第420話 強くなるために必要なもの

 フェンリルが突如どこかへ向けて走り出したのを見て、サンドラよりも早く、アイスがその意図に気付いた。


「みんなッ! ウェイドくんが狙われ、てる!」


 少し離れて待機していたサンドラは、トキシィと共に血相を変えてアイスの下に駆けつける。


「ウェイドはどこ」


「どっ、どどど、どうすればいい!?」


 サンドラ、トキシィの二人が詰め寄ると、アイスは呼吸もはさまずに即答する。


「―――商人ギルド本館! あそこにウェイドくんを運び込んだ、の。フェンリルくんが飛び出したのもそっち……! だから」


「分かった」


 言うなり、サンドラはサンダースピードで、一瞬の迷いもなく駆け出した。


 街並みがドンドンと飛んでいく。サンドラは途中で建物の屋根に駆け上がり、フェンリルの様子を窺う。


 同時に、サンドラの連絡用通信指輪が震えた。擦る。指輪から、アイスの声が聞こえてくる。


『サンドラちゃん……! どう!? フェンリルくんは……!?』


「多分先に着く。フェンリルの動き、本気じゃない。本気でもあたしより少し遅い」


 屋根という見晴らしのいい場所からフェンリルを見るに、フェンリルの動きはまだまだ余裕があった。


 恐らく、こちらがフェンリルの意図に気付いたことに気付いていない。油断している。その油断を、サンドラは逃さない。


 サンドラは屋根から降りて駆け抜ける。屋根から降りれば、フェンリルの目視ではサンドラを見つけることは不可能に近い。


 あとは、気づかれないようにルート取りすればいい。なるべく曲がり角のないように、まっすぐ目的地へと駆け――――


「―――今、抜いた」


 その報告に、指輪の向こうから明らかにホッとした様子が伝わってきた。


 無理もない。今のウェイドはかつてないほど死に瀕している。アイスとトキシィは中でもウェイドにダダ甘だから、この状況は気が気でないはずだ。


 サンドラは、屋根の間から見えるフェンリルよりも先を進む。このままの速度で進めばウェイドは回収できるし、しばらくは問題なく逃げ回れるだろう。


 サンドラは目的地、商人ギルド本館に辿り着く。まだ通信は切れていないので、短く報告しながらサンドラは魔法を放つ。


「本館ついた。壊す。壊した。ウェイドいた。確保。抱えて逃げる。役得」


 本館の壁を電撃で破壊し、突入。アジナーチャクラで場所を特定し、氷兵からウェイドを譲り受けて、サンドラは再び走り出す。ついでにウェイドをギュってしておく。よし。


 だが、ここまで派手に動いて、流石にフェンリルにバレないではいられない。


「っはは! さっすがサンドラ様ですわ! マジで速いなあんた!」


 フェンリルが速度を上げて追ってくる。それを尻目に、サンドラは再び「サンダースピード」と唱え、電光石火で逃げ出した。


 ―――ここから、しばらくはサンドラとフェンリルの追いかけっこになるだろう。


 サンドラはそう予想する。というのも、アイスもトキシィも、機動力ではサンドラには圧倒的に劣るからだ。


 その分二人は頭が良く、取れる手段も多彩だから、何か打開策をもってフェンリル打倒に動いてくれるだろう。


 だが、それにも時間がかかる。そしてその時間を稼ぐのが、サンドラの一番の役目となる。


「ウェイド、大丈夫? 体が痛いとか、ない?」


 サンドラはウェイドを抱えながら、そっと語り掛ける。ウェイドは深く眠っているのか、寝息を立てるばかりで返答がない。


 ウェイドがここまで弱ったのは、ムラマサの時以来か。あるいは、あのとき以上に疲弊している。


 無理もない。北欧神話の主神すら死ぬ一撃を耐えているのがおかしい。


 ここで死なずにいる。それがウェイドの出来ることだろう。そしてそれを立派にやり遂げてくれている。サンドラは頷き、さらに足に力を籠める。


