第31話 研修旅行と言う事に

 昼下がりの窓辺まどべには、朝とは逆の傾きでが入って来る。

 とても明るくて生き生きとした輝き。

 なのにどこか哀愁あいしゅうを感じる。

 時が刻々と進み、時が過ぎ去り、今が確定した過去となって行けば、その先に待っているのは、輝きを失い、光を失い、影を失った夜の世界だからだろうか。


 BGMはモーツァルト、レクイエム『怒りの日』。

 強く激しく叫びたい。


 紅茶はアッサムにシナモンスティックを浮かべて香り付けをする。

 深く息を吸い、まずは香りを楽しもう。

 ん~~~、落ち着くぅ~~~、口にすればスパイシーな味わい。

 気を静めろ俺、椅子に深く身を沈め、揺蕩たゆたうのだ。


 ぎぃ~、ぎぃ~。明乃あけのちゃんは何て言ってたっけ。

 ぎぃ~、ぎぃ~。明日はくたくたで動けないから、明後日あさって

 ぎぃ~、ぎぃ~。今日はその明後日あさって、2泊するって言ってたっけ。


 「桜花」だんまりだよ。

 依頼した事はしてくれるけど、居場所を聞こうとすると無言。


 ぶ~ん。しゃ~、ばたん。ばたん。ばたん。

 きゃっきゃ、きゃっきゃ、わいわいがやがや。がらんがらぁ~ん。

 「たっだいまぁーーー」「帰ったぁ~」

 「娘子隊じょうしたい、3等陸曹りくそう防人さきもりっ、帰還しましたっ」


 「娘子隊じょうしたい、2等空曹くうそう

 「ちょっと、早く入って」「ぇぇぇえええ~~~、名乗らせて下さいよぉ~」

 「はいはい、また今度ね。後がつかえてるんだから、早く入って」


 どたどたどた。どさ。ばた、。どて。

 ばさ。「やふぅ~~~」

 ばさ。「Yeah~」

 ばさぁ~。「ぅ~~ん、久々に遊んだぁ~」


 皆してソファーに沈み込んで、やっと帰って来たよ。

 ・・・まぁ~、眺めは悪くないかな、ん~~~、むしろいい。

 しかし、聞かずばなるまいっ。


 「明乃あけのちゃん、お疲れの様子だけど、2泊とは聞いてなかったと思うんだけど、どうかな」

 「え~、日帰りの予定でしたから」開き直ったな。


 「どう言う事かお聞かせ願おうか、内閣情報調査室、内閣情報官、内閣情報センター次長、明石あかし明乃あけのさん」

 「あっ」すた。たたた。「Oh」すた。たたた。「おっちゃん」すた。たたた。

 ん、何、3人で。


 「ぱぱさん、おみやげぇ~~~、はい、かぴばらだよ」

 そうかぁ~、俺に買って来てくれたのぉ~。

 「かぴばらの縫いぐるみか」まぁ~、普通だな。「ありが」


 「ぱぱさん、連れていかれない様にしてぇ~」「えっ、何に」

 「かぴばら、かぴばらはね、堕天使見習いなのね、夜中なるとちょうちょさんのさなぎみたいに背中がぴっしって割れてね、なんかぐぅわぁ~~~って言うのが出て来て連れて行っちゃうんだよ」

