第44話 皆の思惑
――セフィリア視点――
皇帝府会議が終わってからというもの、私は一向に心の中の怒りが収まらない。一体どういうことなの!カーサ皇帝府長は確かに、我が娘フィーナを妃として推挙するといった雰囲気だったのに!!
「公爵!説明してください!いったいどういう事ですの!!」
公爵家たる屋敷に戻るなり、隣に座る公爵に噛みつく私。しかし公爵もまた私と同じく、事態が全くの見込めない表情を浮かべていた。
「カーサめ…まさか私たちを裏切るとは…今まで誰がお前に目をかけてきてやったと思っているんだ…調子に乗りよって…」
…正直私からすれば、皇帝府長も皇帝もこの際どうだっていい。私が最も憎たらしいのは、皇帝の妃になるなどとぬかしているあの女。私があいつよりも下の身分になるだなんて、死んでもごめんなのだ。
「…お母様?」
口論を繰り返す私たちの声がうるさかったのか、フィーナが私たちの部屋を訪ねてくる。私はすぐにフィーナのもとに歩み寄り、彼女を抱きしめて声をかける。
「…大丈夫よフィーナ。あの女を妃になんて、絶対にさせないから。あなたはあいつなんかよりも数百倍美しくて、凛々しいんですもの。妃にふさわしいのは、間違いなくあなたよ」
「…お母様…でも、これ以上は…」
フィーナはそう言いうと、悲し気に俯いてしまう。…間違いない、今回の一件のせいで自信を失ってしまっているのだ。私はフィーナを抱きしめたまま、公爵に非難の声を上げる。
「公爵!!あなたのせいでフィーナがひどく傷ついてしまったわ!!いったいどう責任を取ってくれるのかしら!」
あれだけ自信満々に私に任せておけと言っていたくせに、終わってみればこの有様だ。公爵が、貴族院院長が聞いてあきれる。
「わ、私だけのせいにされても困る!あの時エステルに反論された君は、何も言い返せなかったじゃないか!あれのせいで会議の流れが変わってしまったんだ!私よりも君の方にこそ責任があるのではないのか!現に私が作った会議の流れは完ぺきで」
はあ?自分が失敗しておいて、私に非があるというのかこの男は。
「お、お母様…もう…」
小さな声で訴えるフィーナに私は全く気づかず、公爵と問答を続ける。
「自分が失敗しておいて、どうして私の責任になるというの!?大体あなたはじめからきちんと作戦を立てていればこんな事にはならなかったじゃない!」
…結局そのやり取りは翌朝まで続き、お互いに体力を使い切ったところで問答は終わりを迎えた。
「…私は…私は絶対に嫌よ…あの女が妃になって、私よりも上の位になるだなんて…絶対に嫌…」
私がそうボソッとつぶやいた時、公爵が何かをひらめく。
「…そうか…そうだ!この手があったか!!」
公爵はそう言うと突然立ち上がり、私の方を向く。
「ふふふ。あの女を追い落とす手段は、まだあるぞ♪」
…前の時と同じ、自信満々の顔だ。
「…一体どうするというの?」
私のその疑問に、気持ちの悪い下衆な笑みを浮かべながら答える公爵。
「それを教えてほしいなら…ほら、決まってるだろう?」
…体か。これも前と同じ。もうここまでくると逆にすがすがしい。
「…はぁ。仕方ないわね…」
そんな私たちを悲しげな瞳で見つめるフィーナの姿に、私は全く気付かなかった。
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