第395話 己を知る
空中に飛び出しながら、「ウェイド!」とギュルヴィが叫ぶ。
「あのニセモンはどう動くと思う! お前の勘だけが今頼りだ!」
「この状況で、俺なら……」
少し考えを巡らせ、答える。
「ギュルヴィ! お前に向かうはずだ! 多分偽物は、俺自身との戦いをメインディッシュだと思ってる!」
「おいネタバレすんなよ。ギュルヴィには不意打ち掛けるつもりだったのに」
偽ウェイドが、どこからともなく飛び上がり、ギュルヴィに急襲を掛けた。それを、ギュルヴィは風で素早く回避する。
ギュルヴィの服が、偽デュランダルで切られる。「あっぶ……!」とギュルヴィ目を剥く。
「はははははっ! それで!? どうしてくれるよお二人、さんッ!」
翻って偽ウェイドは、空中で姿勢を固めて、大剣デュランダルを構えた。この雰囲気は、と俺もデュランダルを振りかぶる。
「ギュルヴィ! 受けるな!」
「間に合うかぁおい!」
偽デュランダルは高速で振るわれ、そしてギュルヴィに直撃する寸前で巨大化した。キリエにはしなかった、攻撃力極大の高速攻撃。
ギュルヴィは躱した。だが、躱しきれなかった。脇腹を切られ、錐揉みしながら落下していく。
だが、俺にはそれを助ける余裕などなかった。
「安全圏だと思ってんなよ、俺!」
「思ってねぇよ、俺!」
偽ウェイドが、ギュルヴィを切った勢いで、そのまま俺目がけてデュランダルを振り抜いた。俺はそれを読んでいて、デュランダルを奴に振るっていた。
デュランダル同士がぶつかる。ギィイイイン! と激しい音が響いて、両者のデュランダルがその威力にへし折れる。
手はしびれ、お互いにわずかな隙が生まれる。お互いに生まれた隙を、突くために、しびれた体で肉薄しあい、激突した。
組み合う。組み合いながら、思う。
こいつマジかよ。自分がピンチでも、相手のピンチを見つけて突っ込むのに、まったく躊躇がない。しかもめちゃくちゃ楽しそうに笑ってる。こいつやば。
「おうおう本物がよぉ! お前自分が相手だってのに楽しそうだなぁ!」
「ニセモンのお前の方こそ楽しそうじゃねぇかこの野郎! いっちょ前に人のことからかいやがって!」
「「リポーション!」」
同時に斥力を放ちあって、俺たちは急速で離れ合う。それから「「オブジェクトポイントチェンジ!」」と大剣デュランダルを、重力で矢のようにお互いに放った。
向かってくる偽デュランダルを、寸でのところで躱して掴む。偽物は、その造りのそっくりさ加減に俺の意思を完全に組んで、一気に巨大化して偽ウェイドへと向かった。
デュランダル同士がぶつかる。再び響く、うるさすぎる金切り音。デュランダルは両方へし折れるが、俺は―――俺たちは寸前で手を放しているから、今度はどちらも痺れていない。
「「オブジェクトポイントチェンジ!」」
お互いに、重力魔法で掴みあう。俺をピンボールにする気か! と「「ポイントチェンジ!」」と唱えて自分を固定する。
結果発生するのは、お互いに魔力で押し合う重力魔法比べ。
しかし勝負などつかない。何故なら両方俺だから。
「ふんぬぅぅぅうううううう!」
「おりゃぁぁぁああああああ!」
顔がお互いすごいことになるくらい力を込めて、重力魔法で押し合う。
ぐ、クソ……! 何で、ここまで差がつかない……! キエロの奴、どんな支配領域だこれは……!