「みんな頑張ってる。だから、あたしも頑張る」


 サンドラは、さらに速度を上げる。電気の残滓を弾けさせながら、どこまでも駆け抜けていく。


「いいですよ、サンドラ様! 追いかけっこと行きましょう! ちょうど全力で走りたいと、思ってたところだったんですよ!」


 それに、背後からフェンリルが追いかけてきた。サンドラは、チラリと背後を確認する。


 大きく体を躍動させて、サンドラを追ってくるフェンリル。建物の間を器用に走り、飛び回っている。


 ―――速い。サンドラの予想よりも。いや、と気付く。


 これまでちょっかいをかけて見えてきたのは、フェンリルがどんどんと強さを増している、という事だった。


 成長。その一言で終わらせるには惜しいほどの速度で。


 まるでウェイドを見ているような、圧倒的な成長速度。それに伴って、フェンリルは出来ること、出せる結果が上がっている。


 走ればより速く、嗅げばより的確に。フェンリルに起こっているのは、そういうことだ。


「……まずい、じり貧」


 サンドラは、そう呟きながら、走る足を止めない。どんどんと速度を上げて、ウェイドを抱えて逃げ走る。


「待ってくださいよッ! サンドラ様!」


 フェンリルはまた、グン、と駆ける速度を上げる。サンドラは電光石火で屋根の上を駆け抜けながら、唇を噛む。


「……もう、上げられない」


 全速力。文字通りの、サンドラの限界速度。ついにか、と思いながら、サンドラはそれでも駆け続ける。


「……!」


 歯噛み。サンドラは、険しい表情でフェンリルから逃げ続ける。


「はははははっ! サンドラ様! 疲れてきましたか!? 段々、遅くなってきてますよ!」


「遅くなって……ない……! そっちの速さが、上がってるだけ……!」


 サンドラが言い返すと、フェンリルは楽しそうに「そうでしたか!」とさらに速度を上げる。


「やっぱり、この体はいいですね! 本当に、本当に強い! 弱かったザコ魔人の体とは、まったく別だ! 強ければ、無力に苦しむ必要がなくなる!」


 強さ。フェンリルの、語る『強さ』に、サンドラは違和感を抱く。


「強いって、何……! 強くて、良いことなんかある……!?」


「あるじゃないですか! 少なくとも今、サンドラ様に追いつけそうなのは、俺が強くなったからですよ!」


「仲のいい相手をこれだけ傷つけて追い詰めて、良いことって何……!」


 サンドラは言いながら、背後に向けて電撃を放つ。


 しかし、ゼウスを宿してもいないサンドラの攻撃は、フェンリルには意味などなさない。目晦ましにもならないか、とサンドラは歯を食いしばって走り続ける。


 だが、サンドラの言葉の方は、フェンリルに何かを考えさせた。


「――――なら、弱くていいことって何ですか。弱くていいことなんて、欠片もないじゃないですか!」


 フェンリルの巨大な前足が、街並みもろともサンドラを薙ぎ払おうとする。それをとっさに高く跳躍して回避し、サンドラは瓦礫に着地して、再び駆け抜ける。


 今、サンドラはフェンリルの攻撃範囲に捉えられていた。腕の中のウェイドを見る。今、一撃でも喰らえば、サンドラはともかくウェイドは死にかねない。


「弱ければ貪られるだけだ! どこまでも奪われるだけだ! サンドラ様! 俺たちはスラムで、奪われつくした魔人たちを見てきたじゃないですか!」


「弱くていい、なんて言ってない。あたしが言いたいのは」


「ああ、うるさいってんですよ! グレイプニール!」


「っ」


 予備動作なしに、瞬時に現れたグレイプニールがサンドラの足を掴む。


 だが、サンドラにはスワディスターナチャクラがある。胎内に宿したチャクラの赤子が、サンドラへのあらゆる攻撃を避けさせる。


 しかし。


 フェンリルはすでに一度、ドンフェンの記憶を通して、ヨーギーとの戦いを経験していた。


