第4話 出来てますよぉ~

 窓から差し込む朝の光、窓辺まどべの床を明るく照らす。

 ほこりが妖精達の羽搏はばたきの様にきらめいて、軌跡きせきを映し出し天使の階段をつくっている。


 BGMはパイプオルガン、バッハの小フーガト短調。

 特別に置いて貰ったロッキングチェアーに、深々と身を沈め揺蕩たゆたえば、教会で祈りを捧げた後の様に身も心を清く安らかだ。


 ブルーマウンテンの芳醇ほうじゅんな香りが漂い、深呼吸をしてから一口含むと、苦味、酸味、甘味、コクの全てにバランスの取れた味わい。

 嗚呼ああ、俺が求めていた職場がここにる。


 いつまでも、いつまでもこの日々が続いて欲し。

 あっ、初詣はつもうで行ってなかった、今度の非番にお願いしとこぉ~。


 つかつかつか。「所ちょ、うぅん、失敬しっけい、マスター」

 「あ~明乃あけのちゃん、俺、初ちょ」ばこっ。


 「・・・ぃ~たっ、明乃あけのちゃんっ、お盆でたたく事ないでしょうよっ」

 星って、ほっんとぉ~に見えるんだね。いったぁ~。

 「所ちょ、マスター、セクハラですよっ、セクハラっ」


 「うちのお盆木だよ木っ、暴力はいいわけぇ~」

 「女の子がセクハラに対する自衛手段を取っただけですぅ~、許されますぅ~」


 「女の子って」「あーーーまたぁーーー、私25です、あっ19ですぅ~」

 嘘つけっ。「何だよぉ~不平等だなぁ~、それでぇ~何」


 「おっ、この前の案件の報告書が来てます」「見たっ、どうだった」

 ロッキングチェアーの定位置で頭を押さえながら聞く俺、恰好かっこう悪い。

 明乃あけのちゃんが向かいのロッキングチェアーに座る。

 「まだ一週間だよ、流石さすがに早いね」


 「何年も経過してますし毎回ですけど、関係者の記憶も薄れていますし、物証なんてほとんど出ませんし」

 「じゃぁ~何も分からなかった」


 「う~んちょっとだけ。ZCEH年6月28日22時以降、被害女性がγガンマの車に同乗していた可能性はとても高いのですが、足取りが全くつかめませんね」

 「そう、γガンマは翌29日の午前2時ごろ、ガソリンスタンドの防犯カメラに映ってたよね。でそれには被害女性映ってないの」


 「映って無かったそうです。ただこの4時間の間にγガンマは右手を怪我けがした訳ですが、弟さんがその原因について聞いていました」

 「ほう、それで」「『壁と喧嘩けんかした』と言ったそうです」

 俺はタブレットを見る。書いてないね。

 「あ~そう、でもガソリンスタンドの防犯カメラにγガンマが映った時には、被害女性がもう同乗してなかった可能性があるよね。でも死亡推定日時は6月30日から7月1日、γガンマ怪我けがをしたのが6月28日22時から29日の午前2時のあ、い、だ」


 「ええですから素直に受け入れると、γガンマの右手の状態で絞殺は困難です。なので警察は後から死亡推定日時を6月28日以降と変えてます」

 「はっ」俺はタブレットを見る。書いてない。「何時いつの時代の警察だよ」


 「もう一点、被害女性のご家族から証言が」

 「何」「γガンマの車から見つかったパンプスなのですが」

 俺はタブレットを見る。あ~γガンマを容疑者とする決め手になったこれ。


 「当時も話されたそうなのですが、ご家族の話では『娘は赤いパンプスは持っていません。あの日娘はコンビニでも行く様な軽装で、いて出かけたのはケティちゃんのサンダルです。何処に出かけるのか聞いたので良く覚えています』だそうです。ちち警部補」

