第11話 ニアVSサイダーとニアVSキリギリスマン

「イエローバード無事か」

「先走るな。チームで行動するのだ」

 機械で出来た両腕をさらした一人の半変身状態の怪人と、アフリカサイの頭をのせた2メートルを超える巨大な灰色の鎧を着た男が走ってくる。

 一人の両腕を機械化した怪人は真紅の複眼をベースに緑色のコスチュームをまとう。

 口元は白いマスクで覆い、額には5センチほどの触覚が2本ついていた。

 対するサイ頭の方は両肩に大きな角が生えていて肩は自由にあがらないデザインになっている。

 自然界のサイがベースになっていて、足元から上に順々に重ねてあった。

「貴様は賞金首のニアだな。お前には、百万ワルの懸賞金が懸けられている」

 バッタを模した両腕機械化怪人が声をかけた。

「ワル」聞き慣れない単位だったから、近くにやってきたアリ人間に聞いた。

「ニアさんがでていった後、通貨危機は起き、ローレライのアンドロイド軍団の部品の中に、宮崎の秘密工場の名前があったりして、問題になったアリ。

 バラバラになった秘密結社間の貿易協定で決まった単位アリ。

 セコム(一般社会に復旧禁止技術の経済的取決め)とローレライの通貨攻勢や、株や、債券の暴落による資産目減りに対して、我々は独自の経済圏を確保して対抗するために怪人組合の了承を得て、超技術を売買する通貨の作成に踏み切ったアリ」

