第三話 転校先での彼女
前回の話を一部改稿しました。
『 サイドテールというのか? 長めのツインテールの片方だけみたいな髪型は変えていないようだ。
どうやら、俺が昔にあげた涙型のイヤリングをしているようだ。
俺が知っている時よりも垢抜けた感じもあるが、全体的なお嬢様感がアップしていた。』
という描写に差し替えました。
―――――――
いまだに一夏が地面に倒れたままだが、俺は気にせず、今度こそ話を続きをし始める。
二愛は今度は自分の番だという事を察して、既に若干泣きそうになっている。
右に髪の毛を編み込んだ……お下げ? みたいなものを垂らしている。
それ以外は普通に黒髪のロングで耳には、これまた俺が別れるときに渡した金色の丸いシンプルなデザインのイヤリングをしている。
昔から変わらず胸は小さめで、身長もあまり大きくはなっていないみたいだ。
「俺は転校した後、自分でも驚くことに人と関わることをやめなかった。それどころか新しい彼女を作ろうという気持ちにすらなっていた。あの年ごろの子供の中では異常だったと今の俺なら思う」
こういうところも普通にこだわる理由の一つなのかもなと初めて考える。
「彼女は転校してきたばかりの俺にも積極的に話しかけてきてくれて、俺はその優しさに惚れた。クラスで一番の人気者というわけではなかったが、俺は他の誰よりも彼女が好きになり、その気持ちはどんどん大きくなっていった」
チョロいなって思うかもしれないが、トラウマの件もあったから優しくされてコロッと落ちたんだろうなと俺は名誉のために一応解説を入れる。
人間、気落ちしている時が一番人を好きになりやすいと思う……多分。
「そして、俺は彼女に告白した。彼女はOKしてくれて、俺は今度こそあんな事にはさせない! と決意した。しかし、しばらく経って、俺が先生たちを見張っていたのにもかかわらず、彼女の様子がおかしいことに気付いた」
体を鍛え始めたのはこのころからだなと補足説明も入れておく。
「はじめは、彼女が上の空だったことからだ。いつもは元気溌剌とまではいかないが、真面目な子だったから学校の授業でボーとしていることなんてなかった。しかし、その日は何かを考えているように一日中呆けていた」
この異常を見逃すべきではなかったと俺は二度目の罪を告白する。
「その日は週末だった。結局、俺は何も聞けずにそのまま土日を過ごした。月曜日、俺は彼女に金曜の話を振ってみようと思った。しかし、途中でやめた」
二愛が泣き始めた。最初から結構な号泣で、二度目の泣き声にさすがに周りの視線も集まり、数也達が居心地悪そうにしているが俺は話を止めない。
「俺はその時、彼女に話しかける寸前言いようのない不快感を嗅ぎ取った。いや、匂いだけではなかったと思う。彼女がまとう雰囲気全体が俺に覚えのある感覚を与えてきた」
こう言うと、数也達ももしかして……というような顔をする。
「俺は彼女を疑いたくはなかった。しかし、忌まわしき記憶が俺の脳裏をチラついた。最終的に自分の感覚に嘘は付けず、彼女を尾行して調べてみることにした」
ここからが佳境に入る。
俺は深呼吸をしてから、再び話し始める。
「最初は何もなかった。月曜日も、火曜日も、水曜日も。次第に彼女を疑っている自分に嫌悪感を抱き始めて、彼女への罪悪感で胸がいっぱいになった。それでも、俺の感覚は彼女を拒絶していた。俺は嫌疑が晴れたのなら、彼女に誠心誠意謝ると決めて、一週間だけ様子を見続けることにした」
これに関しては杞憂だったけどなと俺が言うと、数也達はホッとするが……勿論ここで話が終わるわけもない。
「俺が彼女に謝ったとき、彼女は非常に後ろめたそうな顔をしていた。しかし、俺は彼女を一度でも疑ったことを恥じ、今後一切彼女を疑わないと決めていたので深く追求しなかった」
これが間違いだったと俺は心の中で思う。