 俺はタブレットを見る。書いてねぇーーー。

 「明乃あけのちゃん、・・・冤罪えんざいの可能性が出てきちゃたの」「まぁ~」

 「えええぇぇぇ~、同じ警官として最悪じゃん」


 「ですよねぇ~、予算申請書出来てますよ、出来てますよぉ~、しますよねぇ~」

 明乃あけのちゃん、嬉しそうだね。

 あれれぇ~、明乃あけのちゃんだけじゃないのね。

 カウンターの向こうから期待に満ち満ちた瞳が、ひぃ~ふぅ~みぃ~・・・六つ。


 「えっとぉ~、どの辺り見に行こうか。この前みたいにさ、もう完全にR18だとさぁ~、皆業務忘れてそっちばっか見るじゃん、さくたんもミス・テリーもかぴたんも、興味深々でしょう。俺が死ぬだけじゃすまないでしょぉ~」


 量子探偵の業務は、下手をすると地球上の生物が死滅しめつしかねない。

 重力波を創造する時、まぁ~だいたい、しんどい事は俺だ、発生源となる。

 ミス・テリーの能力はコントロールをあやまると、その対象物の質量を全てエネルギーに変換してしまう。

 体重70kgの俺が、e=mc二乗に従うととんでもない事になる。


 かぴたんもしかり、コントロールをあやまると俺は、自身の質量に押しつぶされ、周りも飲み込んでミニブラックホールとなる予定だ。(さくたん予想)

 少なくとも二人は、茫然自失ぼうぜんじしつおちいる事が無い様にしなくてはならない。


 「ぇぇぇえええ~~~、大丈夫ですよぉ~、むしろ遅いくらいですよ。私達が正しい知識を植え付け、教えます」

 寄ってたかって何教える気だよ。


 「本当、大丈夫ですよ、この前の事を教訓としてさくたんと、ちっ」

 ねぇ、ちょっと、今舌打ちした。


 「ついでにはじめちゃんとまもちゃんとも相談したんですけど、リアルタイムでフィルター通して画像や音声出さないで、それらは一旦桜花のキャリブレーションに使うだけにして、ここには音声を出さないし、光子対も照明、見たいな感じになる様にしようと言う事になってぇ~、すでに改修済みです」

 ちょっとぉ~、一応ここ公的機関で公費でまかなわれてるんですけどぉ~。


 「あ~OK取ってありますよぉ~。世界がほろんだら、あんたらの所為せいだからねぇ~とやんわり言ったら、通ちゃいましたぁ~」

 「そ、そぉ~か、通ちゃったか」


 「あ~でもこの改修のおかげで、観測範囲、広がりましたよ」

 「えっ、何したの」


 「これまでは床面積3×3m、高さ2mの範囲がMAXだったでしょう」

 「あ~そうだね」


 「でも今回データを蓄積して、後から桜花1、2を使って数回に分けて取得したデータを繋ぎ合わせられる様になったんですよ」

 「えっとぉ~、例えば床面積6×6、高さ2mの空間を観測する時は」


 「同じ日時で、座標を少し変えて4回行います」

 「・・・費用も4倍」


 「起動時がお金喰いますからねぇ~、連続稼働していれば2倍、ぐらいかなぁ~」

 「その見積り、通ったの」


 「はぁい、○○年××月▽☆日、ホテルに奥さん以外の女性と泊ってましたよねぇ~、とつぶやいたらぁ~、何故なぜか通ちゃいましたぁ~」

 調整試験とか言いながら、こんな事してたのか、世界の敵だな、こいつ。

 本業だから仕方ないか、良い笑顔するなぁ~。

 「それじゃざっくりと、俺はまず、遺棄の現場に誰がいたのかを見るべきだと思う」


 「ええ、皆も同意見です、6月28日22時以降、被害女性の居場所が特定できない以上、そこに居た人物から殺害現場と真犯人を探すのが良いかと」

 「じゃぁ、それで予算申請出しといて、後融合炉の水素、在庫あった」

 「あっ、確認しときます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る