第23話 Object lost《オブジェクト ロスト》

 「来ましたっ、直進ですね」「何処へ向かっているのでしょうか」

 「はじめちゃん、ぱぱさんアース立ちあげれるかなぁ~」

 「ええ、勿論もちろん

 タブレットに地球が現れ、そこから県道44号の初めのT字路の先を見れる標高にしてもらった。


 「トンネルの手前までは、脇道がありません」

 「トンネルを越えたここは、入れそうだし山肌が見えてるよ」


 「はじめちゃん、大きくしてくれない」「はい、待って」

 「ん~~~、車が止まっているのが写ってますね、何かの現場でしょうか」


 「そうかもね、まぁ車が止まっている時点で、小心者しょうしんものの俺は嫌だなぁ~」

 「仕方ありませんね。トンネルの手前で予備観測をしましょう」


 「はじめちゃん、さっきみたいにさ、T字路を過ぎた辺りから、何点かまとめてできない」

 「無理ですね。標高が違い過ぎますし、何より直線状に無いですから」

 確かに、山道だから登ってるし、大きく曲がってる。

 ん~~~、闇雲やみくもにと言うのもなぁ~、トンネルに何かあるのか。


 「はじめちゃん、ぱぱさんアースで、トンネルの2~30m手前から近付いて行けない。何が写ってるか見たいんだけど」

 「出来ますよ」


 はじめちゃんが表示されている県道44号をタップすると道に近付く。

 「この辺りでしょうか」「うん、お願いするよ」

 当たりを付けてもう一度タップすると、ストリート何とかになる。

 広角の道の写真が表示される。


 右手に山と草木、左手は下がっている様で、ガードレールとその先は木々の先端が低くなっていき遂には目線より下になる。

 「はじめちゃん、トンネルに近付いてってくれる」「ええ」

 はじめちゃんが、一点透視とうしの道の先をタップする。


 もやぁ~と表示が不鮮明ふせんめいになって、そのあと次の写真に切り替わる。

 トンネルが見えて来た。


 おっ、トンネルの左手がひらけてる。へぇ~、右手は階段か。

 「はじめちゃんここ近付ける。階段かな」

 「待って下さい。・・・手入れはされてない様ですが、階段ですね。手すりもあります」


 「はじめちゃん、左、左にって」

 「ええ、随分ずいぶん広いわ」

 明乃あけのちゃんの言う通り、左側にって見ると、草が生えているが背が低い、開けたスペースがある。


 進入できない様に手作りのさく、と言っても持上げて動かす事が出来るし、トンネル側に一つ、その反対側に三つ置いてあり、間はロープを張ってあるだけだ。

 広さは中型のトラックが、2~3台はめられそうだ。


 奥に進めば山の中に入れる。反対側の階段を登っても山の中に入れそうだ。

 日中でも車が通ってる感じも無い。さくは男が二人いれば十分動かせる。

 目的地はここか。

 「打って付けの場所じゃないですかぁ~」「まもちゃんもそう思う」


 「いや、他に無いですって、トンネルの先は脇道無いし、更にその先は町ですよ」

 「そうねぇ~、はじめちゃん、階段でも空き地に車を止めるにしても、その手前は通る事になるわよね」

 「え~、妥当だとうだと思うわ」


 「問題はミス・テリーとかぴたん」

 ♪「「ざぁ~んこくな警察のよぉ~に、おっちゃんよぉ~ある意味伝説になぁ~れぇ~」」

 ちょっと待てぇーーー、伝説になりたくないよ。「まだ大丈夫そうです」読まれた。


 こうして再び予備観測を始めたのだが、想定外の事態におちいった。

 「ぅ~~~私もう眠い」「かぴたんもぉ~」

 「ほらもうちょっと頑張って、さくたんが手を振ってるから」

 「「ぅ~~~」」「はぁ~い、もう終わりにしようねぇ~、お風呂入って寝ようね」

 T字路からトンネルの間を4回も予備観測を行ったのだ。


 「ゲージを見てぇ~」「ぅん~~~」「うにゃぁ~」

 「もうちょっと、かぴたんかぴたんっ、もう少しだから、ゲージが歪んで見えてるよっ」

 「ぅ~眠ぃ~」「ぅっぃ」

 「ミス・テリー、ミス・テリーッ、頑張ってっ、所長が光出してるっ」

 「ぅぃ」「ん~」

 「その調子、いいよぉ~、はいっ、切って」「「みゃっ」」

 おおおぉぉぉ~~~、・・・死ぬかと思ったぁ~~~。

 「おねむしてて」「「ぁ~ぃ」」

 俺は床に座り込んだ。「・・・疲れた」



 「娘子隊じょうしたい、ミス・テリーとかぴたんを連れて家に上がって、それで今日は泊まっていて頂戴ちょうだいまもちゃんは残って」

 「「「「了解っ」」」」


 「よっ、ミス・テリーつかまって」「にゅ~」

