第2話 奇才の少女達

 片手にタブレット、カウンターには灰皿とブラックのコーヒー。

 喫茶NTRの奥、二席しかないカウンター席の一つに、はすに座る俺。


 「恰好かっこう良い」「いや、似合って無いから、それにうち禁煙だし」

 「そんな事無いでしょうよ、さくたん」


 「さくたん止めてっ、そう呼んで良いのは私の、・・・う~~~ん、可愛い可愛い食べちゃいたい妹達だけだから、うえへへへ」

 「さくたん、よだれよだれ、表向きは喫茶なんだから」


 「うっさっい、よれよれのYシャツに着古きふるしたグレーの背広、靴下もよれよれ、靴もくすんでぼろぼろ、髪はぼさぼさ、恰好かっこう良いわけないっしょ、だいたいおっちゃん煙草たばこ吸わないじゃん」

 この喫茶NTRはカモフラージュ、本来の仕事は探偵業だ。


 量子探偵事務所NTR、一般的に未解決事件とされる、その中でも目撃者(観測者)が無く、証拠は上がって来るが犯行に至る経緯けいいの可能性が増すだけで犯人にたどり着かない、量子事件に対して主に国家機関から調査の依頼を受ける。


 勿論もちろん、一般探偵案件も受けるが、そっちの方がまれだ。

 そして従業員並びに、喫茶NTRの店舗があるマンション桜花に住む者、出入りする者の9割以上が、内外を問わず何らかの形でその国の機関に係わっている。


 さくたんこと妹大好まいきよ早紅耶さくやは、量子探偵事務所の中核メンバー。

 15歳の少女だが、所謂いわゆるはみだった。

 もあらん、幼くして素粒子、宇宙物理、数学、生物etc、ありらゆる分野で才気あふれる超天才。

 飛び級が許されず、周りに話の合う子がいなかったのだから。


 しかし、自分より年下の少女を妹と呼び、とんでもない情熱と執着を見せる。

 この子を見ていると、俺はつくづく思う、才能と人格は別ものなんだなぁ~、と。


 だがこの一人の才能によって、量子事件の解決の糸口を見出す事が出来る施設、ここマンション桜花が造られた。

 俺には小難こむずかし過ぎて、さくたんの説明ではこうだ。


 高出力レーザーと非線形光学物質と言うのを使って、光子対と言うのを造る。

これが量子もつれと言う状態(まぁ~双子みたいな物らしい)で、その片方を重力子に転写して、重力波として過去に伝搬させ、犯行現場の観測者(目撃者)となる事で事象が確定される。


 と言っていた、ようわからんがアクティブ・ソナーみたいなもんらしい。

 これを実現する為に破格の予算と、さくたん設計の非公開スパコン桜花2基と、施設が使う膨大な電力をまかなう為、地下にさくたん設計のこれまた非公開の非連続型レーザー核融合炉を2基、高性能の小型タービンを2基。

 高出力レーザーは、外敵排除にも使用される、ちょっとした要塞だ。


 きゃっきゃ、きゃっきゃ、わいわいがやがや。がらんがらぁ~ん。

 「たっだいまぁーーー」「帰ったぁ~」「防人さきもり3等陸曹りくそうっ、帰還しましたっ」

 あほかっ、客の9割は他国の工作員だぞ、身分をばらしてどうするんだよ。

 何回言えばいいんだ、まぁ~お互いに面は割れてるんだがな、警戒するのはご新規さんと隣の国籍の連中だ。


 「・・・えへ、うへ、げへへへ、ミス・テリーーー、かぴたん来たぁーーー」

  がたっ、どたどたどたどた。「私の妹ぉーーー」

 「「いやぁーーー」」「さくたん来たっ、さくたん来たぁーーーーーー」

 どたどたどた。「かぴたぁーーーん」ばたばたばた。「やぁーーー」

 ぴた。・・・どたどたどた。「ミス・テリーーーィッ」

 ばたばたばた。「OHーーー」


 お客、いるんですけどぉ~。

 どたどたどた。「ミス・テリーーー、触らせてぇーーー」

 ばたばた。「いやいやいや」

 狭いしぃ~、危ないしぃ~止めてぇ~。

 どたどたどた。「かぴたん待て待てぇ~」

 ばたばた。「お腹空いたお腹空いたぁーーー」


 もう本当、誰か止めさせて。

 さくたんに追い回されているMissミスTerryテリーとかぴたんは小学4年生、二人共10歳、中核、いや、この二人がいなくては量子探偵事務所は成立しない。

 如何いかにさくたんでも、この地球上で重力波を生み出す事だけは出来ないらしい。

 正に邂逅かいこうと言うべきだろう。


 現代科学で成し遂げる事の出来ない事を、この二人が超能力をもって解決してくれた。

 Terryテリー・N・岡、帰国子女で御多分ごたぶんれずはみだった。

 正確には彼女の持つ能力の所為だ。


 皆彼女とお話をしたい、彼女もお話がしたい、だが彼女は自身も含め対称物に壁を作ってしまう、斥力せきりょく場と言うおおやけには未知の力だ。

 お互いに近寄りたくても、この力の所為せいで近くに行けない。


 一方かぴたん、竺天鬼あつかみおにみずね、愛称は学校でそう呼ばれているらしい。

 この子もやはりはみだった。

 人懐ひとなつっこく、とにかく人にも動物にも近付きたくて仕方が無いらしく、対象物を引き付ける為、さくたんの話では強烈なヒッグス場と言うのを創り出す。


 これは物質に質量を与えるらしく、見かけの質量が猛烈もうれつに増したかぴたんも、対称物もその場から動けなくなり、結果ぼっちに成っていた。

 しかし二人は出逢った、真反対の能力を持ち、中和する事に成功した。

 この二人の人知じんちを超えた力によって、重力波を創造出来る様になった。

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