「ガット(世界自由貿易協定)違反だ」

 アリ人間は今更という目をした、ヨイショと鳥人間を背中にせおう。

「通貨を金持ちに売っている悪人がいるとは聞いたことはあるアリ。

 でも、不老不死や女をイカせる薬を買うぐらいで、流通全体の1%にみたないアリ。

 悪の秘密結社にだって頭のいい奴はいるアリ、ローレライのオモチャに利用される前に超技術の流出を防ぐアリ」

「賞金首」ニアが自分を指差した。

 その辺はアリ人間もよく知らないようだ。

「インターネットの『ラブラブ怪人倶楽部』に掲載されている。

 体育会系馬鹿の柳生連夜を出し抜いてやる」機械の指でニアを指差した。

「なんだ、そりゃ、人殺しなんか依頼すればサーバーがすぐに切るだろう」

「ふっ、とことん無知な奴だ。

 独立開業した怪人を支援するNGO(非政府系支援団体)だ。

 金額とかはモザイクがかかって会員しか見られない。

 一般人には分からない造語や絵文字が飛び交っている」ニアをあざ笑った。

「お前ら、『正義の味方』に鞍替えしたのか、組織が人手不足をいいことに自分を高く売る事だけは上手だな」会社人間でありアリ怪人が怒って口にする

「違う。断じて『正義』などに与してない」

 これには即反応して反論する

「オレのほうが柳生連夜よりいろいろな仕事をしてきたのに、ヤツの方が先に出世した。

 ただ便利屋のように扱われるのが我慢できない。

 ブラック・ティアも分裂したし、忠誠の意味も分らなくなってきた。

 独立していろんな所から仕事を受けているだけだ。

 脳味噌筋肉(柳生連夜)め、同じ結社にいる時は関節技の練習台にしやがった。

 オレがお前より忠誠心が低いのではなく、お前がオレの立場になった事がない」

 機械の拳を握り、真紅の複眼から赤い涙を流した。

 アリ人間はバツが悪そうに下を見た。

 彼は出世レースで特急車に乗れなかった人間の気持ちが理解できた。

「それも過ぎ去ったこと、そんな事はどうでもいい。

 オレの名はキリギリスマン。

 怪人ハンター・キリギリスマン」

 機械の人差し指でニアを指差して名乗りを上げた。

「バッタ男では駄目なの」

「それは、ちょっと」

 凄く周囲を讐戒している、何かに怯えているようだ。

「お前、違うな」

 ニアが哀れむように言った。

「さすがニアだ。良くオレの秘密に気付いた。

 オレは両腕と目をサイバー化し、耳と下半身を強化した。

 サイバー強化怪人なのだ」

「一応、目のフシ穴には、ガラス玉は入っているからな」ニアも答えた。

「俺の名はサイダー」全身鎧に覆われたサイ男が口にした。

「どちらが先なの」

「古いな」

 ニアの問いにキリギリスマンは冷笑した。

「オレ達は三人係りでやらせてもらうぜ」

 ニヤリと笑った。

「恋愛とケンカはタイマン勝負が常識だろう」

 静かに聞き返した。

「ふ、甘いな。俺遵は完全にアメリカナイズされているのさ。黄色いアメリカ人さ」

 キリギリス男が叫んだ。

「恋愛だと。坊やだな。3Pや、4Pや、スワッピングの方が遥かに気持ちいい。わ、は、は、は、は、ほ、はー」

「翻訳ソフトは積んでないから、難しい英語を使われると良く分からない」

 ニアが頭を抱えて悩んだ。

「我々の協カプレー。鉄壁のチームワーク。三位一体の攻撃、受けるがいい」

「三の内、一つはアレ」アリ人間によってビクトリー号の中に連れていかれる、焼き鳥でなくイエローバードを指差した。

「OH―NO―、イエローバード」

 外人の真似をしてオーバーアクションをする。

「まあ、いい。俺達のコンビネーションを見せてやるぜ。ゆくぞ、サイダー」

「もういい、てめえのやり方には付いていけない」

 沈黙を守っていたサイ男が叫んだ。

「何が最新式だ。何がアメリカタイプだ。ただの卑怯じゃないか」

「どうしたのだ。サイダー。今まで仲良く戦ってきたじゃないか」

 キリギリスマンが不安そうに口にした。

 ニアはアリ怪人を一度見ると、アリ怪人もニアをみて、居心地が悪そうにしていた。

「もう、おなか一杯だ。

 科学的、健康的、確率的、満腹だ。

 ここは日本だぞ。

 そんな言葉を聞きたくない。

 俺は柳生連夜の練習のサンドバッグがわりさ、いつもあいつの下で媚びるように笑っていた。

 認められたかった。

 成功を収めて色んな人に褒めて欲しかった。

 でも、事務的にワルを与えられるだけ、これなら勲章とかもらえた昔の方が良かった。

 この戦いは俺の流儀で戦う、ニアさんは連夜を倒したかも知れない男だろう。

 イエローバードも欠いている。

 これが最初で最後のわがままだ」

 大きくサイ頭をふった。

 ニアはサイ人間を見ながら、頬をポリポリした。

「サイダー、友憎パワーが大切だ。ばらばらで戦っても負けるぞ」

「英語を使うな」

 サイダーが叫んだ。

「済まん。一人で、昔のそして自分の納得のいくやり方でやらせてくれ」サイ男はキリギリスマンの横を通り過ぎるとき小さく口にした。

 キリギリスマンは何も言えなかった。

「俺には分かる。イエローバードは自由になりたかった」

 ニアは居心地が悪かった。

 上目ずかいにサイダーを見上げた。

「だから、一人で向かっていった。

 奴は戦いたかった。

 人間の淵で、そこが死の淵だとしても。

 帰って来られないと分かっていても、すべての煩わしさを捨てて一人になりたかった。

 己を、己を超えるために」

「あのー」そんなにたいそうな哲学もなく、無視された事に耐え切れなくなり暴走したように見えた。

 ニアが言いにくいなと思ったとき。

「オレには分かる。

 ヤツもオレとずっと同じ気持ちだった」人のいいニアにかける言葉がなかった.

