第27話 第2次世界大戦の遺物

 くすんだ色合いの木目の部屋、何も変化しないと思える時間。

 窓辺まどべを見つめよう、憧憬しょうけい光明こうみょうをきっともたらしてくれる。

 窓枠に色が付き、金色こんじきの光がふわぁ~と差し込むと、色褪いろあせていた部屋がカラフルに色付く。


 BGMは、何だろうか。

 古いタイプのパイプオルガン、この素朴で中世の教会を思わせる音色。

 聞き覚えはある。きっとブクスハイム・オルガン曲集のどれかだと思う。


 少しバニラ風味の香りが漂う、キリマンジャロコーヒーのストレート。

 口にすると、野性味あふれる強い酸味、コクもあり、深煎りの落ち着いた苦み。

 流石さすがに最高グレードの豆と言う訳には行かないが、高いグレードの豆を使っている。


 ロッキングチェアーに座り揺蕩たゆたう。

 嗚呼ああ、求めてまない俺の職場がここに在る。


 つかつかつか。「所ちょ、うぅん、失敬しっけい、マスター」

 むっ、来たなぁ~、魔王っ。

 平和な時を過ごす人を蹂躙じゅうりんする者、その名は明乃あけのちゃんっ。


 「明乃あけのちゃっ、・・・ん~~~」

 おっ、おおおぉぉぉ~~~、メイド服の明乃あけのちゃんがスカートをちょっとずり上げて、見慣れているんだけどなぁ~、何かどきどきするね、うんうん。


 「あーーー、さくたんっ、はじめちゃんっ、ちょっと来てっ、マスターが明乃あけのちゃんの太腿ふとももを凝視してますっ、セクハラですぅーーー」

 だんっ。どたどたどた。「あーーー、おっちゃんやらしいぃーーー、セクハラッ」

 「セクハラですねっセクハラですねっセクハラですねっ」


 「あ、いやっ、さくたん、まもちゃん、はじめちゃん、ちがっ」

 ばこっ。・・・ぅ~~~、本能にうったえるなんて、ずるいぞぉ~~~。

 「明乃あけのちゃん、ずるくない、お盆でたたかられるの納得がいかないんですけどぉー」

 「だぁ~てぇ~、まもちゃんが嫌っ、て言うからぁ~、仕方ないでしょぉ~」


 「しなければ良いでしょうよっ、痛いんだよっ、木のお盆だよっ」

 「日常って、ほっとするじゃないですかぁ~、ねぇ~~~」つかつかつか。

 「「「Yeah~」」」ぱちん。ぱちん。ぱちん。

 なっ、カウンター越しにハイタッチ。


 さくたんもはじめちゃんもまもちゃんも皆ぐる。

 「数の暴力だぁーーー」「嫌だなぁ~~~、おっちゃん、真理だよ」

 「さくたんっ」「あーーー、おっちゃんがいじめるぅ~」

 がたがたがた。「「「妹をいじめると、ただじゃ済みませんよっ」」」


 「はいはい、もういいよぉ~、それで何」

 「「「「ふん」」」」皆して親指立てるなよ。

 ミス・テリーやかぴたんが汚染されてなければいいけど、・・・無理だよなぁ~。


 「おっ、あの脇道分かりました」

 「あ~、それで、まもちゃん、お店閉めて、臨時休業、対策会議するから」

 「はぁ~~~い」「悪いけど、皆も手伝って閉めてくれない」

 「皆、おっちゃんは」「お~さくたん、俺はね、ここを守るっ」「もう聞かない」



 ささっと臨時休業にしたのだが。

 「はじめちゃんあっちね、さくたんこっち」

 「はぁーーー、あ、け、の、さん何言ってのぉーーー、明乃あけのちゃんが向こうに行けばぁ~」

 「あっ、じゃぁ~私がさくたんの隣で」「「あ~~~」」

 態度たいどわるっ、何なのこの子達は。


 ロッキングチェアーを、真ん中のソファーの前のテーブルの所まで移動させた。

 ソファーは詰めても3人、1人はロッキングチェアーに座る事になるので、誰がさくたんの横に座るかを決め様としている。


 「あーーー、もうっ、私がおっちゃんの横のロッキングチェアーに座るっ」

 「なっ、何言ってるのさくたん」「だっ、だめよさくたん、けがされる」

 「やっ、止めた方が良いと思うさくたん。子供ができちゃよぉ~」

 「できるかぁーーー、早く座ってくれ」「「「ぶひぶひぶひ」」」「ぶひぶひ言わないっ」


 ぎしぃ~。「あ~これ楽ぅ~~~」「でしょぉ~」

 ぎしぎしぎし。「うん、離れたくない感じわかるぅ~、あっ、まもちゃん今日黒なの」

 「はっ」えっ、見えるのっ。


 「おっちゃん、見えるわけないでしょぉ~、黒なら尚更なおさら、引っかかった引っかかったぁ~」

 「んーーー、なんだよっ、皆して、にっとかっ、はいっ、始めるよっ」

 たくぅ~、思いっきり汚染されてるじゃん。


 「はいっ、明乃あけのちゃんよろしく」

 「おっほん、桜花、モニターに最新の地図と古い地図を重ねて表示して」「は~い」

 タブレットをテーブルに置いて、明乃あけのちゃんが桜花に依頼をすると、ソファーの向かいの壁に掛かっている65型のモニターに地図が映された。


 「これ、からだひねるとちょっとしんどいね、おっちゃん」

 かたん。「そうかな」俺は立ち上がり、さくたんの方へ。

 「きゃぁ~~~、襲われるぅ~~~」「襲わないから、立って」「うん」かたん。

 「よっ」がったん。「はい、いいよ」「ありがとねぇ~、おっちゃん」モニターへ向けた。

 「くぅ~~~」「あの椅子、重いのよ」「そうなんですよねぇ~~~」

 俺は自席に戻り先をうながす。「で、この地図は」


 「まずこれまでの観測点を認識していただく為に、注目してもらいたいのが、向かって右下から上に伸びている赤い道、ルートATです。右上から左上に向かって伸びていて、右上でルートATと交差している黄色い道が県道44号です。交差点は観測点の十字路です」

 「県道44号の左側に書いてある大足トンネルと言うのが、あのトンネルですかねぇ~」

 「そうよまもちゃん」


 「じゃぁ~、十字路とトンネルの真ん中辺りに、上から灰色の道が繋がっているのが車を見失ったT字路なの」

 「そうよさくたん」


 「ねぇ、灰色の道の先、県道44号をまたいで、くねくねとした緑色の線は何」

 「はじめちゃんおさっしの通り、これがあの脇道で旧ルートAT。谷を渡る大きな橋が出来て、それを渡っているのが現在のルートAT」


 「また随分な道だねぇ~、山間やまあいう様にくねくねと」

 「はい所長、この道は現在廃道はいどうに成っています。もともとは第2次世界大戦中、物資を運ぶ為にZCBP(S.P)年に陸軍の要請によって、突貫とっかん工事で開削かいさくされた道で、戦後一般に解放されましたがこのんで使う人はなく」


 「現在は廃道はいどうになっていて、地図にらない、と言う訳ですか」

 「その様です。所長」

 「気付かないはずねぇ~」「そうね」「ですねぇ~、反則ですねぇ~」

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