 「・・・ほぉ~~~、どこに」「分かんないけど、凄いところ」

 「・・・有難うかぴたん、気を付けるよ」「え~へへへぇ~」


 「私はこれ、ちちにあげる、ぬ子」棒切れを持った猫の縫いぐるみか。

 「猫か、ありが」

 「たたかれるよ、百裂拳ひゃくれつけん、にゃっにゃっにゃっにゃっ、うぅにゃぁ~~~て」えっ。

 「ど、どうしてかなぁ~、明乃あけのちゃんにだいぶたたかれてるから、いやか」


 「・・・いらないの」ちょっ、ミス・テリーべそかかないでくれる。

 「い、いるよぉ~、有難うミス・テリー」「うんよし」あぶねぇ~。

 「でぇ~、たたかれない様にする方法は無いのかなぁ~」

 「またたびかみかんを毎日ささげるべし」「毎日」

 「そう毎日」「心がけるよ」「よしっ」


 「おっちゃん、私はねぇ~、これ、ペンギンッ、赤いリボンが可愛いでしょぉ~」

 お~、なかなか愛嬌あいきょうがあるね。「おっ、お~」

 「私のは凶悪な設定はないよ」「そうか、ありが」「ただね」えっ、何。

 「見守ってくれるだけだから」ほぉ~~~、安心したぁ~。


 「ずぅ~~~と」「ずっと」

 「そうずっと、おっちゃんが誰かとあんな事やそんな事をしている時も、ずぅ~~~と」

 「返すよ、さくたん」「ぇぇぇえええ~~~」「だって俺だってプライバ」

 「だめ、ねぇ~だめ、なの」また、ん~~~。「も、貰っとくよ有難う」


 「ふっふぅ~~~ん、Yeah~、ミス・テリー、かぴたん」ぱちん。ぱちん。

 たたたたた。「Yeah~」ぱちん。「Yahoo~」ぱちん。

 「「「「「Yeah~~~~」」」」」ぱちん。ぱちん。ぱちん。ぱちん。ぱちん。


 皆のいるソファーに戻って、ハイタッチ。

 また、められた様な気がする。


 「それで明乃あけのちゃん、他の子の親御さんには連絡したの」

 「はいっ、しょっ、失敬しっけい、マスター」

 にこにこしてさぁ~。「どうしてこうなったの、日帰りじゃなっかたの」

 「いやぁ~、成り行きでぇ~」見渡すと、みぃ~んな、うなずいてる。


 「それはいいよもう、報告書に書ける様なもっともらしい理由はあるんだよね」

 「ありますよぉ~、見て下さいっ、さくたんも、ミス・テリーも、かぴたんも元気いっぱい、私達もリフレェ~~~ッシュ、髪もお肌も艶々つやつや

 まぁ~~~、そうな、3人とも元気だし、皆どことなく開放的な服装で良い感じだねぇ~~~、お~~~実にけしからんなぁ~~~。ご機嫌もいいし。


 「分かったっ、じゃぁ~、量子探偵事務の士気を高め、要護衛対象のストレス緩和かんわに努める為の研修旅行と言う事にして、食い違いが出ない様にちゃんと書いてちょうだいよぉ~」

 「「「「「「「「了解っ」」」」」」」」


 「ミス・テリーとかぴたんは、宿題をちゃんとするいいかな」「「はぁ~い」」

 「さくたんっ」「な、何」「桜花に居場所を知らせる様に、教育してね」

 「まぁ~かせて」「桜花、スクランブルをONにして、座標をおっちゃんだけに定期発信ね」

 「わかったぁ~」

 「本当にわかった、だんまりはだめだから」「あいっ」


 「でぇ~明乃あけのちゃん、量子探偵」たたた。たたた。たたた。

 「おっちゃん」「ちち」「ぱぱさん」袖をひっぱって何。

 「どった」「あのね、かぴたんね、カラオケがしたい」


 「あ~~~でもミス・テリーとかぴたんは疲れてるでしょうよ」

 「大丈夫、歌って踊りたい気分」「明日学校じゃなかったミス・テリー」

 「おっちゃん、カピバランドで近々ちかぢか、『曇りの日でもドラゴン日和』と『☆スクールバッグのまおうさま☆』のエリアがオープンするの」


 「あ~そうなん、それで量子探偵業務と何の関係が」

 「ちち、キャラクターのオーディションがある」

 「ぱぱさん、そうなの、かぴたんは麗音れおんちゃんになるんだぁ~」


 「皆出るの」ソファー側を見渡すと、首振り。

 「残念な事に、15歳までなんですよぉ~」なるほど、・・・残念て。

 じゃぁ~。「さくたんは出るの」「うんその予定」何時いつに無く元気そうだけど。


 「桜花、量子探偵業務を実施するに当たり、現在不足しているものは何かなぁ~」

 「お~、データテーブルは出発までに出来てるし、他の準備も出来てるから重力発生源だけかな」

 こんなに多くの女子に見つめられるのは初めてだが、・・・嬉しくない。


 「分ったよ、ジャージに着替えて、タオルを持って来るよ。2時間頂戴ちょうだい

 「やふぅ~~~」「ふっ、リィは私に決まり」

 「ミス・テリーいいの、かぴばらに囲まれる夢を毎晩見るんだよ」「サラにする」


 つかつかつか。「所ちょ、うぅん、失敬しっけい、マスター」

 「早くっ」なっ、何時いつの間にお盆を。

 がたっ。「分かった、行くよ、暴力反対」


 「さっ、さくたん、ミス・テリー、かぴたん、早めにお昼を食べて、少しお昼寝しましょうか」

 「「「はぁ~い」」」


 「はじめちゃん、少し打ち合わせと閉店業務を手伝って」

 「まっ、仕方ないわね」


 「まもちゃんと娘子隊じょうしたいは先に上がって、お昼の用意と昼寝の準備を」

 「了解」「「「「ほぉ~い」」」」「あっ、マンションの方から上がってね」

 「心得てます」


 「あっ、娘子隊じょうしたいで車の装備、ゴム弾以外は地下格納庫へ移してから上がって」

 「「「「了解です」」」」


 「さくたん、ミス・テリー、かぴたんお家に上がるよ、荷物持って」

 きゃっきゃ、きゃっきゃ。「「「あいあい」」」わいわいがやがや。がらんがらぁ~ん。


 「俺も行くよ。あとよろしくぅ~」

 たんたんたん。がらんがらぁ~ん。

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