「どうせ依頼は成し遂げる。

 複数で攻撃するのは、これは時間の短縮行為だと自分を偽り続けた。

 でも、もうイラナイ。

 金も、名声も、役職も、全てイラナイ。

 ただ裸の已を超えるためにオレは戦いたい」

 サイ男が一人だけニアの前に出てきた。

「今回は違うのだ。

 連夜が、イエローバードが、求めていたものを。

 このサイダーも求める」ゆっくりとニアを指差した。

「ニア、お前に決闘を申し込む」

「その挑戦。受けて立つ」

 一歩下がり、ニアが五指を広げて叫んだ。

「やめろ、サイダー。死に行くだけだ」

 キリギリスマンが二人の間に入る。

 サイ男は目を閉じた

「男には美学がある」

 秘密結社の構成員が良く使う言葉を繰り返した。

 それだけを耳にしたとき、キリギリスマンが道を譲った。

 その目には涙が溢れていた。

「男にはセンスがいる」ニアが口にしたとき、サイダーがニヤリと笑った。

 二人の間に同じ心を共有した同胞意識がながれた。

「男はスタイルを持っている」戦う二人は唱和した。

「オレは地球環境に優しい最新型のオーガニック・パワーだ。

 大量消費を歌っていた頃に設計されたお前と違う。

 ネオ・エコノロジーシステムによって発射されるギガ・スパー・スペシャル・光線。

 左胸からレーザー兵器と、右胸か熱線兵器ヒートビームが、ドリル上に回転しながら突き進むのだ」

「すると先程、ビクトリー号を撃墜した、怪しげな光線は」

「ふ、ふ、ふ、その通り。オレのギガ・スパー・スペシャル・光線だ」

 サイ男は胸部の装甲を開き、ガラスのオッパイをさらした。

「見よ、この完璧なビーム収束レンズを」

 サイ男が叫ぶと、レンズは太陽光を反射してキラリと輝いた。

 ニアが振り向くと後ろにはビクトリー号の翼を、夏休みの工作のように、特別大型特殊セロハンテープと秘密印の携帯型瞬間接著強カノリで修理する戦闘員達の姿が会った。

 マズイと思って場所の移動を提案しようとしたとき、手を激しく上下に動かしてオーガニック・パワーをレンズに集めた。

 赤い光を帯びて輝きだす、避けると斜線上にはビクトリー号の姿があった。

「愚かなり、戦いの中にあって戦いを忘れるとは」

「確かに、そうなのですけど、ちょっと」小声で反論した。

「俺が放射する熱エネルギーで、貴様の持つ廃熱機ジェネレーターの能力を超え、CPUの回路を焼き切ってやる」

 重力制御装置で使用する、反重力のソフトのインストールが終了した。

 両手を大きく動かして、全ての運動エネルギーを反射するバリヤーの壁を作り、中央に手のひらを貼り付け攻撃に備えた。

 ニヤリとサイ男は笑った。

「バリヤーとは愚かな、貴様の弱点は永久機関の出力上限。

 体中に散らばる全てのオーガニックエネルギー、命を維持する生体パワーを使い果たし、バリヤーの防御性能を超えてやる。

 死んだとしても、後悔はしない」

「アンタ達、ビクトリー号に戻ってきなさい」アネゴがスピーカーで悲鳴をあげた。

「ニアさんと、心中アリ」

「信じて力が及ばなかった。

 裏切られても、余程の事情と割り切れる時。

 それが本当に信じるという意味アリ」

「この死は本望アリ、むだ死でなしアリ」

 アリ怪人達はニヤリと笑い、そのまま作業を続けた。

 戦闘員達も泣きながら作業を続ける。

「にゅー」サイ男は腕や足を延ばしたり曲げたりして、激しい屈伸運動。

「ヌー」強烈な力みが入り、首がプルプル震えた。

「のおおおおおおお」オーガニック・パワーがレンズの中で激しい輝きを放つ。

「ギガ・スパー・スペシャル光線」

 膨れ上がった腹筋に力を入れて発射する。

 二つの光線が同時に発射され、グルグルととぐろを巻きながら進んだ。

 バリヤーよって行く手を阻まれた圧倒的光線達は広大な塊をとしてとどまるが、横へと膨大な奔流が流れ出し、そして勢いを取り戻しニア後方に流れる。

 アネゴのすぐ目の前、ビクトリー号の両脇を、かすりながら攻撃力を持った熱と光が走りぬける。

 そしてサイ男のエネルギーが減り始めた時、攻撃の反射が始まった。

 パワーを失ったサイ男は、自らの光線を押し返す事が出来ずに爆発炎上した。

