求人、見つけました

「さ~て、まずは……」


 セイディがジャレッドに婚約の破棄を告げられた翌日。セイディはヤーノルド神殿のあるヤーノルド領から、少し離れた町で彷徨う目前だった。まぁ、きっちりと目的があって彷徨っているのだが。


 セイディが身に付けているのは、平民が着るような質素なワンピース。髪の毛には髪飾り一つ付いていないし、アクセサリーなども身に付けていない。むしろ、こっそりと実家から持ち出したものはすべて売り払った。そのお金を使えば、一週間は宿暮らしが出来そうだが、それ以降のことを考えると仕事を見つけた方が良いのはすぐに分かっている。


(ふぅ、なんだかんだ言ってもあの家から解放されて嬉しいわぁ)


 本日、セイディは実の父により実家であったオフラハティ子爵家を勘当された。まぁ、元よりレイラの天下である子爵家の居心地は最悪であり、セイディは勘当されることに喜びさえ覚えていた。


 だが、一文無しは困る。そう思ったセイディは、こっそりと亡き母の部屋に忍び込み、そこでアクセサリーや髪飾りを売るために拝借したのだ。いや、盗んだと言っても過言ではないのだろうが。そう思うが、セイディの実母はとても心優しい人だったので、きっと許してくれるだろう。そう、思った。


 きっと父や継母、レイラはセイディがこれから惨めに生き、泣きついてくることを楽しみにしているのだろう。……まぁ、そんな日は一生来ないのだろうが。なんといっても、セイディのメンタルは鋼である。実家で虐げられた経験があるため、家事全般も出来る。元貴族の令嬢ということもあり、身元もはっきりとしている。そうなれば、働き口を見つけることも出来るだろう。そう、考えたのだ。


「あぁ、自由ってなんていい響きなのかしらぁ……!」


 温かい日差しが降り注ぐ街中にて、セイディはとても清々しい気分だった。自身を虐げる継母や腹違いの妹。さらには無関心な父から解放されたという解放感。それが、セイディの気持ちを満たしていた。


「数日間暮らせそうな宿も取ったし、この後は住み込みで働ける場所を見つけるだけ……」


 約一時間前。セイディは街のとある宿の部屋をとりあえず三日分取ることが出来た。人のよさそうな女将さんが切り盛りしていたその宿は、セイディの事情を知り少しばかり宿泊代を割引してくれた。それが、とてもありがたかった。……いずれ、成り上がったらお金を倍以上にしてしっかりと返そうとも、決意するのも忘れない。


(聖女の力を使って隣国に……とも考えたけれど、そこまでの旅費がとんでもないものね。まずはここら辺で住み込みの仕事を探して、お金を貯めてからにしなくちゃ)


 このリア王国では光の魔力を持つ女性、つまりは聖女の生まれる可能性がほかの国の十倍以上だ。だからこそい、他国に渡れば聖女の力を使い成り上がることも出来るだろう。だが、そこまでの旅費が半端ない。考えなしで動くことは、身を滅ぼす第一歩だ。そう思っているため、セイディはとりあえずこの街で仕事探しを始めたのだ。


「……あ」


 そんな時、ふと求人の掲示板を見つける。この掲示板に、もしかしたら日雇いの仕事でもあるかもしれない。そう思い、セイディはその掲示板に近づきその張り紙に目をやった。カフェの接客アルバイト。レストランの厨房係。宿屋の受付。そんな普通の張り紙が並ぶ中、セイディの目を引いて離さない求人があった。それは――


「――騎士団の寄宿舎のメイド……!」


 王都にある騎士団に所属する騎士たちが住まう、寄宿舎。そこで、家事全般を請け負ってくれるメイドを探しているらしい。住み込みも可能であり、しかも給金は破格。その分かなりの重労働のようだが、セイディは元々虐げられていた身である。どんな重労働にも耐えられる自信があった。


「よし、これにしましょう。えっと……まずは騎士団の本部に手紙を出して、その後面接か」


 張り紙にはまず騎士団の本部に手紙を送ってほしいと書いてあった。その後、面接を取り付けると。そして、その下に大きく書いてあるのは「急募」の文字。


(私も働き口をさっさと見つけたいし、まだ決まっていないことを祈らなくちゃ)


 そう思い、セイディは近くの雑貨屋に入り、ペンと便箋を購入することにした。騎士団の本部に送るのだから、シンプルなものがいいだろう。そう思い、シンプルな白色の便箋と変哲もない黒いペンを購入する。これで残金が多少減ったものの、こういうものはいつでも使える。だから、買っていて損はない。そう、判断した。


「さて、まずは宿の部屋に戻って、手紙書いて出さなくちゃ!」


 小さくそんなことを呟いたセイディの表情は、とても明るかった。

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