第72話
俺は仙台味噌のおにぎりをお茶で喉に押し込んでいると、隣の膳にいる楠田先生が箸を静かに置いた。
「風ノ助くん。それが……海賊共和国はジャマイカのポート・ロイヤルとハイチのトルトゥーガ島、そして、バハマのナッソーなど船が停泊できる至る所にあるんだ。そう、広いんだよ」
「ふーん」
それでも、俺はあまり気にしない。よーしっ! 全部。いや、一個ずつ占領していけばいいんだな。……あれ、だけど、もしや?!
「楠田先生。そこに天使のやつらは当然いるんスよね?」
「いるはずだよ」
「うへ?!」
茶碗片手の煤野沢と同じことを考えていた。
あれだけ苦戦した天使たちがまだ海賊共和国にいるんだな。
飯の時間が終わると、楠田先生がポケットから取り出したチョークで、一番高そうな金の松を模した襖に書きながらミーティングを始めた。
カリカリ。カリカリ。
「よし、これでいい」
楠田先生が襖に大きな地図を書いた。
「うはっ! うっぜえー! 先生あの、ちょっといいスか? 海賊共和国っていうけど、ちょっと大き過ぎやしないッスか?」
煤野沢が面倒くさがった。
「それは、仕方ないかな……今とは時代が違うけど、海賊共和国とは、1706年から1718年までバハマのニューブロビデンス島のナッソーに存在した海賊たちが共存して自治権を確立した国の俗称なんだ。ベンジャミン・ホーニゴールドとヘンリー・ジェニングスが支配しているんだね。歴史が食い違っているけど、細かいところはこの際は気にしないでおこう」
クラスのみんなは全部自室をあてがってあるからそこにいるんだな。みんなも今頃は飯の時間だろうな。
この広間には俺と煤野沢と楠田先生と、後は家来たちだけがいる。
「ふーん……確かに大きいな……」
俺は首をコキっと鳴らしていた。
「ああ、私もそう思うけれど、まあ、この場合は統治しているベンジャミン・ホーニゴールドとヘンリー・ジェニングスだけを抑えればいいじゃないかな。後は、秋華と内山の居場所を聞きさえすればいいんだし」
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