孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる

第43話 それぞれの思い

　無事に皇帝府会議を終えた私たちは屋敷に戻り、なんとか皆に勝利報告をした。もちろん、公爵やセフィリアが参戦していたことも、最終的に良い所は全部カーサさんが持って行ったことも、すべて話した。

「ほう、それはずいぶんと危なかったんだな」

　私たちの話を聞いた後も、ジンさんは相変わらず冷静な様子だったけれど、どこかほっとしているようだった。

「ああ…正直僕も今回ばかりはもうだめかと思ったよ…」

　そしてジンさんとは比にならないほどに、心の底からほっとしている様子のアース。

「はぁ…本当に疲れちゃいました…」

　そしてアースと同様に、心の底からほっとしている私。

「クスクス。ともかく、無事に終わったようで何よりだわぁ。お食事は私が用意してげるから、二人はしっかり体をお安めになってくださいな♪あ、暇そうなジンちゃんも手伝ってよ？」

　いつもの様子でそう言葉を発するバリアブルさんに対し、反射的に噛みつくジンさん。

「だーかーらっ！俺はお前より上司なんだからこういうときは」

「はいはい、続きはあっちで聞きますから」

　その言葉を最後に、部屋を去っていく二人。魂の抜けたような私とアースの二人だけが、この場に残される。

「…なんだか、実感がわかないね」

　アースがボソッとそうつぶやいた。その表情は、どこか不思議そうなそれであった。

「…私たち、認めてもらえたんですよね…皇帝府長に」

　その実感があまりないのは私も同じだった。でもそれを口に出しながら、あの会議室でのやり取りを思い出すと、だんだんと実感がわいてくる。

「…あの時のエステル、本当にかっこよかったよ」

「あ、あの時は気持ちがあふれちゃって…忘れてくださいっ…」

　思い返してみれば、自分でも信じられない…けれど少なくとも、昔の私だったら絶対にセフィリアにあんな口はきけなかった。アースやみんなの事を思ったら、なんだか勇気が湧いてきて…

「…なんだか僕、みんなに助けられてばっかりだ…」

「？」

　…アースが珍しく、消沈している。今回の一件が、相当こたえたのだろうか…？私は考えるよりも前に、アースのもとにまで歩み寄り、彼の手を取る。

「…私が戦えるのは、あなたのおかげ。あなたが隣にいてくれるだけで、私には不思議と勇気が湧いてくるの」

　それは嘘偽りのない私の真実。アースや周りの人々の事を思うと、私は体の底から熱いものが込み上げてきて、全身に力を与えてくれるのだ。

「エステル…」

　彼の目を見て、ゆっくり語り掛ける。

「大丈夫！あなたは勇敢で、勤勉で、…か、かっこよくて…」

　自分でもやや恥ずかしいけれど、もう止められない。

「…私は、そんなアースの事が好き。あなたと、ずっと一緒にいたい」

　…次の瞬間には、私たちの間に距離はなくなっていた。

――――

「…あらあらまあまあ、お料理の味付けどちらが良いかお伺いしようと来てみれば…」

「……やれやれ、見せつけてくれるね全く…」

　扉の隙間からほくそ笑む二人の姿を、私たちは知る由もないのだった。