「サイダー」

 キリギリスマンがかけつけた時、煙をあげて黒コゲになったサイ男が口にした。

「二、ニアは、どうなった。笑わないでくれ、目が見えない」

 キリギリスマンが確認すれば、周囲に巻きおこる煙の中に、はっきりと人影があった。

「スクラップでバラバラだ。見せられないのが残念だ」

 大声で叫んだ。

 ニアは生きている、でもそれ以外の言葉など見つからない。

「フ。優しいな」

 泣きながらキリギリスマンが、サイダーを抱き起こした。

「友達だろう、死なないでくれ。サイダー」

「そうしてやりたいが、もう、燃えつきちまった。

 お前は無理を言い過ぎる。

 キリギリスマンお前に誘ってもらってうれしかった。ありがとう」

 サイ男は満足そうな笑みを浮かべた。

「十四時二十分。ご臨終アリ」近くにきていたアリ人間が、サイ男の脈をとっていた。

「サイダー」

 キリギリスマンがサイダーに頬をすりよせ、鳴咽があげた。

「ええ話しアリ、ええ話しアリ」

 側にいるアリ人間達が貰い泣きをしている。

「命は一瞬、友情は永遠アリ」

「サイダーさんの遺品の中から、親子三人みずいらずの写真アリ」

「まだ、お子さん小さいアリ」

 よよと、アリ人間が泣き崩れる。

 キリギリスマンはサイダーをそっと横にして立ち上がった。

「勝負だ、ニア」

 振り向いたとき、ニアの機械の体が薄いビニールで覆われているだけだった。

 機械の目が推奨の画面上に推測をいれる。

「秘密結社ガ推測シタ結果、永久機関ノ出力上限ハ1万ボルト。

 機械ノえねるぎー変ナドノ事情ニヨリ、さいだーノ攻撃ハにあノ出カヲ上回ッタ。

 にあハ物質変換装置デえねるぎーヲ皮膚装甲えにぐま二変換シテイル。

 ソレノ逆ヲ行イ、装甲ヲ電気二変換シテ電力不足ヲ補ナッタ。

 要スルニ装甲ハ蓄電槽デモアリ、今ハ自分ヲ支エルダケノ装甲シカ残ツテナイ。

 時間ヲ与エルト、永久機関カラノ補給ガスミ、皮膚装甲ハ元二戻ル」

 ニアはコンパクトに作られているから乾電池は持たない。

 秘密結社内部に流れていた定説は証明された。

 事態はキリギリスマンに好転している。

 連夜ほどの業の技量がなくても、厄介な皮膚装甲のないニアなどブリキのおもちゃみたいなもの。

「死ねー。サイダーの最後の一撃を受けてみろ」

 懐からコンバット・ナイフを取り出してニアに向かった。

 アリ人間達が泣くのをやめて、エッホエッホとビクトリー号にサイ男を運んでいく。

 ニアはコンバット・ナイフを間一髪でかわした。

 キリギリスマンと背中と背中をピタリと張り合わせる。

「逃げるなー」キリギリスマンが叫んだ。

「逃げているのではない。

 逃げても、逃げ切れない。

 今の装甲力の強度では人間型を維持するのが精一杯で、アンタを殴ればこちらの手が壊れる」

 キリギリスマンは空中に飛び上がりながら回転して切った。

 ニアも同時に地面に倒れこむ、ナイフは空を切る。

「逃げられると思うなよ」

 残酷そうにナイフを嘗める。

「あなたの心にかけるしかない」

 ニアは胸部を両手で庇いながら静かに口にした。

「なに」

 心などと言う言葉を久しぶりに聞いた。

「赤心を人中に置く。

 単純な改造を繰り返した。

 感情まかせのあなたの乱暴な心にかける。

 死中に活あり。

 懐に飛び込み、時間を奪う」

 ニアが静かに口にした。

「なめるな、ロボット」

 作られたロボットが心を口にしたとき、キリギリスマンの中で怒りに変わった。

 ロボットに感情などなく、プログラムが選択しているに過ぎない。

 キリギリスマンの突きをニアは体を横にしてかわした。

 ナイフは横切り攻撃への変化を、ニアは腰を落としてナイフをやりすごした。

 その時だった。

 手首が扇風機のように回転した。

「いてー」

 ニアは頭部とアンテナの髪を削られて悲鳴を上げた。

 キリギリスマンの機械の手首がグルグルと回転している。

「普通なら致命傷だぜ」

「あいにく頭は飾りでね。でも、電波戦、電子戦、サイバー戦の兵器は大部奪われた」

「中国拳法にある。点(正拳突き)線(横殴り)面(体当たり)の攻撃だ。

