スピンオフ作品;   「パラレルワールド」

逆さまにしたら ――Part1.

 中休み、騒がしい教室内で、網野小雪あみのこゆきは仲良しの星川希望ほしかわのぞみと話をしていた。


「ねえ、希望ちゃん、見て?これ」


 あきらめたような面白いような笑い声をあげて、小雪がポケットから何かを取り出す。


「え、なにそれ。お金?」


 希望は思わず声を上げた。

 小雪が出したのは一円玉だった。決して作り物ではないのが、アルミニウムの光沢でわかる。


「今日、ポケットに入ってたの。でも、一円玉だよ?これじゃ買い物もできないじゃん」


 どこまでが本気かわからない声で小雪が笑った。


「一円玉って言うと、募金くらいしか使い道なくない?」

「確かに」


 二人がそんな話をしていると、クラスメイトの藤末ふじすえ莉菜子りなこがやってきた。


「何の話してるの?」

「これ。見て?」


 小雪が、希望に話した時と同じ口調で莉菜子に一円玉を見せる。


「わ、お金!」


 素直で純粋な莉菜子は、予想通り声を上げる。


「ポケットにたまたま入ってたんだけど、一円じゃあねえ。使い道を話してたとこ」


 小雪が説明すると、莉菜子は何かを思案していたが、やがて笑顔になる。

 これぞ名案、という表情で言った。


「こっくりさんとか」

「えー」

「えー」


 小雪と希望は同時に声を上げた。第一、あれは確か、一円玉じゃなかった気がするのだ。


「一樹が詳しかったはずだよ」


 莉菜子がそうして呼んだのは、莉菜子と仲のいいクラスメイト・山森一樹やまもりかずき


「え、何円玉なの?」


 小雪が聞くと、一樹は「なんで僕を呼ぶんだよ」という目で莉菜子を見た後、小雪たちに向き直って


「十円玉」


と短く答える。


「やったことある?」


 莉菜子が一樹にきいた。一緒にやろうよ、と思っているのが伝わる。

 一樹は一瞬、肩をビクリと震わせた。

 希望の目にはそれが、動揺したように見えた。やったこと、あるのかも知れない。

 けれど、一樹は言った。


「ないけど、やり方ならわかるよ」

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