ちょうだい? ――Part2.

 悩んだら、選択肢は唯一ただひとつだ。

 親友に相談すること。それしか、安心する手法はない。


「はー、なんか、嫌になるなあ」


 人に聞いてもらうだけで、気持ちは軽くなる。


 莉和は華彩の話を聞くと、うんうんとうなずいた。

 わかる、とか、あからさまに相手に合わせた言葉を言わないのが莉和の素晴らしいところだと思う。


 そんなすばらしい親友がいるからこそ、華彩だって、【親しき仲にも礼儀あり】を守っている。


「その子には謝ったほうがいいよ」


 莉和が言った。

 予想通りの返事だけど、華彩は小さくため息をついた。


「だよねぇ」


 昼休み、ガラガラの教室内。

 窓から差し込む日光を受けて、二人は窓際でしばらく黙っていた。


「あのさ」


 昼休みが終わりに近づいた頃、莉和が不意に口を開いた。

 華彩が顔を向けると、莉和は迷いがちに言った。


「さっきの話題を掘り返すみたいになっちゃうんだけど――、

 もし華彩が、『名前を買い取りましょうか』って言われたらどう思う」


「え」


 驚きに言葉が出なくなる。

 混乱が襲ってくる。


 華彩の反応を見て、莉和が


「ね?」


と、自分では納得したらしき何かの同意を求める。

 混乱する華彩に、莉和が続けた。


「世界にはね、華彩みたいな人を探し当てて、その人の名前とか戸籍を買い取る、人がいる。

 もちろん売る側の許可が必要だし、売買自体は罪にならないけど、ほとんどが悪用される。

 悪用されてからそれを訴えることはできるけど、」


 難しい説明に半分ついていけない華彩も、最後の一言だけはすっと、頭に入ってきた。


「華彩はそんなの、嫌でしょ?」


 頷く。

 昼休み終了のチャイムが鳴った。


 廊下にぽつぽつと現れ始めたクラスメイトを尻目に、莉和が笑った。


「私は、華彩の名前が好きだよ」


 嘘のない親友の言葉が、その日一番、胸に響いた。

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