第四話 文芸部の部長
フォロワー100人突破記念!
過去話じゃないから、短めなのは許してください。
――――
俺の後ろの変態どもの痴態を見て鼻の下を伸ばした男が、連れの女子に叩かれているのを横目に見ながら、俺は出来るだけ誰とも目を合わせないように俯いて歩く。
時間としてはほんの数分のはずなのに、数時間の様に感じられて地獄の時間の終わりがようやく近づいてくる。
うちの大学は講義がなくてもサークルやら部活やらに入り浸っている生徒も結構いるので、すれ違うたびに向けられる視線の量はそこまで減っていない。
そんな視線はガン無視して進んでいき、お目当ての場所にたどり着くとようやく顔を上げる。
一夏と二愛は俺が所属しているサークルに興味があるのか、背伸びをして肩越しに部室を見る。
しかし、俺はそれに構わず扉を開ける。
すると、中にはいつも通り部長がいた。
スポブラにパンツ丸出しの、学校でするべきではない格好で寝転がっている。
パソコンが開きっぱなしでまだ明かりも付いているので、恐らく、煮詰まってきて集中力が切れたから休憩しているところに遭遇したんだろう。
彼女は俺に気付くと、挨拶をしてくる。
「やあ、後輩君。今日は三限目から講義ではなかったの……か…な……」
だが、挨拶の言葉が途中で尻すぼみになっていく。
部長のことは嫌いではないが、なかなかにウザがらみしてくる人なのでまだ執筆してればよかったのに……と思いつつ、挨拶を返す。
「こんにちは、部長。早速で悪いのですが、シャワー使わせてもらいますね」
彼女は驚愕が抜けきらない様子で、返事をする。
「あ、あぁ。それはいいが……その……後ろの少女たちは誰かな?」
俺は部長の許可も得たので、一夏たちを奥の方へ連れて行き、脱衣所に押し込んでから扉を閉める。
そして部長の方へ振り返り、疑問の声にこたえる。
「あいつらは元カノですよ。いきなり押しかけてきて、あんな風に汚れてたから放置すると他の人の迷惑になると思って、シャワーだけでも浴びさせようと。いい迷惑ですよね」
俺の言葉を聞いて、部長は動揺したような声を出す。
「も…ももも……元カノ!? ……いや、それは一旦置いておこう。彼女たちは見たところ、着替えなどは持っていなさそうだったけど?」
さすがの目端の良さだ……と彼女の洞察力に舌を巻く。
「そこに関しては心配ありません。俺の置いてある着替えを渡しますから」
俺はそう言いながら、壁際のロッカーの方へ歩いていき中にある俺の鞄を漁りだす。
おっ! あったあった。しかも、丁度良くタオルが二枚見つかった。
スポーツタオルだから少し短いが……まあ何とかなるだろ。
俺は脱衣所のほうまで歩いていき、扉を開ける。
すると、一夏と二愛はすでに上がっていた。
どうやらタオルを探しているらしい。
『きゃああああ!』
二人が悲鳴を上げる。
俺はこの短時間で上がっているとは思わず、一瞬硬直してしまったがすぐに持ち直して、手に持っていたタオルを投げる。
そして、中にズカズカと入りこみ脱いである服の中から下着以外を手に取り、脱衣所を出て扉を閉め、水道のところまで歩いていく。
紐みたいなものしか籠に残っていないという事実から目を背けながら。
俺のあまりに自然な動きと素早い行動に三人が呆気にとられる中、俺は特に気にせず、汚れた服の水洗いを開始する。
最初に動き出したのは一夏だった。
脱衣所から出てきて、納得いかなさそうな顔で俺に抗議してくる。
「もうちょっと何か反応したら!?」
彼女は一見、怒りで顔が赤くなっているように見えるが……下半身をもじもじとしているのを俺は見逃さない。
怒りではなく、興奮で頬が紅潮しているのだ。
そういえば、こいつの性癖って羞恥プレイだったな……。
今更ながらに記憶が刺激され、昔の情報が掘り起こされる。
このまま放置していても
彼女は言葉をつづけようと口を開こうとしたところに、布が直撃したのでモガっと言い、顔の服を取ろうとする。
「さっさと脱衣所の方へ戻って、二愛と服着て戻ってこい。お前、その状態だと誰がどう見ても痴女だぞ」
俺の言葉を聞いて、顔から布が取れた一夏が視線を下に動かすと――裸のままの体が目に映る。
今度は恥ずかしさと、やはりほんの少しの興奮を混ぜた赤い顔で脱衣所に退散していき、バンと音を立てて扉を閉める。
その音でようやく再起動したのか、部長が水洗いに戻ろうとする俺の手をつかんできた。
「えっ! どういう事? 彼女の裸見ても動じてなかったけど、本当に君と彼女は元恋人っていう関係だけなの!?」
