも最高等級NO.1。


 この絶妙なバランスの芳醇ほうじゅんを、最大限に引き出す為の焙煎ばいせんはミディアムロースト。

 嗚呼ああ、憧れの君。肌の色、輝く艶、この膨らみ。

 げへぇっ、ぐへへへ、たまらん。


 ばこっ。「痛いっ、明乃あけのっ、・・・さくたん、どった、痛いよ」

 何と、頭をさする俺をかたわらで見下ろしていたのは、明乃あけのちゃんではなく、ぷるぷると打ちふるえるさくたんだった。


 「おっちゃんっ」「はい、何でしょう」

 「きもいっ、きもいっ、きもいっ、きしょいっ、きしょいっ、きしょいっ」

 「・・・何で」

 「テーブルにれ立てのコーヒー置いて、でれでれして、それだけじゃなくて、小皿にコーヒー豆を入れて並べて置いて、手を、手をわしゃわしゃしてぇーーー、きもいっ」

 「しっ、仕方無いでしょうよさくたんっ、ブルマンだよ」

 「ブルマ」「違うっ」「そっちの方がまだ納得いくんだけどなぁ~」

 「ブルーマウンテンだよさくたんっ、俺の給与じゃ飲めないんだよっ」

 「コーヒーでしょぉ~」

 「あのね、さくたん喫茶店のつとめ人なんだから、最高峰のコーヒー豆、それもストレート、ブレンドじゃないよっ」

 「興味ないもん」

 「うがぁーーー、何でよっ、無し、文字通りNo.1だよっ、高いんだよぉ~」

 「とにかくへんてこな顔して、手をわしゃわしゃするのめてっ、そう言うは明乃あけのちゃんにだけして」


 「ちょっ、さくたん、それは聞き捨てならないわね。後でじっくりお話しましょう。私の事を余す事無く教えてあげる」

 「いらない」「なっはっ、もうぉ~お茶目ちゃめさん」なんだかなぁ~。


 「それで明乃あけのちゃん、俺の所に来たと言う事は、この前の本観測と、がけの上のαアルファγガンマのやり取り、処理出来たのかな」

 メインコントロールルームから出て来たと思われる明乃あけのちゃんが、カウンターからこちらに向かって来る。


 バイナリーサーチでは、旧ルートATのどこまで入り込んだのかが分かった。

 1週間後、そこで何をしていたのか、量子探偵業務を行った。

 更にそこから1週間が過ぎ、がけの上でαアルファγガンマを、どの様に連れ去ったのか。

 一連の流れをまとめて貰っていたのだ。


 「ええ、いまがた

 「そっか、それで明乃あけのちゃんさ、旧道のαアルファγガンマ、2時間以上とどまってたよね。さくたんにも見せられると思う」

 「いいえ、所長の思っている通りではないかと」「だよね」「えええぇぇぇ~~~」


 「と言う事で、客もいない事だし、お店準備中にして鍵かけて来て」

 「ミス・テリーとかぴたん入れないよ」

 「明乃あけのちゃん、まもちゃんに連絡入れて」

 「分かりました」

 「さくたんは鍵をめたらはじめちゃんを呼んで、家に上がって、桜花おうかにも見ない様に言って、一緒に遊んであげてくれない。ミス・テリーとかぴたんとも」


 「えええぇぇぇ~~~大人だしぃ~」「ん~~~、もうちょっとね」

 「セクハラァ~~~」「あっ、さくたん、悪いけどコーヒーを下げてくれない」

 「えっ、いいの」「大人だから」

 かちゃかちゃ。「持って行くよ」「ぉっ、・・・ぉ~~~」行ってしまう、憧れの君。

 「おっちゃんこれ、にやにやしてただけで口付けてないよね」「残念だけね」

 「じゃぁ~私が貰ってもいい」「いいよ、直ぐに酸化しちゃうから」

 「もぉ~らい、どれどれぇ~」つぅ~~~。

 「!、何これうまっ」くそぉ~~~。


 ミス・テリーとかぴたん、まもちゃんと娘子隊じょうしたいの子達も帰って来た。

 ミス・テリーとかぴたんは、マンション桜花おうかの家で、さくたんが作ったおやつを食べているはずだ。

 桜花おうかも3人とお話をしたり、ゲームをしたり、さくたんと一緒にミス・テリーとかぴたんの宿題を手伝ったり、なかが良い。


 観測結果を8人で見るには、タブレットはさすがに小さいので、壁掛けの65型モニターにうつす事にした。

 操作ははじめちゃんがタブレットで行ってくれる。


 「桜花おうか、絶対のぞかない様に」「はぁ~~~い」

 「それじゃはじめちゃん、お願いするよ」

 「分かりました。では時系列に沿って、がけの上のαアルファγガンマから、その後続けて旧道のαアルファγガンマを再生します」


 「はじめちゃん、証拠になる物が無いか探したいけど、拡大とか出来るよね」

 「ええ、出来ます。でも余り細かいのは無理ですよ」

 「どのぐらいまでいけるかなぁ~」「そうですねぇ~、髪、一本ぐらいまでなら」


 「うん、十分だね、3Gまで耐えた甲斐かいがあったよぉ~」

 「出来ればもうめて下さい」「おや心配してくれるの、嬉しい」

 「いえ、ミス・テリーとかぴたんが可哀かわいそうです、代替だいたいが見つかるまで控えて下さい。どうしてもと言う時は、大気圏外でお願いします」

 「解ったよん」何だよ頑張ったのに。でも今死ぬ訳にはいかないね、確かに。



>ZCEH年 7月03日08時30分 がけの上■

 ぴっぴっぴっ。『ツルルルルル、ツルルルルル、ツルルルルル』

 「くっそっ、出ろよぉーーー」『ツルルルルル、ツルルルルル』ぴっ。『ツル』

 「なんでだよっ、何時いつも用の無い時は顔、出しやがるくせにっ」

 ぴっぴっぴっ。『ツルルルルル、ツルルルルル』「出てくれよぉ~」

 がちゃ。『はいっ、K警察署、どうかしましたか』「あっ」


 『落ち着て、私以外の誰にも聞こえていませんよ』「あっ、・・・え~と」

 『私はK警察署のΔデルタと言います。お話しいただいた内容や個人の情報がれる事はありません。安心してお話下さい』


 「所長、Δデルタですよ、やっぱりΔデルタ」「まもちゃん静かに」


 「あの、・・・俺ですγガンマです」

 『ぁ~、担当のΔデルタです。αアルファさんと又トラブルでも』

 「ぁ~~~、被害届の取り下げを、・・・何とかお願いできませんかっ」

 『先日もお話しましたが、取り下げにはγガンマさんだけでなく、βベータさんの同意もいただきませんと、受け付ける事が出来ないのです』


 「γガンマの後ろに、缶コーヒーが置かれました所長」

 「友人、引き上げるの早いねぇ~、警察と話してると思ったら、そうかもね」

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