そこで、差異がもたらされる。
「マジでお前らって同じなのなッ」
地面に落ちたはずのギュルヴィが、偽物目がけて竜巻の魔術を放った。
リポーションで直接当たりはしないモノの、目くらましとしては十分か。「ぐわっ!」と偽ウェイドは構え、その隙を突いて俺は奴を振り回す。
「吹っ飛べおらぁぁぁああああ!」
「うぉぉああぁぁぁぁ……!」
偽物が遠くへ飛んでいく。直後、ギュルヴィが俺の手を掴んで、「一旦体勢を立て直すぞ。このままだと埒が明かねぇ」と地面へと急降下する。
路地裏では殺し合う魔人の姿も少なく、ちょっと蹴散らす程度で、適当な空き家の中に避難できた。二人で椅子に座って、大きなため息を吐く。
すると突然、ギュルヴィががなった。
「―――ウェイド! 何だぁあいつは! 今のお前あんな厄介なのか! えぇ!?」
「いやマジで厄介だったなあいつ……! 何やっても思考回路が同じだから全部相打ちになる。心が読まれてるみたいだ。楽しくなってきた」
「楽しさは一旦後に回せバカタレが!」
スパーンッ、と頭を叩かれ、俺は反省の構え。しかし、となるとどう奴を攻略したものか、となってくる。
俺の理解を促すように、さらにため息を一つ吐いてから、ギュルヴィが言ってきた。
「ウェイド、良いか? アイツはお前がそのまま敵になったようなもんだ。だから、お前が全力を出しても絶対敵う相手じゃねぇ。しかも、再現度が高すぎて、成長すら被せてきそうだ」
「それされたら本当に詰む」
最悪これを機に色々強くなっちゃおうかな、とか思ってたけど、向こうが全く同じ成長をしてきたらどうしようもないなそれ。
「となると、やっぱお互いの違いを活かすしかない。分かるな?」
「そうだな。そしてその違いってのは、ギュルヴィなわけだ」
「よし」
俺たちは拳をぶつけ合う。
「ギュルヴィ、どうすればいい? 俺の考えは一応あるけど、多分それは向こうも持ってる考えだ」
「一旦それを話してみろ。それを聞いてから、俺がウェイドじゃ思いつかない策を立てれば倒せるってことになるだろ?」
「おっ、賢いな。じゃあ―――」
俺は、自分一人で、ギュルヴィと組んだ自分自身を倒そうと思うなら、どう動くか、という話をギュルヴィに話して聞かせる。
すると、ギュルヴィは僅かに考えて、こう答えた。
「なら、この方法で勝てる」
ギュルヴィの話に、俺は目を丸くする。確かに、それは俺の発想になかった。そして、それは確実に俺の弱点を突くことになる。
俺は、笑った。
「やろう。やろうぜ。それなら、行ける」
「よし、じゃあ迷ってる時間がもったいねぇ。ニセモンを、殺しに行くぞ」
俺たちは立ち上がる。方針は決まった。後はやるだけだ―――
そう思っていた俺たちの元に、巨大化したデュランダルが、建物をぶち壊しながら突き立った。
「仲良く作戦会議してんじゃねぇぞ俺ぇぇえええええ!」
デュランダルの柄を掴んで、デュランダルを急速に縮める。その勢いでニセモノが室内に飛び込んでくる。
「―――――ッ!」
「早速お出ましだぞウェイドォッ! 作戦通り任せたからなッ!」
「おうッ!」
ニセモノの手を覆うは手甲のデュランダル。素早い動きでギュルヴィを潰そうとするのを、俺が止める。
拳での乱打戦。お互いにリポーションで低威力攻撃を弾き、リポーションを貫通する高威力攻撃を回避してカウンターを放ちあう。
結果出来上がるのは、一撃一撃が必殺級の連打の応酬だ。お互いに、一撃でもまともに食らえばそこから崩れるのが分かるから、必死に打ち合い回避しあう。
「避けてんじゃねぇぞニセモノォッ!」
「こっちのセリフだ本物野郎ッ!」
だが、それでは終わらなかった。途中で俺たちは、お互いに業を煮やして掴みあい、確実に当たるよう拳を放つ。
どちらともなくバランスが崩れて、倒れ、拳を放ち、何度もマウントポジションを奪い合って、もみ合いながら地面を転がる。
最後に俺は、強く蹴りを放ってニセモノを吹き飛ばした。ニセモノはニセモノで、自分から飛び退って、ほぼダメージなしに距離を作る。
俺は素早く起き上がって、ニセモノとにらみ合う。自分と全く同じ顔をした奴と。
そして、言った。
「「ギュルヴィ! これじゃ埒が明かねぇ! 手伝ってく、ッ!?」」
