外伝2-5.夫に相談しますわ

 王宮に着替えを預けていて良かったわ。遊びに来るたびに汚すので、お互いに服を預け合っている。アンネも含め、お互いにそれが当たり前になっていた。


 アンネの嫁いだシュトルツ伯爵家は、王都に屋敷を構えている。そのため、王都へ遊びに行くときは伯爵家が起点となった。王宮は外部の人間が頻繁に出入りするので、子供がいるときは奥の庭しか使わない。王族の私的な宮殿になっているので、他国の使者や自国の貴族は手前で排除された。


 遊ばせて安全なのは、大公家かも知れない。外からの訪問はほぼなく、あっても別邸で受ける。外部から侵入しようにも、呪術による結界と精霊の加護が邪魔をした。侵入しようと試みても、自然と屋敷の外へ誘導される仕組みだった。


「お泊まりに行きたいの。夫も一緒よ」


 ロッテ様の唐突なお願いに、あまり考えずに了承した。断る理由がない。現在居住する大公家の別邸は、王家の所有する敷地内に建っていた。


「いつでもどうぞ」


「あら、そっちじゃないわ。領地の方よ」


 アンネも驚いた顔を見せる。あちらの本邸はヴィルに尋ねた方がいいわ。


「ヴィルに聞いて返事をするわ」


「ありがとう。もうすぐ暑い季節が来るから、避暑にどうかと思ってたの」


 ロッテ様は暑い夏が苦手だ。私もあまり得意ではないけれど、いつも体調を崩すのはロッテ様だった。ヴィルは断らないと思うけれど、子ども達も一緒だから荷物が多くなるわね。


「アンネも一緒に行きましょう」


「夫に相談します」


 私が誘うと、貴族夫人らしい返答でアンネが笑う。その笑顔なら、アルノルト様は落とせるわよ。それに、夫ヴィルが本邸に滞在するなら、護衛騎士のアルノルト様も同行する。私の侍女であるアンネも、仕事なのは一緒だった。


「ねえ、エルマも誘ってみましょう」


 今後も含めて。そう匂わせた私に、ロッテ様は嬉しそうに頷いた。私達のグループは結束が固いから、情報を漏らしたり危険を持ち込む貴族夫人の参加は認めていない。王族や大公家が絡むんだから、当然よね。でもエルマなら安心して推薦できるわ。


「エルマも喜びます」


 にこにことアンネが後押しした。そこへ侍女から報告が入る。


「あの子達の着替えが終わりそうよ。ふふっ、また騒がしくなるわね」


「お菓子を追加しておきましょうか」


 子ども達のお風呂や着替えが終わったと聞いて、私達は慌ただしく動き出した。もうすぐ可愛い天使達が走ってくる。それが嬉しくて、幸せで、私は緩む口元を抑えきれなかった。

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