第21話 お料理教室
「エステルさん、ここはどうすればいいかな?」
「えっと、これはですね…」
「エステルさーん、こっちもお願いですー!」
「は、はーい!」
…私の作る料理が信じられないほどの美味しさだと、いつのまにか近隣の人たちに話が広がってしまい、こうして私の料理教室が開かれるなんてことになってしまった。こういったことに全く慣れていない私には、体力的にしんどい事ではあったものの、不思議と疲れは感じず、むしろこの雰囲気に心地良ささえ感じていた。
「…なるほど、果実の余った皮をそういう風に使うんだ…!」
「これすっごい美味しいよお母さん!うちでも作ろ!」
集まってくれた方は高齢の方から小さな子どもまで、非常に幅広い。私には人前で何かをした経験なんてこれっぽっちもないので、自分でも戸惑いを隠せない。だけど…
「お姉さんこれ!前のお礼だよ!」
「わ、わたしに…?」
大人の方をはじめ子どもたちまでもが、こうして心のこもったお返しをしてくれる。それはもう、私にはもったいないほどのものだった。
「なんだよ伯爵ぅ~。あんなすごい人がいるんなら、早く言ってくれよなぁ~」
「全くだぜ。お前はいっつも秘密主義なんだからよ~」
同じ地方貴族の知人の方々が、アースに言葉をかける。中央貴族から差別される者同士、彼らの親交は深い。
「まぁまぁ、そう言うなって」
少し笑いながら、アースは彼らに答える。彼らはアースの正体をまだ知らないけれど、知ったとしても、きっとこの仲はこれからも続いていくことだろう。
「エステルさん、エステルさん!」
不意に後ろから、誰かに話しかけられる。
「は、はいっ!」
振り向いてみると、私と同じ地に住む年上の女性が笑みを浮かべながら立っていた。
「聞いたわよ!あなたあのむかつく偉そうな侯爵をしてやったんだって??すごいじゃない!!」
この人は確か、地方貴族の使用人の方だ。
「い、いえっ、私はそんな大したことはっ…」
「
その方は力強く、優しく微笑みながら、私に言葉を続ける。
「地方貴族の
自分では全くそんな大きなことをやった自覚はないのだけれど、その彼女の言葉に、どこか嬉しさを覚える。
「…ねぇエステルさん。ここは中央に見下される辺境地。それゆえにみんな大変な思いをしているけれど、あなたがこの地方まで来てくれたことが、私たちの唯一の救いね♪」
「???」
その女性はそう言い終えると、上品に一礼をして去っていった。
「…私なんかが、みんなの救いに…?」
彼女が言ったその言葉をかみしめていた時、後ろにいた子供たちが私に声をかける。
「おねえちゃーん!次は一緒に遊ぼーよー!」
「わたしもわたしも!!」
数人の子どもたちに手を引かれ、足を進める私。私にはその光景がとてもまぶしく、暖かく感じられた。
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