俺とニセモノの言葉が全く同時に重なって、俺は気味の悪い思いをする。強くニセモノを睨みつけて、「「おい!」」と言い合う。
「「何ギュルヴィに助け求めてんだよ! お前ニセモノだろうが!」」
これもまったく同じだ。一言一句違わずに、俺たちはお互いを怒鳴り合う。
「う、うおぉ……。マジでどっちがどっちか分からねぇ……。何にも差がないぞお前ら……」
ギュルヴィはギュルヴィで、この状況に混乱しているようだった。
俺もまさかここまで動きが一致してくるとは思っていなくて、目を丸くしてしまう。全身にゾワゾワと、かつてない嫌悪感がある。
そして思うのだ。やはり、ニセモノもギュルヴィを狙ってきた、と。
俺たちはそのままやり合っても勝敗がつかない。何故ならそっくり過ぎるほどにそっくりだから。である以上、仲間とか敵である以上に、ギュルヴィを利用しなければ勝ちはない。
そして、そう考えるのであれば、ギュルヴィが明確にどちらかの味方に付くと、味方に付かれなかった方の不利になる。
それが分かっていれば、俺のことだ。こうやってもみ合って、本物ニセモノの区別をつかなくしてくるくらいのことはするだろう。
「「ギュルヴィ! 早く手伝ってくれ! このままじゃ―――」」
そう俺たちが同時に言った瞬間、ニセモノの方が、素早く結晶剣を三本、ギュルヴィに放った。
重力魔法を使った必中攻撃。結晶剣は刺されば、内側から肉体を破壊する。結晶剣を寄せ付けない防御力がないと、ほぼ必殺の威力を持つ一撃だ。
俺はとっさにギュルヴィを守りに入ろうとする。そんな俺目がけて、ニセモノは拳を構える。後は、無防備な脇腹に一撃入れれば、勝ちパターンに入れる―――
―――と、ニセモノは考えたのだろう。
「読んでんだよバカがぁ!」
俺はギュルヴィを守りに動いた、と思わせたフェイントから反転。ニセモノの一撃を避けて、拳で胴体にカウンターを入れた。
リポーションを貫く一撃。それはニセモノの胴体を突き破って貫通し、俺はさらに大剣デュランダルを呼び寄せ一閃。ニセモノの胴体を両断する。
「ガァッ!?」
ニセモノは目を丸くし、ギュルヴィを見る。ギュルヴィは「来ると分かってりゃ防ぐくらいで切るわな」と、結晶剣を手で掴んで防いでいた。
そう。ここまでは、俺の想定内だった。ニセモノの動きは分かる。ギュルヴィ狙いで隙を作ろうと、俺とニセモノで揉み合うまでは想定していた。
だから、裏で合図を作っていたのだ。だからギュルヴィは、混乱した振りをしてニセモノを警戒できた。それを信じて、俺は反撃に動けた。
故にこそ、俺は思う。
本当の勝負は、ここからであると。
「―――だよなァッ! ここまでは読んでくるよなァッ!」
上半身だけの体になって地面に転がるニセモノは、血を吐きながら指を立てる。
「だから俺も、ここまでは読んでたんだぜ」
めき、と天井がきしむ音がする。その直後、建物をぎゅっと固めた巨大な塊が、この部屋を押しつぶした。
「ぐっ、そう来たか!」
「逃げるぞウェイド!」
俺とギュルヴィは、たまらず窓から飛び出した。家はぐしゃぐしゃなまで塊に潰され、その中から回復した、五体満足のニセモノが這い出てくる。
「ったく……。反撃対策まで打っておいてよかったぜ。じゃなきゃここで負けてたな。ホント、自分との戦闘ってのは、読みが的確過ぎて困る」
お互い様だろうがな、とニセモノは笑う。それから、「ん?」と首を傾げた。
「……ギュルヴィ。本物はどこ行った」
「あ? 逃げたが?」
「……はぁ!?」
ニセモノは目を剥いて動揺する。それから周囲を見回して、しかし見つからずにギュルヴィを睨みつける。
「ギュルヴィ……お前の入れ知恵だな」
「どうだろうな? ま、何だ。本物対ニセモノの戦いは小休止として」
ギュルヴィは、ちょいちょい、と手招きでニセモノを挑発する。
「ここで一つ、俺対偽ウェイドと行こうじゃねぇか」
「……!」
ニセモノは、ギュルヴィを睨みつける。しかしギュルヴィは涼しい顔。
しばし迷ってから、ニセモノは構えを取った。
「そうだな。それも一つ、楽しませてもらおうか」
ニセモノは、本物のウェイド同様に、獰猛に笑う。
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