第71話 緊張する陣営

――ノーベ公爵視点――


「だから問題ないと何度も言っているだろ!!私の言う事が信じられないのか!!もういい出て行け!!」


 今日もまた一人、私の賄賂あいろを受け取っておきながら私に意見してくる貴族が現れた。…少し私が奴らに言いくるめられてからと言って、まったくどいつもこいつも…あれだけ私の言う事を聞くと言っていたのに、エステルの告発文書が跳ね返された途端、手のひらを返しよって…

 これもすべて、アースとエステルのせいだ…連中とくれば私の邪魔ばかりしよって…私が次期皇帝の椅子に座ることがそんなに悔しいのか?…まったくなんといやしい連中か…

 終わりのないそのような考えを巡らせていたその時、一人の使用人が私のもとにある人物の訪れを知らせに来た。


「公爵様、ミケラ様の姿がお見えです」


 ミケラ…ああ、あのくそ真面目な死んだ伯爵の臣下の男か…あいつも私側の人間のくせに、身の程をわきまえず私に意見しに来たのだろう。次から次へと…


「はぁ?…まあいい通せ」


 いらだちを隠すこともせず、ここに通すよう使用人に告げる。それからほどなくして、使用人の案内を受けながらミケラが部屋に姿を現した。


「また貴様か…先に言っておくが、死んだ伯爵の妻と子の面倒を見ろなんて頼みは聞かんぞ。お前にはちゃんと報酬をくれてやっただろう?今更文句はあるまい。あくまで伯爵は勝手に死んだのだ」


 私の味方をして伯爵を裏切っておきながら、いつまでも善人面ぜんにんづらをしよって…ほんとうにうっとうしい男だ…

 そんな私の表情を読み取ったのか、ミケラはめずらしく従順な態度を見せる。


「は、はい…心得ております」


「ほう…じゃあ何だ?私も忙しいんだが」


 こんな奴の相手をしている時間など私にはないのだが…

 もう追い返してしまおうかと考えていたその時、ミケラはとんでもないことを口にする。


「じ、実は…公爵様が負債飛ばしを行っているという証拠を、アースとエステルがつかんだ様なのです…」


「なっ!!!」


 その言葉に私は感情的になり、口調を荒げる。


「ば、ばかな!!!それに関わる資料は秘密書庫に厳重に保管している!!存在も明かしていない上に、あそこに入れるのは私だけだ!!にもかかわらず秘密が漏れたなど、そんなはずはない!!!」


 そう、あそこは何重にも対策をしている場所だ。アースはエステルはもちろんの事、皇帝だって簡単には立ち入ることはできないだろう。そんな場所に、奴らがそうやすやすと侵入などできるはずがない…!!!

 しかしミケラは冷静に私に言葉を発する。


「し、しかし、本当のようなのです…私は奴らの屋敷を訪ねて確認しました…」


「!!!」


 私は即座に使用人一人を呼び出し、緊急の仕事を耳打ちして伝える。その内容を聞き届けた使用人はすぐに行動に移り、この場を後にしていった。

 …落ち着こうと思っても全く落ち着けない。心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒くなる…何度も何度も同じ場所を行ったり来たりし、頭の中で考えをひねり上げる。


「ううう…まずいまずい…あれが表に出てしまえば、私は本当に終わってしまう…」


 …もうこうなってしまっては手段を選んでいる時間はない。向こうが動き出すその前に、どんな手を使ってでも奴らを先につぶさなければならない…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る