2.戦争の記憶(レッドキングの場合)
私個人としては、大江氏が述べた「ウルトラマンと戦う怪獣や宇宙人は、様々なマイノリティーのメタファーである」という意見には、全面的にではないものの同意できる。実際、ウルトラマンに登場する怪獣には、明らかに実在の事物をモデルにしていると思わしきものがいくつもある。「怪獣使いと少年~」でも挙げられている通り、ジャミラがその分かり易い例の筆頭であるが、それ以外にも、暗示的に示されたキャラクターが複数いる。
例えば、レッドキングである。ウルトラマンにそれほど詳しくない人でも知っていることが多いこの怪獣。よく「赤くないのにレッドキングっておかしくね?」と突っ込みの対象となる。だが、別に難しいことはない。直訳すれば自ずとその意味は分かる。
レッドキング → 赤い王様 → アカの王様
そう。すなわちレッドキングとはアカ(共産主義者)の王様、共産主義圏の親玉である人物、スターリンのことである。
レッドキング=スターリンと仮定すると、彼の登場するエピソードも合点がいく。「怪獣無法地帯」において、レッドキングは海の向こうの島で猛威を振るう怪獣として描かれている。彼はチャンドラー(名前からして、冷戦下において東西どちらの陣営にも属していなかったインドの暗喩)やマグラー(琉球王国時代の民話の登場人物が語源(多分)。米軍統治下にあった沖縄の暗喩か)を下し、島の絶対者として君臨している。そして、いかに凶悪な怪獣とはいえ、絶海の孤島に住んでいるのであれば別にわざわざ倒す必要もないのに、普通にウルトラマンに倒される。何を意図してこのエピソードが描かれたのか、レッドキング=スターリンとして考えると、何となく理解できる。すなわち、東西両陣営の冷戦に否応なく巻き込まれていく日本という国の姿である。冷戦は海の向こうの出来事ではなく、戦争を放棄したはずの日本も関わっていかざるを得ない。そんな問題意識が、このエピソードには込められている。
このことは、レッドキングが再登場する「怪彗星ツイフォン」にてさらに明確化される。このエピソードにおいてレッドキングは、いつ爆発するかも分からない水爆を飲み込んだまま移動し、世界中を恐怖のどん底に陥れる存在として描かれる。これは明らかに、ソ連がアメリカに次いで水爆実験に成功し、西側諸国を震撼させた事実を基に作成されたエピソードである。もはやスターリン=共産主義国家の脅威は遠い国の話ではなく、全人類の脅威になりかねない、という問題意識がこのエピソードのテーマである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます