後編

 遊園地を出て電車で地元まで戻り、駅前のファミレスに寄った。俺たちにはここが一番心地良い。

 

「いやー、やっぱ今日は小田と絶叫マシンのコラボが最高だったな。今思い出してもウケるわ」


 絶叫マシンの席に付くなり小田は手すりを固く握りしめ、首を斜め45度に傾けたまま固まってしまった。走り出してからもその姿勢は崩れる事無く、停車するまでの約3分間、俺たちは笑いを堪えるのに必死だった。乗車中のスマホ撮影禁止だったのが、悔やまれて仕方がない。


「先輩、苦手だったらちゃんと言ってくれたら良かったのに」


 いたずらそうな笑顔を浮かべながらハルカが言う。


「うるせーなー……その上、回転系もすぐ酔っちゃってすみませんね」


 ヤケになる小田に、俺たちのテーブルは笑いに包まれた。


 食事を終えても、ドリンクバーという強い味方がいる。

 俺たちが入学したときの話、卒業した先輩達の話、お互いの担任の話。俺たちは会話に明け暮れた。


「ちょっとトイレ行ってきます」


 ハルカが席を立つと、カノンちゃんも一緒に席を立った。


「なあなあ、ここの飯代どうする? やっぱ俺たちが奢るべきだよな?」


 二人が離れたタイミングで小田がこそこそと話しかけてくる。


「んー、そうだな。今日はチケットも出して貰ったし、そうしよう」


 普段からラケットのガットが切れただの、シューズがすり切れただので、親には沢山お金を出して貰ってる。それ以上にお小遣いが欲しい、とはなかなか言えない。


 戻ってきた二人は席に着くなり財布を取り出して、自分達の分を俺たちに渡してきた。


「これ、私達の分です。だいぶ遅い時間になっちゃったし、出ましょうか」


 俺たちの会話が聞こえていたわけじゃない。トイレに行った際に二人で決めたんだろう。




「じゃ、また来週な佐山!」


「ハルカ、またね!」

 

 小田とカノンちゃんは、ここから電車で一駅移動しての帰宅になる。二人は手を振りながら、改札へと消えていった。



「じゃ、私達も帰りましょうか」


 ハルカと俺は徒歩で帰宅する。時間も時間だし、ハルカの自宅まで送っていくことにした。


「先輩どうでした、カノン? 良い子でしょ」


「そうだね。大人しい子だと思ったけど、案外しゃべるよね。よく笑うし」


「慣れてきたら結構うるさいですよ、あの子。まだ猫被ってます」


 そう言ってフフフとハルカは笑った。


「ハルカちゃんはあれなの? なんていうか小田を、うーん、推しっていうか。そうなの?」


「ハハハ、なんですかその聞き方。好きか? って事でしょ。話面白いし、見た目も良いと思うけど、付き合うかどうかって言ったら微妙かなあ」

 

 予想外の答えにビックリした。


 ハルカが小田のことを好きで、ハルカを中心に動いていると思ったからだ。俺に言わないだけで、小田がハルカに猛プッシュしてるって事なんだろうか?


「先輩ってもしかして鈍感ですか? こないだ4人で写真撮ってってお願いしたでしょ? ……あれ、カノンが私に頼んできたからですよ。それ以上は言いません!」

 

 ハルカを見たままフリーズする俺に、ハルカは吹き出した。


「気付きました? 今日はあくまでキッカケって事で! 後は頑張ってください! じゃ、私はここで大丈夫なんで!」


 そう言うとハルカは点滅を始めた信号を渡っていった。俺は呆然とハルカに手を振る。彼女の方が俺なんかよりずっとずっと大人だ。


 ハルカと別れてスマホを見るとLINEが入っていた。


 カノンちゃんからだった。


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先輩が私のLINE聞いてくれないから、小田先輩に聞いちゃいました。

(高2の目標の話も。ごめんなさい笑)

今日はとても楽しかったです、ありがとうございました。また遊んでください!


花の音と書いてカノンより

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 ちょっと変則的な形にはなったけど、高2の目標は早々に達成されてしまったかもしれない。


 そもそも今回のデートは、ハルカと小田が俺のために企画したものだったのだろう。ハルカはさておき、小田にそんな事が出来るとは意外だった。小田には後で礼を言っておかなくては……


 そして俺も、カノンちゃんに返信をした。


 もちろん、文面は悩みに悩んで……


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こちらこそ楽しかったよ、ありがとう!

カノンちゃんで目標達成されちゃったので、新しい目標作りました。

「好きな子に告白する」

ご期待ください笑


蒼いに太いと書いてソウタより

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 そんな俺のLINEには……


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はい! 超・超・期待しています!

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 こんな即レスが返ってきた。


 次の目標達成は案外早いかもしれない。



 その時、小田からもLINEが入った。


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おいおい、今日のデート、お前とカノンちゃんのためらしいじゃん。

カノンちゃんから聞いて絶望してるんだけど。 

——————————


 どうやら、俺たちは二人揃って鈍感なようだ。


 俺の新たな『後輩に告白する目標』、小田の『後輩に告白される目標』——


 どちらが先に達成出来るだろうか……





〈 鈍感少年[The insensitive boy] 了 〉

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鈍感少年[The insensitive boy] 靣音:Monet @double_nv

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