16.待っていたのは訃報――SIDEレオ

 愛するローザリンデを手に入れて、俺は有頂天だった。他家の令息が狙っていた彼女は僕の妻だ。やっと手に入った妻を抱いた初夜以降、何度もその柔らかな体を食らった。押し倒して彼女を征服するたび、支配欲が満たされる。


 柔らかな肢体は抜けるように青白く、胸元と首にある黒子を知っているのは、僕と侍女くらいだろう。足の小指の爪が少し変形していることや、その体に残る虐待の痕までも愛おしかった。


 情熱的な赤毛と対照的に慎ましく穏やかな性格で、薄青の瞳は鋭い知性を感じさせる。事実、彼女は読書が好きだった。書斎にある大量の本を飽きもせず、次から次へと読み耽る。こっそりと本を注文して増やし、彼女が手に取る姿に満足した。


 あの聡明な女性が得る知識まで、俺が関与できることが嬉しかったのだ。一緒に食事を摂り、少しでも食べるよう促した。豊満すぎる体は好ましくないが、彼女の場合は痩せすぎだ。病的に青白い肌、細すぎる腰は折れてしまいそうだった。食べろと口にすれば、溜め息をついて従う。その従順さも好みだった。


 彼女との楽しい新婚生活もわずか数ヶ月、領地で問題が発生する。広大な公爵領の農地を潤す川が氾濫し、農作物がほぼ全滅した。それに伴い伝染病が蔓延し、領地の収益が半分以下に落ち込む。


 届いた報告書に頭を抱えるものの、現地で指揮を取らねば手遅れになる。伝染病が広がる領地へ、病弱な妻を連れてはいけなかった。万が一彼女に病が移ったらどうする。仕方なく、従姉妹を呼び寄せた。


 幼馴染で、俺のやり方や好みをよく知る子だ。明るくて社交界でも力のある彼女なら、ローザリンデを孤立させることもないだろう。領地経営の勉強も兼ねて、ローザリンデに引き合わせる。これで安心して領地へ向かえると、俺は胸を撫で下ろした。


 領地に到着すれば、すぐに現地で様々な手を打つ。伝染病は空気感染ではなく、汚染された水が原因だと判明した。沸かして飲む、濾過するなどの手順を徹底させる。軍医を集めて、野戦病院を作った。重症者の対応に当たらせ、川の整備も同時に着手する。


 騎士や兵士を総動員して領地を安定させるまでに、2年近くを費やした。その間、妻からは美しい文字の手紙が届く。月に一度、水色の便箋へ綴られる文面に支えられた。こちらの心配はしなくていい、愛しています、気をつけて。内容はいつも似ており、最後にローザリンデ・フォン・リヒテンシュタインと署名されていた。


 ローザリンデの名に、我が家名が並ぶ。どれだけ嬉しかったか。心躍らせて帰る日を思う。数ヶ月ほど手紙が途絶えたが、もう帰還は間近だ。


 王都の屋敷を離れてすぐ、彼女の妊娠を知った。生まれた子に「エーレンフリート」と名付ける。その子にも、もうすぐ会えるのだ。


「お帰りなさい、レオ」


 2年半振りに屋敷へ戻った俺を出迎えたのは、従姉妹ユリアーナと我が子エーレンフリートのみ。信頼する幼馴染の口から聞かされたのは、妻ローザリンデの訃報だった。

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