 戦闘論理には応用が効くものもある」

 動いてない手が腰にあったコンバット・ナイフを握る。

「必殺のダブル扇風機パンチだ」

 もう一方の手首もグルグル回し始めた。

 扇風機のような風を切る音がする。

「お前は人間に近付いた。

 オレは人間をやめた。

 この差が出てきたようだな。

 面による攻撃いつまでかわせるかな」

 薄気味悪い笑みを浮かべたとき、二の腕と上腕部の中間に回転しながら曲がる間接が現れた。腕がグニャグニャと曲がり出した。

「ワ、ハ、ハ、ハ。ニア、貴様も年貢の納め時だ」

 ニアは五指を広げて

「マグネット・システムによる、マイナス電子を移動させ、腕の電線に電流を発生させる」

 今まで鞭のように複雑な動きをしていたキリギリスマンの腕が真っ直ぐのび、手首の回転が止まった。

「何だ、これは」

 とまって動かなくなった自分の両腕を眺めた。

「プロテクトの機械だって電線に電流が流れりゃ起動する。

 銀行の電子キーで試してみたら開いたよ。

 警報は鳴ったからびっくりしたけど」

「うがあああ」キリギリスマンは力をいれた。

「無駄だ。どんなに脳からの生体電流の量を増やしても、根元の方に熱を発生させ電線を焼き切った。

 力を入れても電流は流れない」

「貴様、先程の精神戦闘はどうした。

 けっこう立派な事言っていたじゃないか」

「やめた、他にいい手を思いついたから」

「そ……、そんな簡単に…」

「いいの、別に。

 あなたはサイボーグで、僕はロボット。

 でも電子の世界ではこちら側に一日の長がある。

 最近思うのです。

 僕らプログラムが擬人化したというより、人間の能力や精神や遺伝子が数値化したのではないでしょうか。

 人間が機械を組み込もうとしているのでしょうか。

 プログラムが人を取り込もうとしているのか、どちらでしょう」

 ニアが指を動かすと、キリギリスマンの機械の腕がナイフで心臓を刺した。

「終わったアリ。ハイ、十万ワルアリ」

 近くにいたアリ怪人が大きなガマロのサイフから拳大の赤銅色のコインをだした。

 表には総統閣下の横顔、裏には十万と書かれ、縁回りには『かつての栄光を称えん』と日本語で書かれていた。

「なんだ、それ」

「懸賞金アリ。一般社会への横流しは禁止アリ」

 ウォンテッドと書かれた3枚の紙を見せた。

「はあ」

「内の組織がかけていたのですよ。

 手続きの関係があるから、ニアさんの取り分は十分の一アリ」

 首をひねるニアに領収書を書かせた。

「あいつらと僕、同じ値段なの」受け取りながら聞いた。

「おかしいと思うアリ、格付け機関が勝手にしたアリ。

 あいつら、あんまり調査してないアリ」書類をチェックしながら答えた。

「でもニアさんの場合は、バックのいない個人店主ですから総合力を見た時は、妥当な評価アリ」キリギリスマンを一人のアリ人間が担ぎながら笑ってニアの不満を否定した。

「さっきから何しているの、怪人の死体運んで、まさか冬眠の段取り」

 ニアが不思議に思い聞いた。

 今までの慣習から言って、穴を掘ってこんもりと土を盛り、墓を作り、みんなで線香を上げて手を合わせるのが一般的だった。

「最近、怪人不足アリ」

「ローレライのせいアリ」

「エコロジーも問題になっているアリ、こうやって死んだ怪人を蘇生ベッドでよみがえらせて使っているアリ。

 五分以内にビクトリー号にある、冷凍庫にいれておけば、脳ミソの記憶欠落は防げるアリ。新しい怪人を作るより、教育訓練時間の短縮になるアリ」

「もちろん、洗脳チップも埋め込むアリ。

 ヒト、カネ、モノが足りないけど、技術力はあるからこの方が経済的アリ。

 他の秘密基地の技術と融合できお得アリ。

 それでも、この腕はみっともないから、新いのを生やすアリ」エッホエッホ運んでいく。

「いいのかな、これで」

 ニアの悩みをよそに修理を終えたビクトリー号が、関東へと旅立っていった。

 ローレライがどれだけ強力かは知らないが、秘密結社も簡単には滅ばないだろう、想像以上にたくましい連中だ。

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