 「はぁ~い、かぴたんも、ほら、つかまって」「にゃぅっ」

 「「「「娘子隊じょうしたい、撤退します」」」」どたどたどた。がらんがらぁ~ん。


 さくたんとはじめちゃんがメインコントロールルームから出て来た。

 「さくたん、悪いけど残ってくれない」

 「うん、そのつもり、消えてしまうなんて考えられないもん」

 「きっとどっかに見落としがある。消えるとか有り得ないわ」


 そうだ、曲がっていても一本道。

 にもかかわらず、座標を変えて予備観測を繰り返しても、T字路とトンネルの間の何処どこにも現れなかった。

 お陰で予算を使い切ってしまった。


 「でね明乃あけのちゃん、方向性だけ決めてさ、休ませてくれない」

 「仕方ありませんね。ミス・テリーとかぴたんもだいぶ疲れてましたし、今後の課題ですね」

 「でっ、どうすんのおっちゃん」


 「さくたんとはじめちゃんはどう思う。本当に消えた。量子探偵業務の仕組みについて、最もわかっている訳だし」

 「物理的に消失する事はありません。考えられるのは重力子がとどかないところに入った」


 「はじめちゃん、それは」

 「ええ、さくたんわかってる。重力波は時空それ自体が振動しているから防げない。他の理由は、転写した量子もつれの状態が消失して、向こうの状態が伝わらなくなった」


 「それは起こり得るの、はじめちゃん」

 「頻繁ひんぱんに、だから常に量子もつれを作っては転写して送ってるの、桜花が無ければ管理できないわ。だけどこれまでこんなに多くを失敗する事は無かった。それに背景は色までちゃんとれてる」


 「ん~~~、さくたん、改修したでしょうぉ~、ちょっとバグちゃったて事は」

 「無い、と思う」「弱いね」

 「科学や技術に100%なんてない、それは幻想。だから私達は探求し続けるの」


 「なるほど、桜花、意見はあるかい」

 「少なくとも今回の観測が失敗した痕跡こんせきはないよぉ~。量子もつれの状態はちゃんと観測される」

 「じゃぁ~、技術的な問題でないとすると、私達のヒューマンエラーですかねぇ~」


 「まもちゃん、思い当たるところある」

 「ん~~~、私達はミス・テリーとかぴたんと一緒になって楽しんでますから、どうかなぁ~」


 「はじめちゃん、さくたん、重力波は観測されてたよね」

 「されてたよ、おっちゃん」「ええ、各チームからデータが来てましたから」

 「桜花も同じかい」「うん、来てたよぉ~」


 「ほぉ~~~、俺じゃない」じぃ~~~~~~。

 「えっえっえっ、私っ」「消去法だとそうなるねぇ~、明乃あけのちゃん」

 「いやいやいや、私も皆と一緒に、ほらコスプレもしてるし歌も歌ってたじゃないっ」

 「となると」「私、私ですか、ですか」


 「落ち着いてはじめちゃん、ん~~~、皆だね」

 「何がです」「皆だよ皆、ここにいる全員が、何かをしてるんだよ、だからわからないんだよ」

 「それじゃ、どうするの、おっちゃん」


 「決ってるよさくたん、今ここにいない人に聞くよ」

 「ミス・テリーとかぴたんを連れて上がった4人、娘子隊じょうしたいのメンバーですね」


 「よしっ、方向は決まったっ、飲んで食って寝る。俺は寝るよっ」

 「ちょっと待って下さいっ、予算が」


 「明乃あけのちゃんに任せたっ」「そんなぁ~」

 「明日明日さぁ~、俺も話に加えてよ。意外とじいちゃん受けはいいんだよ、俺」

 「分かりました」


 「とにかくさ、もう、休ませて」「はいはい、じゃサンドとスパで良いですか」

 「うん、何でもい、あっ、皆上がって」


 「そうだっ、所長っ、ビール買ってますよ。ハイネケンッ」

 「ぉぉぉぉおおお~~~、バドワイザーがかったなぁ~」

 「もぉーーー、買って来ませんよっ」「有難う、いただまもちゃん」


 床に座り込んで動かない俺を見て、明乃あけのちゃんが喫茶用に使っているワゴンの中段にサンドとスパ、上段にハイネケン3本を乗せて来てくれた。

 「空調はそのままにしときますね。あと寝袋、ここへ置きますよ」

 「おっちゃん、ささっと片付けて、私達上がるからね」

 「うん、皆お疲れさん」


 俺は腹が膨れると、睡魔すいまに襲われた。

 どうせなら妙齢みょうれいの女の子に襲われたいが、残念ながら今日は、そんな夢を見る余裕もないだろう。

 まだ2本残ってるんだがなぁ~、背中を床に全部預けると、もうどうでもいいや。

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