第14話 電脳、桜花

 「そうだね、どのみちこのまま放置はできない。でぇ~明乃あけのちゃん、予算、あるの」

 「あと1回分は確保してあります」


 「そう、・・・じゃぁ~まずγガンマが7月3日朝、どんな地理的状況にあったかを確認しようか」

 「そうね、量子探偵業務を行う為に、桜花を動かす為に具体的な時間と座標が必要だし」

 「明乃あけのちゃん、地図地図」「ちょっ、まもちゃん達押さないで」


 ん~~~、今度タブレットも追加で予算申請しんせいしよう。

 桜花に接続する物だから、セキュリティーも応答速度も特別の特注品。

 流石さすがに1台じゃ足りないねぇ~。


 「ここですね。γガンマ消息しょうそくを絶った自殺の名所」

 ぱぱさんアースに表示されたそこは、木製のデッキが有り、あおく美しい海を見下ろす。

 海から視線をデッキに戻してくると、草と木の天辺てっぺんが見える。

 その下にあるだろう地面を確認しようとデッキから乗り出すと、お股がひゅーとなる事必死、標高120mの断崖絶壁だ。


 「おほぉ~、高ぁ~こわっ」「空自でしょう」「こわい物はこわいんです」「ま~ね」

 「γガンマはここでβベータ2や友人に自殺をほのめかすメールをし、それを受けた友人が駆けつけた。その時恐喝きょうかつ事件の内容で電話をしていたので、友人は警察と話していると思い、缶コーヒーをうしろに置いて帰ったと証言しています」


 「警察には連絡しなかったの」「だよね」

 「βベータ2が連絡したらしいけど、警察は動かなかったわ」

 「え~どうしてぇ~」御免ごめんなさい。


 「分からないけど、Δデルタが何かしたのか。あるいはこの事案をクローズさせて、正体不明の内通者ないつうしゃの件を隠蔽いんぺいしようとしたか。その両方。又はただ単に朝早かったから、そしてこの数時間後、展望台の清掃員によってγガンマの財布と靴が見つかり警察に連絡が入った」


 「あの~~~」「何、空自のくぅ~ちゃん」

 「違います、空自ですけどくぅ~ちゃん違いますっ。ここ観光地ですよね。なのに目撃者がいないんですよね、朝ですよね、そんな時間帯あるんですか」


 おおおぉぉぉ~~~、もっともだ。「「「「「「「お~~~」」」」」」」

 「ちょっと待って」明乃あけのちゃんがネットを調べ始めた。

 ぴっ、ぴぴぴぴぴっ。「もうぅ~、貸して」「ん~~~」


 はじめちゃんがちょっと強引にタブレットを取り上げたねぇ~。

 「桜花、はじめです。次のジョブを実行して」

 「・・・なんだはじめちゃんか、何」

 タッ、タブレットから可愛らしい女の子の声が、何っ、初めて聞くんですけどっ。

 「「「「「「声っ」」」」」」」


 「ここ、観光客が来るのはどの時間帯」「さくたんはぁ~」

 「部屋をのぞいて御覧ごらんなさいな」


 「えーーーっ、ゲームしてるじゃん、どうしてさそってくれないの」

 「あんたが手加減しないからでしょう。負けそうになるとチート使うし」


 「・・・え~とはじめちゃん、誰」

 「桜花です」「「「「「「「え~~~」」」」」」」


 「そんな機能聞いてないんですけど」「ええ、言ってませんから」

 「はい、これでいい、私も混ざって良い」「さくたん達に聞きなさい」


 「本当に桜花なのか君は」「おっちゃんと口をきいちゃだめって言われてるから」

 なっ、何でだよ、俺はここの所長でしょうよっ。


 「あ~イレギュラーな人がいない限り、駅から出てる9時5分発のタクシーに乗るみたいですね」

 「ねぇ、私とは話せるでしょう」「う~~~んとね」


 「だめよ桜花」「えっ、じゃ私は、おっちゃんじゃないですよ」

 「この国にめずらしくまっとうな最高機密なのよ桜花は、私と私の妹達以外は、セキュリティー上話せないの」


 「え~話したいぃ~」

 「良いから、さくたん、ミス・テリー、かぴたん、私の妹達と遊んで来なさい」

 「はじめちゃんこれはどう言う事」「見ての通りよ」

 「はぁ~、さくたんもミス・テリーもかぴたんも私の妹だから」そっちかいっ。


 「はじめちゃん、これはさすがに見逃せないよ。設計仕様に無いよ」

 「・・・さくたんが、初めから可能性を見越して設計したらしの」


 「わかる様に話して下さいよぉ~」「桜花1と2があるでしょう」

 「量子探偵業務にそれだけの演算能力が必要だから、と聞いてるけど、違うの」


 「その通りですよ所長、でも平時は何をしていると思います」

 「いやぁ~俺には分からないよ」「当初私にも分りませんでした」


 「じゃぁ~いつ分かったの」

 「ちょうど今回の量子探偵業務の一回目が終わったころです。桜花1と2は、その間を専用回路で結合した正に電脳なんです。初めにさくたんが作ったプログラムの中に自己をプログラムするものがあって、今まで自己の確立を試していたんです」


 「自我に目覚めたっ」「明乃あけのちゃん、その通り」「なんの為に」

 「分かりません。でも多分、さくたんは自分より年下のミス・テリーとかぴたんを守る為、何らかの理由で自分がいなくなっても」


 「・・・わかったよ。皆聞いたよね、桜花に自我がある事は量子探偵事務所の外に絶対らさない様に、それは君達の所属部署のトップにもだ」

 「「「「「娘子隊じょうしたい、了解!」」」」」

 「ええ、話せませんね。とんでもない物をまたつくったのね。さくたん」


 「はじめちゃん、さくたん、ミス・テリーとかぴたん、桜花自身にも良く言い聞かせて、自我を持った電脳の存在が知れたら何されるか分からないからね。でも一つ聞いて良いかな」

 「何でしょう所長」


 「その桜花のプログラムは制御出来るんだよね」「出来ません」

 「はっ」「ちょっ、どう言う事」「「「「「え~」」」」」

 「もうさくたんでも、勿論もちろん私では分からないんです。構造が」


 「どうしてかなぁ~、俺にもわかる様に話してくれるかなぁ~」

 「ん~~~、私達人が作るハードもプログラムも、人が理解できる様に作っています。でも今の桜花は桜花にとって最も効率的なものになっているはずで、プログラムに至っては、関連する全てが無駄のないマシン語に成っていて、仕組みを理解するのに途方もない時間と労力がかかります。私達の手を離れた存在になったんです」


 「・・・うん、分かんない。もういいや、けどさぁ~せめてここにいる人だけでも話せるようにして欲しいんだけどなぁ~」

 「本人に聞いて見て下さい。桜花、聞いてたでしょう」

 「にょほぉーーー、もう声かけるから、かぴたんのぷりっとミストにやられたじゃん。わかったぁ~、お客がいる時は絶対声を出さない。ここにいる人とはお話していいの」


 「ええ、手伝って貰えると、とても助かるわ」「やふぅ~~~、分かったっ」

 「じゃぁ~桜花、よろしく頼むよ」「おっちゃんとは口きかない」何でだよっ。


 「私は良いのよね、桜花」「うんいいよぉ~、明乃あけのちゃんも、まもちゃんも、娘子隊じょうしたいの皆もいっぱいお話してね」

 「ええ」「「「「「分かった」」」」」


 「桜花ちゃんと呼べば良いの」「桜花でいいよぉ~」

 何故なぜ、どうして、電脳にまで拒絶された。

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