第33話 先手必勝

 馬にまたがり、出発の準備を整える私たち。


「ジン、屋敷の事は頼むよ。僕たちはこれから、急ぎ侯爵家を目指す」


 アースが極めて冷静に、ジンさんに指示を送る。


「ああ、承知した。二人の方こそ、急ぎすぎて転倒なんてするんじゃねえぞ」


 少し笑みを浮かべながら、軽口を口にするジンさん。私はその言葉のおかげで少し緊張がとけ、リラックスする。


「それじゃあ、行こう!」


「はいっ!」


 全速力で馬を駆け、一目散に目的地を目指す。天候にも恵まれ、これなら比較的短い時間で到着できそうだ。


「…侯爵は、私たちの力になってくれるでしょうか?」


 馬で隣を走るアースに、疑問を投げる。


「うーん…前の時もそうだったけど、今回も正直彼には何もメリットがない。僕たちの仲を引き裂きたい皇帝府長に反発してまで、僕たちと一緒に戦ってくれるかどうか…」


「…」


 私も、同じようなことを考えていた。これまでいろいろとお世話になっておいておきながら、私たちとともに心中してくれないかと、頼みに行くのも同然なのだから…


「だけど、侯爵は君の言葉に心動かされた様子だった。君が直接話をすれば、もしかするんじゃないだろうか…!」


 今の私たちには、ただただ侯爵を信じることしかできない。どうか、私たちに力を…

 それれからしばらく馬を走らせ、侯爵家に到着する。…しかし到着早々、使用人の人からとんでもない事が知らされる。


「侯爵が…皇帝府に呼び出された…!?」


 何事にも冷静なアースが、少しだけ感情的に言葉を発した。


「は、はい…いきなり皇帝府召喚状が送り付けられてきて…それで今は皇帝府の方に…」


 使用人の人も、何が起こっているのか理解できていない様子だった。


「…しまった…完全にやられた…」


 私もアースも、この事実の前に驚きを隠せない。


「…カーサめ、ここまでやるか…」


 …完全に、先回りされてしまった。私たちが侯爵を頼ることなんて、彼には想定済みだったという事だ…。


「…どうする…どうする…」


 …珍しく、少しだけ焦っている表情のアース。…私の方も何のアイディアも出せず、重い沈黙が私たちを包む。

 しかしそんな沈黙を、屋敷の使用人の人が破った。


「そ、それで侯爵から、こちらをお預かりいたしております。近日中にお二人の姿が見えたなら、必ず渡すように、と」


 その手には、手紙が握られていた。私たちは一瞬視線を合わせた後、私がその手紙を受け取る。一体何が起きているのか理解できないまま、私は流れのままに手紙を開封していく。後ろからはアースが、その様子を見守る。


「…アース様、エステル様へ…」

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