「それから一か月が経って、俺は彼女の様子がおかしい日があることに気付いた。何かを我慢するようにもじもじとし、頻繁にトイレに行く。椅子に座っていると頻繁に腰をぐりぐり動かす。授業中に先生に当てられると、異様なほど内股で歩いていき黒板の前でへたり込んだりする」
それは毎週決まって同じ曜日だったと俺は話す。
すでに二愛が完全に号泣しているが、誰も気にしていない。
だから、二愛がなんと泣きながらも自分を慰め始めていた事に俺以外気付かない。
お前もかよ……。
と頭を抱えたい気分だが、一夏もほとんど同じ有様なのでシャワー室に連れていくやつが一人増えただけだと無理やりポジティブに考える。
幸いにも、うちのサークルは部長がなかなかの変人なので、サークルのルールで俺は着替えを部屋においてたりする。
一夏達は着替えを持ってきていないだろうから、それを貸し出せば何とかなるだろう。
「流石にこれはおかしいと俺は思った。再び彼女を疑うことは彼女と自分への裏切りだと分かっていても、耐えられなかった。俺は木曜日に彼女を尾行した。すると、彼女は家に帰って荷物を置くとすぐさま何処かへと向かった。クラスの誰とも約束なんてしていたかったのに」
これはいよいよもって怪しかったと俺は語る。
「彼女を尾行すると、知らない一軒家にたどり着いた。彼女がインターホンを押すと、中から成人男性が出てきた。その顔はだらしなく歪んでいて、獣のように腰を動かしていたかつての担任を思い出すものだった」
この時点で嫌な予感はMAXだったと俺は当時の心証を吐露する。
「どうやらその男の警戒心は低かったようで、窓にはカーテンもかけずに二愛と合体していた。時には、窓に裸体の二愛を押し付けたりもして、さまざまなプレイをしていた。俺は許せなかった。担任だけでなく、二度も彼女を寝取られた。そのこともそうだが、またしても彼女を守ることができなかった自分が一番許せなかった」
だが、そんなふうに憤っても現実は変わらないと俺は言う。
「俺は一週間後、再びその家に向かった。事前にカーテンが閉められていないことを確認して、庭のほうにカメラを仕込んだ。きっとまた同じように警戒心皆無で、男は彼女と交わると思ったから」
案の定だったと俺は少し悲しげに話す。
「俺はその映像を持って警察に駆け込んだ。そして、俺の知るすべての事情を話した。あの時の警官がガキの言い分をどれだけ信じたかは分からないが、少なくともあの映像は動くに足るものだと思ったらしい」
数日後にあの男がニュースに出ていたと俺は思い出すように言う。
「数日後に俺は男がニュースに出ているのを見た。どうやら男は彼女の親戚で、強姦と児童ポルノ法の疑いで逮捕されたようだった。彼は罪を自白して、刑務所の中に入った。その逮捕のきっかけになった俺の盗撮も当然ながら犯罪だったが、幸いにも俺は捕まることはなかった」
それからしばらくして、彼女は学校に復帰したと俺は話す。
恐らく事情聴取やらで学校を休んでいたのではないかと思うが、真相は本人に聞いてみないと分からない。
しかし俺は、俺の横で恍惚とした表情をしている変態に事情を聴くつもりはないので、きっと永遠に分からないだろう。
「彼女は復帰してからは俺のことを避けて、俺も彼女に近づこうとしなかった。しかし、数か月経った頃に彼女が突然俺に謝ってきた。恐らく彼女も気持ちとか事情とかを整理する時間が欲しかったのだと思う」
俺の方もこの時はまだ、今ほど精神が強くなかったから、傷ついた心を癒す時間が欲しかったので丁度良かったがと当時の事情を話す。
「彼女は誠心誠意謝っていたし、彼女に非がないことは分かっていた。でも、俺の感情が、心が彼女を受け入れられなかった。俺にはあんな事があったのに元通りの恋人状態に戻るなんてことは出来なかった」
でもと俺は続ける。
「そのまま、はいさようならと別れることができるほど、俺の彼女への思いは小さくなかったし、彼女と過ごした時間も短くなかった。だから俺はケジメをつけることにした。これを区切りにして彼女とは二度と関わらないと決めた」
