57.頼もしい味方が増えたみたい
『本当に僕が見えてるの? この指は何本ある?』
半透明で見づらいけど、親指と小指が付いてて、残りは立ってるから。
「3本ね」
こうでしょ? と指で3を示す。ヴィルが「どういうことだ」と呟いた。だから、見えちゃいけない人なのかしら? その説明がないけど。
「ローザ、落ち着いて聞いてくれ。その子は、その……精霊だ」
「せい、れい?」
というと、アルブレヒツベルガー大公家に伝わる、特別な力の源である……あの精霊? 人を呪ったり祝福したりする、圧倒的な力の塊。普通の人には見えなくて、精霊を扱う素質のある人は少なく、大公家とその縁戚に生まれるだけと聞いたことがあるわ。
「でも……私はアルブレヒツベルガー大公家と、縁も所縁もないのに」
否定しようとする私の手を、精霊の手が握る。と、不思議なことに体温を感じた。透けていて現実感がないのに、触れた部分がほんのり温かい。日陰から日向に手を差し出した時のよう。
『素質だけなら、君より上かも知れないよ。ヴィクトール』
精霊はそう告げてほわりと笑った。外見が少年で幼く感じるせいか、とても愛らしい。言われた内容を理解するより、その笑顔に釣られて微笑み返した。
「可愛いわ」
「言っとくが、その子は数万年生きてる年寄りだからな!」
びしっと精霊を指差して言い切ったヴィルの頬が紅潮してる。もしかして……?
「ヴィル、ヤキモチなの?」
「っ、悪いか」
「悪くないわ、嬉しい」
ほんわかとした雰囲気に似合わぬ、半透明の少年はやけに大人びた仕草で肩をすくめた。
『あのさ、僕をダシにしてイチャつかないでよ』
「どこでそんな言葉を覚えて来た」
呆れたと呟くヴィルへ、精霊はにやりと笑って「さっきの広間」と答える。貴族ばかりのはずなのに、随分と言葉遣いが崩れた方がいらしたのね。
『ずっとヴィルの近くにいたけど、今になって気づいたなら……あの男と縁が切れたからかな?』
精霊はうーんと唸りながら指摘した。元夫であったレオナルドは、精霊と非常に相性が悪いらしい。彼と縁が切れたことで、ようやく私の能力が解放されたみたい。
「精霊を見られるといいことがあるかしら」
他の人に見えないなら、迂闊に人前で話しかけられないわ。おかしくなったと思われるもの。ただでさえ、人身売買された被害者で、ようやく逃げ出したら家族も同罪だった……と広まっているのに。これ以上注目される材料は要らない。
「精霊と会話ができれば、彼らの力が借りられる。頼もしい味方になってくれるさ」
ヴィルがそう言うなら。微笑んで頷いたら、ちぇっと舌打ちの音が聞こえた。
『僕が尻を叩くまで動かず、ぐずぐずと悩んでたくせに』
何? その話、興味があるわ。後で聞かせてもらいましょう。うふふと手で口元を覆って笑った私は、手招くヴィルと並んで座った。肩に頬を寄せて、彼の手が肩を抱き寄せるのを心地よく思う。
「公爵家のことは後で話し合おう。ローザの望む決着をつけられるようにしたいから、アンネも混ぜて話す方がいい」
「ええ」
提案され、私にも選択権があると告げる言葉が嬉しかった。そこで気づく。私はいつも奪われるだけで、与えられたことがなかったの。
コンコン、丁寧なノックの音と国王夫妻が到着なさった連絡が聞こえる。顔を見合わせ、頷き合った。
「どうぞ」
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