「そうか。概念防御ですね。なら、こうだ」


 ―――グレイプニール。サンドラ様の概念防御を崩し、捕まえろ。


「なっ!?」


 瞬時に伸び来たグレイプニールは、回避不能の動きで、サンドラの中の二つのチャクラを破壊した。


 スワディスターナチャクラ、チャクラの赤子が括られ縛られ、アナハタチャクラ、第二の心臓が紐の圧力によってバラバラにされる。


 そこからさらに伸び来たグレイプニールが、サンドラの足を縛った。


 グン、と引かれる。軽くもがくが、すぐに人の身で解けるものではないと理解する。


 ならば、手は一つだ。


「スパーク」


 サンドラは自らの足に電撃を放ち、掴まれた足を切断する。


「あんたら、グレイプニールに掴まるといっつもそれですね!」


「っく」


 サンドラはさらに詰めてきたフェンリルの前足攻撃をギリギリで回避した。しかし失った足を取り戻すのは容易ではない。


 結果、サンドラは上手く片足で着地しきれず、転ぶ。凄まじい速度で走っていた分だけ、派手に地面を跳ねる。


 だが、それでもサンドラはウェイドを抱きしめ、傷だらけになりながらウェイドを守った。


「はぁ……はぁ……! く、まぁまぁ、痛い……」


 荒い息を吐きながら、サンドラはウェイドの様子を確認する。傷はない。守りきれた、と安堵する。


 しかし、と次に自分を確認する。足は落ちた。出血も激しい。派手に転がった分、全身に細かい傷ができている。


 だが、追手はそんな必死さに価値を見出さない。


「やっと捕まえましたよ、サンドラ様。これで、ご主人様共々殺せます」


 フェンリルは、勝ちを確信し、ゆっくりと近づいてくる。


 どこまでも強さを信奉し、それを否定されたくないフェンリル。サンドラはその姿を見て、不意に、思い出した。


「……分かった。フェンリルは、昔のあたしに似てる」


「は? 何ですって?」


「――――っ」


 言葉を投げかけ、僅かにできたフェンリルの隙を、サンドラは逃さない。


 片足だけでも走り出す。サンダースピードに乗っていれば、走りづらくとも逃げられない訳じゃない。


「小賢しいってのはこういうことを言うんですかねぇ!」


 フェンリルは瞬時に加速し、襲い掛かるように跳躍する。片足となった今、すでに速度は大幅に負けている。


 だが、手がないとは思わない。サンドラは横に急カーブし、フェンリルを惑わせることで回避する。


「諦めが悪いですよ、サンドラ様!」


 フェンリルは一瞬自らの速度に振り回されたが、すぐに軌道修正して追ってきた。僅かに距離ができるが、すぐに詰められ始める。


 サンドラは必死に思考を巡らせ、どうにか捕まらないように走りながら言う。


「あたしも、そうだった。強ければ何だって解決すると思ってた。だから弱い奴は要らないと思ってた。トキシィも、アイスも、クレイも、ウェイドの足を引っ張るって」


 サンドラがウェイドパーティに加入したばかりの時。サンドラはウェイドだけを引き抜いて、二人パーティ、ないし他に強い奴を見繕って入れればいいと考えていた。


「けど、今は違う。強いだけじゃ、大した意味はない」


「意味って何ですか! サンドラ様、煙に巻くようなこと言ったって、俺には効きませんよ!」


 グレイプニール! フェンリルが叫ぶと同時、サンドラの腕が捕まれる。スパーク。サンドラは掴まれた腕を切り離す。


 片腕片足。それだけでサンドラは、ウェイドを抱えて駆け抜ける。駆け抜けながら、フェンリルに語り掛ける。


「意味は、意味。強さは意味じゃなくて、道具……っ。道具は後から手に入れるものでしか、ない。意味があるのは、本当に大事なのは―――」


 サンドラは、密かに進めていた準備を終え、片足だけで加速する。「っ?」とフェンリルは急に速度で負けて困惑し。


 そこにサンドラは、振り向いて、で、ゼウスの雷霆を放った。


「―――意志。狂気的なまでの、意志」


 フェンリルの顔面を貫いて、ゼウスの雷霆が弾ける。


「ギャァアアアアア!」


 フェンリルは悲鳴を上げて、速度に乗って倒れこんだ。バザールの建物をなぎ倒しながら、横転した巨大な体が転がっていく。


 それに勝ち誇るのがサンドラだ。


「やっとまともに効いた。走りながらゼウスの調整するの、結構大変だった」


 サンドラがしたことは、そう複雑なことではない。


 ゼウスを全身に降ろすと、意識までゼウスに染まってしまう。すると考えなしに動いてしまうので、降ろす部位を腕と足に絞ったのだ。


 お蔭で、フェンリルの鼻っ柱、多くの生き物の弱点に相当する部位に、ケラノウスの雷霆を叩き込めた。


「がっ、なに、いま、なにが」


 効果は抜群。倒れたフェンリルは混乱と痺れにやられて、上手く立ち上がれない様子でいる。足に力を入れるも、瓦礫に滑り、再び倒れるのを繰り返している。


「フェンリル。強さは、後から付いてくるもの。フェンリルもそうだったはず。必要なのは意志。大事なのも意志。分かる? フェンリル」


 サンドラは瓦礫にそっとウェイドを横たえて、「闘神インドラ」と唱えてチャクラを復活。少しずつ再生する手足に息を吐き、本腰を入れて戦闘態勢を整える。


「あらゆる戦闘は、意志同士のぶつかり合い。強さ比べじゃない。意志の総量で勝敗は常に決まる。だからあたしは、フェンリルに負けるとは思わない」


「何で……ですか……! 俺、だって……!」


 フェンリルはふらつく足腰で立ち上がろうとする。それに、サンドラは言い放った。


「あたしは、この世で一番大切な人ウェイドを守るために戦ってる。だから負けない」


 サンドラは、正面からフェンリルを見据える。フェンリルは歯を食いしばり、立ち上がって叫ぶ。


「―――俺だって、ローロを!」


「守るためじゃないよね、フェンリル?」


 フェンリルの虚を突いたのは、トキシィだった。


 トキシィは、まるで家の玄関から出てくるように、フェンリルの口の中から現れた。フェンリルは動揺するが、すぐに思い直してトキシィを噛み砕く。


 噛み砕いたかに、見えた。


 だが、トキシィは、ぽちゃん、という音と共に無傷でフェンリルの口から飛び降りた。素早くヒュドラの幻影を広げ、翼で滑空しサンドラの下に飛んでくる。


「やっほ、サンドラ! いい仕事だったよ。言葉で気を引いてくれたのも助かっちゃった。満身創痍だけど……大丈夫そうだね」


「お疲れ様、トキシィ。あたしは大丈夫」


 軽くハイタッチをして、サンドラはトキシィと労い合う。


「は? な、トキシィ様……? い、いつ間に」


「いやー、二人とも速くって困ったよホント~! でも、その分油断してたね、フェンリル」


 トキシィの肩に、チチッという鳴き声と共に小鳥がとまった。冷たい氷の鳥。アイスの放つ魔法の鳥。


 その鳥は、氷で作った砂時計、氷時計をくちばしに咥えている。


「アイスちゃんの支配領域で、コッソリ忍び込ませてもらっちゃった! お蔭で毒、仕込みたい放題だったよ」


「……はは、だから、何だって言うんですか。さっき俺をちょっと痺れさせた程度の毒じゃないですか。今じゃほら、成長した分ろくに効いでばいべ……?」


 フェンリルは、いきなり自分の活舌が悪くなったことに、違和感を覚える。


 そして、視線を下ろして、呼吸を止めた。


 内臓。フェンリルが今喋った拍子に、内臓が溶けだして、フェンリルの口から零れ落ちた。


「な、ぁ、ぼ、ぶぇ」


「さっきの麻痺毒は、私の手加減だよ、フェンリル。魔人って殺すと復活するじゃん? だから死なないように調整した毒だったの。でもフェンリル、思ったより強いからさ?」