そして俺は彼女と寝たと俺は少し恥ずかしそうに言う。
「その翌日から、彼女は一夏の様に俺に固執し始め、俺の近くに寄ってくることが多くなった。しかし、俺は彼女を無視し続けた。彼女と話をすると、否応なく俺の
俺の心が弱かったのが原因だけどなと俺は自責の念を感じつつも、暗い雰囲気にならないように明るく言う。
「結局、小学校が終わるまで彼女とはまともに話もせず、俺は父の
本当に感謝しかないよと俺は呟く。
それに、彼女を守るために始めたことだったけど、勉強も一生懸命取り組んでいて良かったと初めて思った瞬間だな。
「俺は二度も彼女を寝取られて、流石に人と関わるのが怖くなり始めていた。進学してから、ほとんど誰とも話さず、休み時間は寝たふりばっかりしていた。そんな俺に声をかけてくれたのが、
ようやく二人目の話も終わり、ふうと息を吐いて時計を見る。
すると、思っていたよりも時間が過ぎていた。どうやら話に集中しすぎてしまったらしい。
俺が慌てているのを見て、数也も時計を見るが不思議そうな顔をする。
そして首を傾げながら疑問を
「どうしてそんなに慌てているんだい? 次の講義が始まるまで、結構時間があると思うけど……」
確かに講義だけを考えれば時間はあるが、数也は一つ見落としている。
「いや、俺はまずこいつらをシャワー室に連れて行って、着替えを貸さないといけないから」
と一夏と二愛を指さして説明する。
それを聞いて、数也はポンと手を叩き納得の声を上げ、三澪達は一夏と二愛を睨む。
その様子を見る限り、まともに相手していると昼休みが終わってしまいそうなので気付かなかったふりをする。
そのまま立ち上がり、一夏と二愛まで歩いて行って、数少ない汚れていない部位である肩を叩く。
その後、立ち上がるように声を掛けようとした、その時――。
シャーという音とともに彼女らの体がビクッとなり、下に水たまりができ始めた。
「うわっ! 汚ねえ!」
思わず正直な感想が口を突いて出てしまう。
すぐに口を押えたが、肝心の一夏と二愛は意識がトリップしている感じだからいいとしても、他の奴らの視線が鋭い。
これは流石に俺が悪いと思ったので、彼女らに謝る。
正直な感想を言ってしまってごめんなさいと言うわけにもいかず、ひたすら平謝りしただけだが、一応の許しは得た。
そして、この汚い水をどう処理しようか考え始める。
これが尿だったらまだ良かったが、残念ながらこれは潮のようだ。
はっきり言って、俺が触れただけで絶頂するとか迷惑以外の何物でもないが、これを引き起こした原因の一端が俺にあることに変わりはないので、このまま放置するわけにもいかない。
ただの小便なら、漏らしたという事にすれば何とかなるが……これはどう言い訳しても、一緒にいた俺と大学でピンクなことをしていた捉えられそうだ。
そこまで考えて、ふと、そもそもの考えが浮かぶ。
俺はこれからこの明らかに涙とか鼻水以外の液体にも塗(まみ)れた二人を連れて練り歩く訳だが……その時点で俺に不名誉な噂が立つのは避けられないのでは?
付き合っている時も、別れた後も俺に不利益をもたらしてくる元カノどもに非常にムカつくが、グッと堪えて近くにいた用務員さんに恥を忍んで掃除を頼む。
その時、現場を見た用務員さんに『えっ……こいつ、マジか』みたいな顔をされたが、無視する。
そして、今度は一夏と二愛に触れずに声をかける。
「今から俺のサークルのシャワー室に連れて行くから、付いて来いよ」
まださっきの影響が残っているのか、若干足が震えたまま二人は返事をする。
「わかったわ」
「わかりました」
周りの視線が集まって、後ろの変態どもと同じような奴らだと思われているのかという羞恥に耐えながら、廊下を進んだ。
―――――
今までの作品と比べると驚くほどの反響だったので、喜びの早め更新(当社比)です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます