外伝2-6.避暑を兼ねて

 走ってきた子ども達に軽食とお茶を与え、お茶会はお開きとなった。というのも、それぞれ夫に相談する宿題が出来たから。ロッテ様は国王陛下から休日をもぎ取る必要があるし、私とアンネも夫に話して予定を立てなくてはならない。事前に別便で服や荷物を送っておいたら楽かしら。


 よさそうなら、アンネやロッテ様にも提案してみよう。今日のように子どもの言動は予測不可能、いつ汚すか濡らすか分からないんだもの。何枚あっても足りないわ。そのほかにもお気に入りの玩具だったり絵本が必要だし、寝る時はお気に入りの毛布が欠かせない。


 甘やかし過ぎの自覚はあるけど、可愛くて仕方ないの。お転婆姫フィーネはもちろん、エレンも愛おしくて叱りたくないわ。それでもヴィルが子ども達にメロメロで叱らないから、私が代わりに叱るんだけど。すぐにヴィルの後ろに隠れながら謝るので、許してしまう。


 あれこれと必要なものを考えながら帰路に着いた。






 明日、楽しみにしていた領地への避暑がようやく叶う。もうジメジメと暑さを増す王都は、夏本番と言っても差し支えなかった。国王陛下が必死で仕事を片付けたものの、やはりすべては無理で。書類を終わらせてから、追いかける話となった。


 ヴィルはそんな友人を横目に「部下をきちんと育てないからだ」と冷たい。確かにアルブレヒツベルガーは、部下への権限移譲が多かった。預けられる部下がいるのは幸せなことよ、ヴィル。大公家は一族だから裏切りは少ないけれど、国王陛下の臣下は貴族ばかり。欲の皮が突っ張った人達相手に、信用の置ける部下を選ぶのは大変でしょう。


「ローザは優しいな」


 私も一族の中で苦労したから、そう思うと告げたら、ヴィルは嬉しそうに頬を緩めてキスをした。これでもアウエンミュラー侯爵ですもの。一応領地もあるから、管理はしているのよ。もちろん、領地替えをしてもらったお陰で、かなり楽をしている自覚はあった。前の荒れた領地では、常に領地に住んで対応しなくてはならなくて大変だもの。


 血縁上の父が、無能を振り翳して搾取した大地は荒れてしまった。灌漑設備は災害で壊れ、修理されずに放置。道は管理されずに穴だらけで、とても馬車など走れなかった。領民は日々の暮らしに事欠き、子どもを養子に出したり森の木々を勝手に伐採して、糊口ここうしのいだ。


 領主家の者として申し訳なく思っている。今はアルブレヒツベルガーの庇護下に入り、豊かな土地を取り戻す途中だった。公共工事を増やして、河川と道を整える。壊れた橋や孤児院、領地内の公共設備を直した。


 農民はすべて肥料を撒き、土地を富ませるところから尽力してもらう。もちろん、農民の食料は働きに応じて備蓄を取り崩した。土地を耕す公共事業という分類だ。数年に渡り作物を作らず、土を休ませるのだとか。ヴィルに頼まれた精霊達が動いているので、この程度の期間で済むけれど……本当にあの男は、我が一族にとって疫病神だったわね。

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