面接へと

 それから二日後。セイディは王都にいた。久々にやってきた王都には、興味を引かれるものが多い。しかし、今日は仕事の面接で来ているのだから、と思い直しセイディは自分の頬を軽くパンっとたたいて気を引き締める。目的地は王宮の内部にある騎士団の本部である。


「でも、まさか二日で面接まで決まるなんて思わなかったわ」


 そう思いながら、セイディは辻馬車で王都を移動していく。辻馬車の御者に騎士団の本部へ、と伝えたときは一瞬表情をしかめられたものの、セイディが「仕事の面接に行くんです」と説明すれば御者は納得してくれた。


「ありがとうございました」


 最後に御者にお礼を伝えてお金を払い、セイディは騎士団の本部がある王宮を見据えた。騎士団の本部は王宮の内部にあることもあり、一旦王宮に入る必要がある。王宮の門番に騎士団の本部から出してもらえた手紙を見せれば、門番は快く通してくれた。


(しかしまぁ、なんて言う豪華な造り……!)


 そりゃあ、王宮なのだから豪華なのは当たり前だろう。そうは思うが、セイディは王宮の内部に足を踏み入れたのは正真正銘初めてである。だからこそ、多少挙動不審になってもおかしくはないだろう。そう、思い直した。


「セイディさん、ね?」

「……はい」


 そんな挙動不審なセイディのことを、周りの人間たちが避ける中、一人の人間がセイディに声をかけてきた。男性にしては、少し高めの声だろうか。そう思いながらセイディがそちらに視線を向ければ、そこにいたのは――とても美しい美貌をした青年だった。


「初めまして。私はリオと言います。リオ・オーデッツです。騎士団長の補佐……なんかも請け負っているの。今日は貴女を案内する役目も持っているのよ」

「えっと……リオ、様は……」

「あぁ、私は正真正銘男性よ。こういう言葉遣いだけれどね」


 セイディの疑問を先に汲み取ってくれたのか、リオはにっこりと笑ってそう言ってくれた。その後、すぐに「じゃあ、団長たちの元に案内するわね」と告げると「ついてきて頂戴」と言って歩き出す。


「……実は、貴女で三人目なのよね、希望者」

「そうなんですか?」

「えぇ、ただ一人は体験にも耐えられなくて、辞めたわ。二人目は身元がはっきりしなかったから、雇わなかったの」


 リオはけらけらと笑いながらそんなことを教えてくれる。やはり、あんな破格の給金を出せば誰だって飛びつきたくなるだろう。そう思いながら、セイディが相槌を打っていると、リオは「貴女、身元ははっきりとしているけれど、仕事に耐えられるかしら……?」なんて苦笑を浮かべながら言う。やはり、元貴族の令嬢となれば家事全般などやったことがない部類の人間だと考えているのだろう。……まぁ、セイディは違うのだが。


「いえ、私重労働には慣れているので、思う存分こき使っていただいて構いませんよ。その分、給金を下さるのであれば」

「まぁ、ちゃっかりとしているのね。……しかし、貴族の元ご令嬢なのに重労働に慣れているなんて……」

「えぇ、いろいろとあるんですよ」


 セイディは決して自らの境遇を「不幸」だとは思っちゃいない。そう思ってしまえば、「不幸」が引き寄せられてしまうかもしれないからだ。だったら、とことん明るく生きてやろうじゃない! それが、セイディのモットーなのだ。


「……触れてほしくなさそうだから、触れないでおくわ。あ、ここが騎士団の本部なの」


 リオはそれだけを言うと、一つの扉を指さしてくれた。そこには「騎士団本部」という看板が掲げられており、確かにここのようだ。それを見て、セイディはこっそりと息をのむ。そんなセイディを見てか、リオは「緊張しなくてもいいわ」とだけ告げてその扉をノックする。


「団長、副団長。新しいメイド希望者を連れてきました」

「……入れ」


 セイディの意思などお構いなしに、リオは扉を開ける。だからこそ、セイディはグッと息をのんで部屋の中に足を踏み入れた。


「初めまして、セイディと申します」


 そして、ゆっくりと一礼をする。人間は初対面の印象が大切になる。それをわかっているからこそ、セイディはそんな行動をとったのだ。


「えーっと、セイディ? 顔を上げて。とりあえず、面接するからこっちに来てよ」


 そんなセイディにそう声をかけてくるのは、聞き覚えのない男性の声。その声に合わせ、セイディが顔を上げると――。


(うわぁ、すっごい美形……!)


 そこにいたのは――銀色の首筋までの短髪と、鋭い紫色の瞳を持つ、いかにもな美青年だった。

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