第16話 タイトです

 が西に傾き、窓辺まどべに在った天使の階段も、妖精の羽搏はばたきの様にきらめくほこりも消えてしまった昼下がり。


 ロッキングチェアーにられ、ブラジル産の苦みの少ない、さわやかな酸味とバランスの取れた味わいを楽しみながら、優雅ゆうがに時の流れに任せて揺蕩たゆたう。


 窓から見える景色、行き交う人、気まぐれに通りかかる猫。

 無声映画を見ている様だ。

 しかし、BGMはワーグナーのワルキューレ騎行。

 ここは今、それにふさわしい喧騒けんそうに満ちていた。

 俺だけが別世界だねぇ~。


 「いえっ、ですから先ほど申し上げた通り、この案件には異なる2つの」

 「さくたん、高密度観測、35分だし短くならないかしら」


 「そうですっ、いえいえ、こちらも努力はしているんです。予備観測は必要です」

 「ん~~~、重力子の密度を上げる事ができれば、何とかなるんだけど、おっちゃんが」

 えっ、俺、これ以上過酷かこくになると本当に死んじゃうよ。


 「そうですっ、ええ、高密度観測だけではもっとかかりますっ」

 「そう~、所長ねぇ~、ぷちっと行ってもいいんだけどなぁ~、私的にはもっと若くて、イケメンがいいなぁ~」

 ちょっ、はじめちゃんっ、何物騒ぶっそうな事言ってるのぉ~。


 「ご理解頂けましたか。量子事件1案件辺り、2回の量子探偵業務が必要で」

 「あっ、それわかるぅ~~~、私もぷわぁ~~~と、はじけ飛んでもいいかなぁ~て」

 ちょぉ~、さくたんっ、地球が滅ぶよっ。


 「誰の趣味」「明乃あけのちゃんでしょう」

 「ではよろ、ちっがうわっ。あっ、いえいえいえいえ、すみません。こちらも準備に追われておりまして」

 あ~、誰か一人ぐらいかばってくれてもいいんじゃない。


 きゃっきゃ、きゃっきゃ、わいわいがやがや。がらんがらぁ~ん。

 「たっだいまぁーーー」「帰ったぁ~」「防人さきもり3等陸曹りくそう娘子隊じょうしたいっ、帰還しましたっ」

 もう、いいよ。好きにして、俺も好きにするからぁ~。


 「はじめちゃんっ、ミス・テリーとかぴたんが帰って来たっ」

 「ええ、スケジュールはこれで良いと思うし、捕獲ほかくする」

 「はい、今後の見積もりは、観測方法に変化がない限り、今回の案件が基本になると思います」


 「・・・げへへへ」「ぐふ」「「ミス・テリーーー、かぴたん来たぁーーー」」

  がたっ、どたどたどたどた。「私の妹ぉーーー」「私の妹達ぃーーー」


 「「いやぁーーー」」「さくたん来たっ、はじめちゃん来たぁーーーーーー」

 どたどたどた。「かぴたぁーーーん」ばたばたばた。「やぁーーー」

 どたどたどた。「ミス・テリーーー」ばたばたばた。「Ohーーー」

 「ぁ~~~私も、あっ、はい、では申請書はのちほど、はい、よろしくお願い致します。あっ、息子さんではない、若い男性の方にもよろしくお伝えください」

 ぶっち。「もうぅ~いきなり切るかなぁ~」

 どたどたどた。「かぴたぁーーーん」ばたばたばた。「やっやっやぁ~」

 どたどたどた。「ミス・テリーーー」ばたばたばた。「OhOhOh~」

 せまいんだからめなさい。娘子隊じょうしたいの子達もにこやかにしてないでめてっ。

 最近お客が少ないの、これじゃないの、全然落ち着かないよぉ~。


 「皆、聞いて」どたどた。「「ミス・テリー、かぴたぁーん」」「やっ」「Oh」

 おっ、明乃あけのちゃん、予算確保できたかなぁ~。


 「予算、かぁーーーくほぉーーー」

 ぉぉぉおおお~~~、流石さすが明乃あけのちゃん。色々つかんでるのね。

 「「「やふぅーーー」」」「「「「「やたぁーーー」」」」」「あのぉ~~~」

 おや、めずらしくはじめちゃんが手を上げたね。


 「めずらしいですねぇ~、はじめちゃんが手を上げるの」

 「何か、見落としがあったかしら」


 「いえ、今日のカラオケ大会、もとい量子探偵業務のお題なのだけど」

 「あ~かぴたん、またしゃぁーーーってしたい」ははは、また猫だね。

 「OKですっ、この前の衣装とってあるよぉ~」「やふぅ~~~」


 「ミス・テリーもするでしょう」

 「Yes!、今日こそ生贄いけにえのお尻にしてやるぞぉ~」

 ははは、見てみたいなぁ~。


 「それは任せるはまもちゃん、それで、はじめちゃんは何を」

 「あ、う~ん、いもぉ~と縛りぃ~、とか、足せないかなぁ~」

 「「「「「「「なっ、・・・んだとぉ~」」」」」」」


 「いっ、妹、縛り、がっはっ」だん~。

 「何てこと、何故なぜ今まで気付かなかったの、響きが、良いぃ~」

 いやいやいや明乃あけのちゃん、ひざを着く様な事は無いでしょうよ。


 ざっ。「・・・どうしてこっちを見るの」「かっ、かぴたん何もしてないよ」

 「ミス・テリー、かぴたん、嫌、かな、防人さきもり3等陸曹りくそう、全力でしたいであります」


 「・・・いいけど」「か、かぴたんもいいよ」

 「「「「「「「「Yahooーーー」」」」」」」」

 「所長、良いですよね、ふんっ」「ん~~~、量子探偵業務に必要なんだよね」


  「「「「「「「「超必要っ」」」」」」」」だめって言ってもするんでしょうよ

 「はい、分かりましたよ。それじゃ明乃あけのちゃん、業務連絡を」

 「でもかぴたん、アニメしか分からないよ」「うん、同じ」


 「任せて、おっほん。本日、17時から量子探偵業務を実施ます。皆タイトですが最終チェックをお願いします。今日は『アニソン&ロックもあり、歌わない奴は生贄いけにえにするぞぉ~、プラスゆるゆる妹縛り』です」


 「ゆるゆるって何」

 「ミス・テリー、アニメの中やお歌に、“妹”が入っていればOKよ」

 「それならかぴたんもできる」「うん、分かった。超歌いたいのがある」

 「あ~、私もそれなら分かるかも」「さくたん、私の気持ちを伝えるから」

 「いらない」「ぐはっ」良く分からん子達だなぁ~。


 「はいはぁ~い、それじゃ、ミス・テリーとかぴたん、おやつ食べて、宿題をやって」

 「「え~」」「宿題はちゃんとするの」

 「ぶぅぶぅぶぅ」「かぴたん、豚さんにならない」

 「ぶぅぶぅぶぅ」「ミス・テリーも真似しないの」きゃっきゃ、きゃっきゃ。

 「それでは、時間がありませんので始めて下さい」たたた、ばたばた、どたどた。

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