 トキシィは僅かに陰のある笑みを浮かべ、言う。


、本気の毒にしたんだ。死なれても困るからね、全力出せないしー」


「……!? ぐ、べ、がぁ、ぇ……!」


 内臓が溶けだし、口からこぼれだすフェンリルには、もうまともに会話することなどできない。


 生きて立っているだけでも、すさまじい生命力なのだ。それ以上の動きは不可能だろう。


「んー? 何々ー? 毒は毒として、何でフェンリルの攻撃全部、私に通らないか説明しろってー? 仕方ないなぁ、教えてあげるよ」


 トキシィは得意げに、フェンリルの言葉を捏造する。それから、サンドラの手を掴んで、自分の体に突っ込んだ。


 サンドラの腕が、トキシィの体の中に沈みこむ。液体。トキシィの体が、液化している。


「私ね、ヒュギエイアの権能を奪ってから、自分の体を液体に変えられるようになったんだよね。だから物理攻撃ぜーんぶ効かないの!」


 それで、とトキシィはにっ、と笑う。


「フェンリルの支配領域は、噛みつき、つまり物理依存でしょ? だからダメだったってワケ」


 フェンリルは、目を剥いてトキシィを見た。


 サンドラも、説明を受けた時は随分と驚いたものだ。自分もアナハタチャクラを得たが、トキシィもさらに強くなっている。


 恐らく、トキシィがこの特性を得ていなければ、フェンリル戦はもっと苦しいものとなっていただろう。それを思うと、感謝しかない。


「トキシィの成長には助けられた。あたしも土壇場でちょっと強くなったけど」


「フェンリルを一撃でこかすんだから、サンドラもすごいよ! あっ、ちょっ、やめてサンドラ。絶妙な力で私の内臓揉むの止めて? 派手に動かす分にはいいんだけど、力加減がちょうどいいと内臓がたぷたぷ動いてヴォエ」


「ごめん」


 かなり深刻そうに顔色を悪くして崩れ落ちるトキシィに、サンドラは謝る。手触りがいいからと指を動かしていたら、えずかせてしまった。


「ともかく」


 サンドラは仕切り直す。


「あたしたちは、ほんの一年前までは、フェンリルの足元にも及ばないような実力だった。多分、フェンリルじゃない、レンニルっていう魔人にすら負けるようなザコだった」


 サンドラは、フェンリルに語り掛ける。巨大な主神喰らいの狼は、震える足で、しかし倒れないでこちらを睨み返している。


「でも、強くなった。強くならなきゃいけなかった。ウェイドはいつも、あたしたちの何歩も先を歩いてた。置いていかれないように、あたしたちは必死だった」


 サンドラはケラノウスを構える。矢のような神の武器に、バチバチと激しい雷が宿り始める。


「でも、本当は置いていかれないためじゃなかった。だって、ウェイドは優しい。あたしたちがずっと後ろに居れば、きっと戻ってくる。ワクワクを捨てて、あたしたちを優先する」


 サンドラは、そんな優しいウェイドが好きだ。だがそれ以上に―――ワクワクして、全力でドンドン先に行ってしまう、そんなウェイドが好きだった。


「あたしたちは、ワクワクしてるウェイドを守りたかった。その姿が輝いて見えた。あたしたちのためなんかに、この輝きを失わせたくなかった」


 ケラノウスに溜まる雷が、最高潮に達する。サンドラは大きく息を吸って、ぐんと重心を前に移動し、ケラノウスを振るう。


「大事なのは、意志。狂気に至るほどの、意志」


 主神ゼウスの雷が、主神喰らいフェンリルに突き刺さる。


「ぁぁぁあああああああああアアアアアアアアアア!」


 血を吐き、内臓をこぼしながらフェンリルは叫ぶ。それはまさしく、断末魔のそれと言って差し支えない。


「強さは二の次。覚えておいて、フェンリル」


 神殺しの毒。主神の雷。それを受け、とうとうフェンリルは倒れ伏す。

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