エピローグ

 西野理恋は、『その人』の正体が分かったことを嬉しく思う。そして、絢、鈴、長橋、雲田、竹山に本当の正体を告げると、みんな啞然としていた。


「うそ…」


 絢がパッと、口を押さえる。長橋も、不可解そうな顔をしているし、皆最初はそんな風に、納得していなかった。


「でも、校舎から出て落ち着いた今なら、納得できるような気もするよ」


 そう言って、『その人』の正体が顔を上げる

――理恋、砂代、鈴、絢、一樹、長橋、雲田、竹山が。


『その人』の正体は、全員だった。


      (一)


 気づいたきっかけは、砂代の姿に成りすましている『その人』を目にした時だった。最初は、砂代がなぜ、と思ったし、気絶しそうなくらい、頭がくらくらした。


 でも、違和感を持った。砂代の姿をしていても、どこかこの人間の存在が、集められた八人すべての要素を併せ持っている、そんな気がしたからだ。


 冷静に話せる絢。いつも心の中に、しっかりと自分の意見を持っている鈴。気ままに発言できる長橋。最終的に相手の意見を尊重する一樹。雲田と竹山は、二人そろって何かと計算高いから、一人一人消していくというのは、その二人の打算部分が反映された結果だろう。論理的に相手を程よく警戒させるのは、理恋の部分だ。


 たまたま、姿が砂代になっただけで。



 本当はみんな、感じていたはずだ。

 自分に似たところがあると。最後に逃げてほしいと願われていること。

 その感情が恐怖に押しつぶされてつい、外見だけで判断してしまっただけだ。


「『その人』の正体は、みんな なんだよ」


     (二)


 チャイムが鳴った。


 教室には、笑い声が溢れている。

 いつもの中休み。いつもの笑い声。

 それらは全て、今日で終わりだ。


 理恋たちは、明日、この友利小学校を卒業する。


「とうとう明日、か」


 理恋が言った。

 つぶやいた声が宙に消えていく。誰も聞いていない。

 カレンダーを振り返ると、明日は満月だった。いい日に卒業できるみたいだ。

 カレンダーの日付は、3月17日。

 

 始業のチャイムが鳴る。

 皆が教室に立ち去った後、空き教室の窓からは中に、木漏れ日が降り注いでいた。今日は冬ながら、とてもいい天気である。実際、外もそんなに寒くなかった。


 天気と同じように、八人には今日も、明るい一日がある。


 卒業して、離れ離れになってもいつか、きっと――。


 心のなかで、カウントしていく。

 1、2、3、4、5、6、7、8。

 全部で8人。


理恋の、

砂代の、

鈴の、

絢の、

一樹の、

長橋の、

雲田の、

竹山の、




「みんなの中学校生活が、幸せでありますように」


 砂代が笑った。


「いきなり、どうしたの?」


 笑い合う二人のそば、桜の花びらが舞った。







                       【完】

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