こんな時でも情報収集には余念がない部長を適当にあしらう。
「俺、もうすぐ講義に行かないといけないので、話は一夏たちに聞いてください」
水道のところに戻って水洗いを再開し、大まかな汚れが落とせたところで、俺はまた脱衣所の方へ歩いていく。
扉を開くと、一夏も二愛も俺の服を顔に持って行って、興奮したように匂いを嗅いでいた。
俺はそれを見ないように努めて、シャワールームの中に入り、使われなかったシャワーの仕切りに服を掛けて、踵を返し脱衣所を通り、部室に戻る。
その途中、一夏達がばつが悪そうに着替え始めていたが、それも無視する。
そして、鞄を背負って部長に一言掛けてから部室を出る。
「じゃあ。俺、講義受けてくるので。次の講義で帰るので、その前に服だけ取りに来ます」
「あ、ちょま――」
扉を閉じる際に、部長の声が聞こえた気がするが時間が本当にヤバいので、確認することはせずに急いで講義に向かう。
――――――――
講義が終わり、数也と別れて部室へ向かう。
扉を開けて、服を取ろうと中に入ると――。
人数が増えていた。
デジャブを感じる状況に、頭が痛くなる。
「なにしてんだ。お前ら」
その声で、俺が来たことを察したのか、全員が勢いよく俺の方を見る。
……部長も。
あれ? といつもと違う反応に訝しみつつ部長を眺めていると、すっと目を逸らされたので、別に用事があったわけではないんだなと思い、そのまま脱衣所の方へ歩いていく。
中に入り、シャワー室に掛けておいた服の水分が若干飛んでいるのを確認して、鞄の中からビニール袋を取り出し、その中に服を詰める。
その流れで自然に部室を退出しようとしたが……その前に三澪が動き出したのがチラリと見えると、全力ダッシュで走り出す。
が、部室を出たすぐそこに、楽しそうに会話する男女が歩いてきていた。
俺は慌てて急ブレーキをかけ、彼らにぶつかる前に止まる。
危うく、大怪我させるところだった……と冷や汗をかき、その未来が回避されたことに安堵する。
しかし、その代償に俺は三澪に捕まってしまった。
ズルズルと俺を部室の中に引き摺って行く三澪。
俺は地獄に連行されつつも、目で周りの人々に助けを求めるが……光文学園でこの程度の問題に首を突っ込む生徒の方が少ない。
他に助けてくれそうな人はいないかと横を見てみると、丁度俺と同じように部室に連行されている男が見えた。
俺と彼はお互いに目が合ったことに気付くと、あっと声を上げて――力が緩まった瞬間に、即座に部室に放り込まれた。
俺はすぐに立ち上がり、服をパンパンと叩いて、土ぼこりを落としてから顔を上げる。
「なんでこのサークルにいるんだ? お前ら」
まるでさっきまでのことは何事もなかったように振る舞う俺を見て、部長はギョッとしているが一夏達は口々に理由をこたえる。
「私もこのサークルの一員になったから」
「私はその……零夜君と一緒にいたかったから……」
「今日から、私もこのサークルに入るからよ」
「零夜もいるし、ちょっと面白そうだなって」
「あの……ダメでしたか?」
「零夜君と一緒にサークル活動出来たら楽しそうだなって」
「この部活の感じが気に入ったから」
「た、たまたまだよ」
「零夜君と一緒が良かったから」
「零夜君が行ってるサークルに興味があって……」
お前らは俺を聖徳太子か何かだと思ってんのか? と言いたいところだが、事実聞き取れてしまったので、言葉が出なくなる。
「君たち。そんなにいっぺんに喋ったら、後輩君が聞き取れないだろ」
そんな俺を見て、勘違いしたのか部長が一夏達を諫めてくれる。
それを聞いて、彼女たちがシュンとして顔を俯かせたのを確認すると俺は今度こそ逃走した。
いきなりの俺の行動に驚いたのか、誰も付いてこれていない。
そしてそのまま、俺は駅まで走り抜け、電車に乗ってマンションまで帰っていった。
その夜。
スマホから通知音が鳴り、数也からか? と思ってみてみると、部長からRINEが来ていた。
珍しいなと思いつつ、表示を見てみると――。
部長:君。彼女らは全員元カノらしいね。そんな子たちを連れてくるなんてどういう神経しているのかな?
文章でも伝わってくる怒気に、売れっ子小説家の実力の片鱗を感じ取る。
恐ろしいので、既読スルーすることにして、俺はそっとスマホの電源を落とした。
―――――
ごめんなさい。タイトルをつけ忘れてました。
後、PV2000突破記念でまた頑張って早めに投稿します。
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