第34話 侯爵からの手紙
私は使用人の人から渡された、侯爵からの手紙を手に取り、その内容を読み上げる。
「アース様、エステル様へ。これまで大して皇帝府と関係などなかった私が、突然に召喚される理由など、私には一つしか心当たりがない。カーサ皇帝府長はきっと、私たちの協力関係を裂き、自身の目論見を達成することが目的なのだろう。本当にすまないが、私自身、今回ばかりは二人の力になることができないようだ。しかし代わりというわけではないが、私の知り合いの者の中に、カーサについてよく知る者がいる。その者に当たれば、なにか情報を得られるかもしれない。君たちの思いが彼に届くことを、私は心より願っている。カーサは優秀な男だが、最後まで決してあきらめるな! ーガザリアスー」
「…」
「…」
侯爵の思いの前に、私たちは言葉が出なくなる。彼はこうなることを予見し、使用人の人に手紙を託していたのだ。
「…侯爵のおかげで、少し望みが見えてきたね」
やられた、という風な表情で、少し笑っているアース。多分、私も全く同じ表情を浮かべていることだろう。
「それで、その人物というのは…」
手紙をよく見てみると、下側の部分に小さく、その人物に関しての記載があった。
「…名前は…ナイト守衛局騎士長…」
私には全く聞きなれない名前だけれど、アースは知っている様子だった。
「ナイト…確か、以前にカーサの警護を務めてた人物だ」
「カーサさんの…警護…」
それなら確かに、カーサさんとは親密な仲であろう。…会いに行くのはこちらの手の内をさらす、危険な行為かもしれないけど、そんなことは侯爵も想定しているはず。ならば私たちは侯爵の手紙を信じ、この人物の元へ向かうべきだ。
「すぐに行きましょう、アース」
私の考えがきっと通じたのだろう。アースも力強くうなずき、私に同意してくれた。私たちは再び馬にまたがり、次なる目的地を目指す。急ぎ向かう先は、皇帝府守衛局の本部だ。
――――
「…ねえアース、守衛局ってどんな部署なの?」
馬で駆けながら、私は念のためアースに確認をする。
「エステルの想像通りの所だと思うよ。守衛局は皇帝府や貴族関係者の警護から、帝国の犯罪捜査なんかも担ってる。子供たちの言葉で言うところの、正義の味方かな」
やはりそうか。守衛の文字をつかさどるのは伊達ではない。
「そのナイトさんって人、アースは話したことはあるの?」
「いやそれが、直接はないんだ。社交界や食事会なんかで、姿を見たことならあるんだけど…」
…つまり、私たちは二人ともナイトさんに初対面の状態で話し合いに向かうわけだ…やっぱりどうしても、不安感が勝ってしまう…
「大丈夫だよ、エステル!約束したでしょ?君を幸せにするって!もう絶対に離さないって!」
…私が不安な表情を浮かべていると、アースはすぐにそれを見抜いてしまい、こうして励ましの言葉を送ってくれる。私はなんだかそれが恥ずかしくもあり、うれしくもあった。
「…はい!私も離しませんから!」
目的地の守衛局本部は、もうすぐだ。
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