第72話 作戦開始!

――フィーナ視点――


 私は公爵家の屋敷の外に身を隠し、門が見える位置にて準備を整える。ここまでは作戦通りだ。

 …しばらくして、ミケラさんが屋敷の前に到着、そのまま門をくぐって公爵家の中へと入っていく。


「さぁミケラさん、お願いしますよ…」


 ミケラさんの姿が見えた段階で作戦開始だ。…心臓の鼓動が早くなり、若干顔に汗をかいているのが感じられる。今までにない緊張感を体が感じているのだから無理もない。…この作戦に失敗すれば、もう公爵を攻撃するタイミングは永久に訪れないかもしれない…失敗は絶対に許されないのだ。

 少し耳を澄ますと、屋敷の中からは何やら公爵が大声で何かを言っているのが聞こえる。…ミケラさん、気が弱そうだけれど侯爵と上手く話せているのかなぁ…

 一抹の不安に考えを巡らせていたその時、一人の人物が公爵家の門から飛び出していった。顔を見ればその人物は、公爵家の使用人であることが分かった。しかしその服装は使用人のそれではなく、採掘場で働く人間の仕事服を着ていた。


「…よし、とりあえず第一段階成功…!」


 そんな公爵家使用人の姿を見た私は、この作戦における第一段階の成功を確信し、彼に見つからないよう細心の注意を払いながらその人物の後を追った。


――――


――ミケラ視点――


 部屋に取り付けられた窓から外の方へと視線を移すと、着替えて屋敷を飛び出していく使用人と、その後を追うフィーナさんの二人の姿が確認できた。…よし、とりあえず自分のやらなければならない事は無事に終えられたようだ。


「フィーナさん、後は頼みます…」


 この作戦が成功すれば、公爵から貴族位をはく奪するための切り札を手に入れられるだろう。…しかし一方で、私は公爵の不穏な動きも見てしまった。ついさっきまで部屋に一緒にいた時、公爵は小声で『もう手段は選んでいられない』と言った…決してこのまま簡単に終わるはずはない…

 しかし、自分にできることはもうない。私は公爵家を退散しようと考えた。しかしその時、目の前にある人物が現れた。


「…あら、元伯爵の手下の方?」


 声の主は他でもない、公爵につるんでいるセフィリアさんだ。…まさかこのタイミングで遭遇してしまうとは。


「もしかして、あなたもアースとエステルに負けた公爵様を見限りに来たのかしら?」


 公爵が置かれている状況を、やはりこの人もすでに理解しているらしい。…しかしこんな状況だというのに、どこか余裕な様子だ。


「ふふふ。だけどね、あれは向こうが悪あがきをして破滅が少し先延ばしになっただけでしてよ?私たちの公爵様が負けるはずありませんもの。くすくす」


 …噂通り、この人は相当な女狐のようだ…こんな人と長く生活を共にしていたというエステルさんは、それはそれは苦労の連続であったことだろう。


「まあすぐにわかりますわ。公爵様とフィーナが婚約し、公爵様が皇帝となり、この帝国を明るい未来へと導く。これはもう決まっていることですもの」


 セフィリアさんが高笑いする横を、私は無言で通り過ぎる。…その場を去ってしばらくしてからも、その不気味な笑い声はしばらく聞こえ続けた。

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