三人の少年騎士


「よし、これでいいわ」


 洗濯場にたどり着き、魔道具に籠ごとの洗濯物を放り込んだ後。リオはセイディに笑みを向け、「いったん休憩しましょうか」と声をかけてくる。しかし、セイディはそれに顔をしかめてしまった。セイディは、全ての仕事をさっさと済ませてしまいたかった。そのため、休憩など出来ればしたくなかった。


「……顔からして、不満が伝わってくるけれど、寄宿舎のメイド業は重労働よ。良いから、休むわよ」

「ちょ……!」

「ほら、あんたたちの次の仕事はセイディの話し相手よ」


 リオはそう言って、若い少年騎士三人に目配せする。その意味が三人には伝わていたのか、三人は「はい

!」と勢いよく返事をしてくれた。寄宿舎の外ではがやがやとした声が聞こえてくる。大方、ドラゴンの解体作業をしながら何かを話しているのだろう。


「……あの、だったら、ドラゴンの解体作業、見てもいいでしょうか?」


 そんな声を聞いていると、セイディはふと外が気になってしまった。どうせ休憩するのならば、楽しいことがしたい。いや、ドラゴンの解体作業の見学が楽しいものなのかは分からない。だが、セイディの興味を引いてしまったのは真実だ。


 セイディのそんな言葉を聞いて、リオは一旦瞳をぱちぱちと瞬かせるものの、「良いわよ」と言ってくれた。だが、最後に「面白いものじゃないわよ」と付け足すことも忘れない。ドラゴンの解体作業など若い女子が見るものではない。……まぁ、セイディならば大丈夫だと思ってしまうのだが。


「とりあえず、一旦水分補給だけしましょうか。お水、取ってきてあげるわ。あんたたちの分も」

「あっ……」

「良いから、甘えておきなさい」


 リオはそう言うとさっさと場を立ち去っていく。残されたのは……セイディと若い三人の少年騎士のみ。そんな少年騎士たちを見つめながら、セイディはふと思う。……クリストファー以外の名前を、知らないと。


「あの、良ければ名前を教えてていただけませんか? 名前を知るのも大切でしょうから……」

「あ、そうですよね。僕はルディ・シュトラウベと申します。シュトラウベ男爵家の三男坊です」


 セイディの言葉を聞いて、一人の少年騎士が騎士の礼を取りそう自己紹介をしてくれた。シュトラウベ男爵家という家名を、聞いたことはない。大方、末端の方の貴族なのだろう。……まぁ、セイディに貴族の知識がないに等しいのでもしかしたら名家なのかもしれないが。


「俺はオーティス・ハーゲンです。ハーゲン子爵家の次男になります」


 次に自己紹介をしてくれたのは、ルディの後ろに控えていた一番幼そうな少年騎士だった。彼はたどたどしい騎士の一礼をし、セイディに「よろしくお願いします!」と言ってくれる。どうやら、彼は素直なようだ。


「……僕は先日自己紹介した通りクリストファー・リーコックです」


 最後に一応とばかりにクリストファーが自己紹介をしてくれる。それに納得したセイディは、「えっと、ルディ様とオーティス様と、クリストファー様ですね」と繰り返す。そうすれば、少年騎士たちは揃えて「はい!」と返事をしてくれた。


「もう一度、セイディです。よろしくお願いいたします」


 相手が自己紹介をしてくれたのに、自分だけ自己紹介をしないのはいかがなものだろうか。そう思い、セイディは深く一礼をしてそう言う。その礼の取り方は聖女のものと似ており、少年騎士たちは少しばかり驚いてしまう。だが、口に出さなかったのはセイディが「ワケアリ」だと分かっているからだろう。


「……セイディさんって、すっごく綺麗な人ですよね!」


 そんな中、ふとルディがそんなことを言ってくる。そのため、セイディは瞳をぱちぱちとさせながら「そう、ですか?」と答える。今まで実家では虐げられてきた。両親は腹違いの妹であるレイラのことを「可愛い可愛い」とし、セイディのことはメイドのような扱いだった。そのため、セイディは自分の容姿が優れていることにあまり気が付いていない。


「えっと……よかったら、今度僕の訓練見てくださいよ!」

「……あの」

「こら、セイディが困っているじゃない」


 ルディに手を握られ、そう言われたセイディが戸惑っていると、後ろからルディにげんこつが降ってくる。そちらにセイディが視線を向ければ、そこには数人分のコップをトレイに載せたリオが、いた。リオは「余計なことを言うんじゃないわよ」と言いながらそのトレイに載せたコップの一つを、セイディに手渡してくれた。


「あんたたちはまず訓練の終わりにばてないところから始めなさい。新米だからって、容赦はしないからね」

「……は~い」


 リオの言葉に、三人は素直に返事をする。どうやら、リオはかなり慕われているようだ。まぁ、リオの面倒見の良さは昨日から関わり始めたセイディにさえ、分かっているのだが。


(……なんだか、楽しいかも)


 そして、そんな四人の戯れを見ていると、セイディはふとそんなことを思ってしまった。……その感情が、何なのかまだよくわからないのだが。

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