41.豪華な夜会の装いに心躍ります

 編んで結い上げた赤毛は、真珠が絡められている。その大きさは大小さまざまで、大粒のものは指輪に使えそうな品質に見えた。所々に花や蝶を模した宝石細工のピンが飾られ、後毛を少しだけ散らしている。


 ドレスは淡いラベンダー。ピンクと間違うような薄い色だけれど、光沢が強く出ると虹がかかったように色を濃くした。肩の出るドレスだから、羽織るのは肌触りの良い絹のショール。こちらはクリーム色だった。


 赤毛と淡紫のドレスを隔てるショールに、白を使うときつい印象を与える。だから乳白色にしたのでしょう。センスがいいわ。靴は濃い紫、裾の刺繍が色を濃くしたデザインだから、合わせたのね。刺繍は花園に戯れる蝶や小鳥で、髪飾りとぴったり。宝石が散りばめられたドレスの値段を考えたら、卒倒しそうだわ。


 雫形の大粒ピンクサファイアを、連なる真珠で揺らす耳飾りは初めて見た。ドレスの胸元は下品にならないギリギリの位置まで開いている。これなら、何かお飾りを付けた方が……いえ、派手すぎなくていいのかも。


 不思議に思いながらも侍女達に労いの言葉をかける。褒められるのに慣れていないから、照れてしまうわ。


 そこへノックの音が響いて、屋敷の主人が顔を見せた。ヴィクトール様に従う執事ベルントも「お美しいです」と褒め、無言で立ち尽くす主人の背を突く。


「あ、失礼しました。ローザリンデ嬢がお美しくて、言葉を失ってしまいました。今日エスコートする僕は、最高に幸せな男です」


 片足を引いて、屈むような姿勢になったヴィクトール様の前に右手を差し出す。どきどきする私の手の甲に唇が触れた。アンネに渡されたレースの手袋を持ち、スカートの裾を摘んで部屋を出ようとしたところで、ヴィクトール様がやんわりと止めた。


「こちらを僕の手で付けても、よろしいでしょうか」


 ベルントから受け取ったベルベットの箱を開き、見せられたのは首飾りだ。耳飾りと対で作られたと思われるデザインは、月に蝶が舞う豪華な飾りだった。一番大きな月がピンクサファイヤを削り出して作られている。目眩がしそう。こんな豪華な品を私に預けて、もし傷つけたり無くしたりしたら……ぞっとした。


「これはプレゼントです。返したりなさらないでください」


 遠回しに返すことが恥をかかせる行為だと匂わせ、回り込んだ彼の手で首飾りの金具が留められた。ずっしりと重さを感じる宝石に、私は「あり、がとうございます」と返すのが精一杯だった。


 緊張しながら、ヴィクトール様の手を取る。王宮の夜会へ向かう装いは完璧――後は、この方に恥をかかせない振る舞いを心がけるだけ。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ。ローザリンデ嬢をエスコートする栄誉に震えております」


 手を預けて歩き出し、玄関ホールの前に横付けされた立派な馬車に乗った。紳士的に手を貸していただき、腰を支えてもらう。女性を先に乗せるのは、マナーだから。そう言い聞かせながらも、優しい彼の手が嬉しい。なぜかベルントが笑顔で満足げに頷いたけど、何かいいことでもあったのかしらね。

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