92.この愛が罪であっても――SIDEヴィル
ようやくローザのすべてが手に入った。そんなふうに言ったら、友である精霊は呆れるだろう。国王であるラインハルトは笑い飛ばすかも知れない。だけど、出会うたびに恋をした最愛の人だ。
彼女に見つめてもらい、認識されて、愛情を注がれたい。あの唇で僕の名を呼び、愛していると言ってもらえるなら。この体に宿るすべての魔力を対価に差し出してもいい。善も悪も、彼女の前では等しく意味を失った。
魔力の大きさゆえに、家族と隔離されて育った。精霊がいなければ、言語も感情も覚えなかっただろう。それほどに放置されて来た。怒った精霊に見放された父母が呪術に失敗したのも、それによって命を落としたのも。僕には特に感じるものはなかった。
自動的に継承した大公の座は、親族を自称する者らに狙われた。すべて排除したことで、血塗られた大公と呼ばれても構わない。誰が何を言おうと、友は僕を理解してくれたから。そんな白黒の日常に光が差し込んだのは、ローザと出会ったあの日。彼女だけが色を纏っていた。
今も、僕の視界はほとんど白黒に近い。これは興味を持てないものに色は不要だからだ。認識する色は、愛しいローザと友だけでいい。鮮やかで美しい命の色、真っ赤な血のような髪に触れる。それだけで歓喜が胸を満たした。
僕はずるい。君を苦しめる可能性があると知りながら、対価を支払ってきた。僕自身に価値を見出していないのに、惜しんで泣く君を見て価値を知る。僕に、君が涙を流す程度の価値はあった。そのことが嬉しい。
欠陥品である僕がローザを愛し、奪うことが恐ろしくて距離を置いた。その失態で何度代償を払っても、僕は平気だ。なのに大粒の涙を流して、僕に謝ってくれた。それだけで報われたんだ。僕が壊れていると知る精霊は、肩を竦めてひらりと庭に出ていった。二人きりにしてくれるみたいだ。
おずおずと手を伸ばして、柔らかくて温かな赤い色を抱き締める。白い肌、燃えるような赤毛や美しい水色の瞳も。すべてが愛おしかった。こんな綺麗な感情が、僕の中に残っていたなんて驚きだ。濁っているのは、僕に邪念があるからかも知れない。
ローザをずっと僕に縛り付けておきたい。そのために、君の罪悪感を利用しよう。愛している、これが僕の真実だから。大公家の財産も名誉も地位も、すべて君に捧げたっていいんだ。醜い僕を捨てないでくれたら、それだけで満たされる。
愛がこんなに醜く、自分勝手な感情だと知っていたら、僕は君を愛せなかったかも知れない。不幸にしたくない。ローザが笑っていられる世界であるよう、僕は醜い面を隠し続けると決めた。
僕の隣にいて、微笑んで欲しい。時々でいいから、愛していると言って。君に触れる赦しを得られたら……僕はそれ以上を望んだりしない。愛してる――この感情が罪であっても。
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