フレディとのお茶


「ほら、セイディ。こっちにおいでよ」


 セイディの気持ちなど全く知らないフレディは、テーブルの側に寄ってソファーに腰を下ろすとセイディのことを手招きしてくる。そのため、セイディは「……はぁ」と言いながらフレディの対面のソファーに腰を下ろす。そうすれば、フレディは楽しそうにティーカップに紅茶を注いでくれた。


「……あの、いったいいつまで……?」

「僕に帰れって言いたいの? つれないなぁ。お茶を飲んだら帰るから、もうちょっと話し相手になってよ」

「……はぁ」


 フレディの言葉に、セイディはただ生返事になってしまう。断れなかったのは、きっとフレディが満面の笑みを浮かべていたからだろう。美青年の満面の笑みは、それだけで断る気力を削いでいくのだ。そう思いながら、セイディはフレディが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。どこかフルーツの風味がするその紅茶は、とても美味だった。


「ところで、セイディはなんでこんなところでメイドなんてする気になったの?」

「……こんなところって」

「こんなところはこんなところでしょう? 給金は良いみたいだけれど、あんまりおススメはしないよ」


 けらけらと笑いながら、フレディはクッキーのラッピングを解くと魔法で取り出したお皿に、その中身を移す。そのクッキーにフレディが手を伸ばしたのを見て、セイディも手を伸ばし口に入れてみた。サクッとした触感と、仄かな甘み。素朴な味わいだが、それだけでセイディの心が癒されていく。


「おススメしないって、なんでですか?」

「そりゃあ、男所帯の中での仕事だし、警戒した方が良いと思うけれど? 特に、セイディ綺麗だし」

「……お世辞が上手ですね」

「……僕は本気なのに」


 フレディの言葉を軽く躱しながら、セイディはまた紅茶を口に運んだ。セイディは自分の容姿が特別整っているとは思っていない。特別不細工というわけでもないだろうが、平均的な顔立ちだと思っている。それはきっと、可愛らしい容姿のレイラが側にいたからだろう。セイディはどちらかと言えば綺麗系の顔立ちであり、レイラは可愛い系だった。


「私は自分の容姿が綺麗だなんて思っていませんよ。だって、腹違いの妹が特別可愛らしい容姿の子でしたから」

「そう。……キミから婚約者と聖女の座を奪った女?」

「……盗み聞きしたんですか?」

「まぁね」


 やはり、フレディから魔法を取り上げた方が良い気がする。そう思いながら、セイディは「まぁ、知られて困るようなことじゃないんですけれど」とだけ返し、もう一枚クッキーを手に取った。


「あの子は、私と違って両親に愛されていましたから」

「セイディはそれを悲しいと思っているの?」

「いえ、全く。むしろ感謝していますよ。そのおかげで私は逞しく、タフに、メンタルが鋼に育ったんですから」

「……その言葉は、ちょっと反応に困るかも」


 セイディの言葉に苦笑を浮かべながら、フレディも紅茶を一口飲む。その後「……セイディも、僕に訊きたいことがあるんだったら、訊いてもいいよ?」とだけ付け足す。すると、セイディはおもむろに訊きたいことを考え始めた。訊きたいことはたくさんある。騎士団のこととか、魔法騎士団のこととか。あと、宮廷魔法使いが何をしているのか、など。だが、そんなことをすべて訊く余裕などない。とりあえず、騎士団のことでも訊くか。セイディはそう判断した。


「じゃあ、この騎士団について教えていただきたいですね。あと、出来れば隣に寄宿舎がある魔法騎士団についても」

「オッケー」


 フレディはセイディの言葉にそう返事をすると、「面白い話じゃないけれどね」とだけ前置きをして、騎士団と魔法騎士団のことについてセイディに知識をくれた。まず、剣術を主にして戦うのが騎士団であり、魔法を絡めながら戦うのが魔法騎士団ということ。さらに、その二つはあまり仲が良くなく、いがみ合っていることが多いとも。


「……いがみ合っているんですか?」

「そう言うときが多いって言うだけ。今はそうでもないよ」


 そして、騎士団と魔法騎士団の本拠地はこの王都ではあるものの、地方にもそれぞれ部隊が配置されているとも教えてくれた。その部隊のリーダーは「隊長」と呼ばれる人間であり、騎士団の本部と同等の権力を一時的に譲渡されているらしい。


「ま、僕もあんまり騎士団や魔法騎士団と深くかかわらないから、知らないことも多いんだけれどね。ただ、今の騎士団長は王弟殿下だし、魔法騎士団の団長も公爵家のご令息だから、この二つはとんでもなく王国内で権力を持っているということは、知っておいた方が良いかも」

「……あの、フレディ様?」

「どうしたの?」

「……騎士団長って、王弟殿下何ですか!? あと、魔法騎士団長が公爵家のご令息って……本当、何ですか?」

「……知らなかったの?」


 セイディの心の底からの疑問に、フレディはただ瞳をぱちぱちと瞬かせながら答えていた。

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