第333話 商人ギルド崩壊作戦
一度クレイの商店に戻った俺たちは、早速作戦会議を始めていた。
「やるぞ。うまく商人ギルドを隠れ蓑にして、魔王城の保護塔を落とす」
俺の言葉に、アイスが「うん……っ!」と目を輝かせ、クレイが「ここからは君の領分だ、リーダー」と譲ってくる。
すると、ローロが煽ってきた。
「ご主人様、やっぱり度胸ザコザコ~♡ 最近目立ちたくない目立ちたくな~いって、そればっかり言ってな~い?」
それを聞いて、俺は「そうだな。俺もそう思ってたところだ」とにこやかに言う。
「元々クレイへの仕打ちにムカついて、ド派手にやろうと思ってたんだ。バザール半壊するくらい盛大にやろう」
「えっ? え、あの、ご主人様~? そ、そんな大口叩いちゃっていいの~?」
「ハハ」
「ひぇ」
ローロのからかいをサッとあしらいつつ、俺は話し出す。
「大枠の計画として考えてるのは、商人ギルドの商人の内、ヨル以外の大商人を何人か拉致して手駒にする作戦だ」
隠れ蓑あって初めて派手にできる、という前提は変わらない。俺たちにはスケープゴートが必要なのだ。
「そいつらを従え隠れ蓑にして、塔に攻め込む。魔王軍との大規模な戦いになるが、そこは上手く罪をそいつらに擦り付ける。魔人を大量に動員する感じで」
「そうだね。女帝ヨルに対する魔王軍の警備は、他の大商人に比べてもかなり厳重だって聞く。他の大商人もほどほどに守られているらしいけど、僕らなら突破できる」
「ああ。で、そいつらが捕まったら、ヨルに罪を擦り付けさせる……」
そこまで言って、俺は口を閉ざす。
「……無理だなこれ。魔人がそんな、俺たちの言うことを聞くとは思えん」
「えぇ……?」
クレイがあきれ顔になっている。
「確かにかなり疑わしいけれど、……いや、そうだね。大商人は経験豊富で、精神の強い魔人が多い。スラムの調教師を使っても、上手くいくかどうか」
調教師。そんなのもいるのか、と俺は少し考える。
「となると、大商人の誰かを従えて~、って作戦はダメだな。脅してどうにかなる、みたいな作戦は魔人には通用しない。特に魔王軍に捕まったら、俺たちの目も届かないし」
俺は唸る。クレイも、「一応調教師を呼び寄せておくかい?」と吟味している。謎の存在なので少し気になるが。
そこで、「あ、あの、いい……?」とアイスが手を上げた。
「ああ、何か思いついたのか?」
「うん……っ。その、ここが一番の、連れてきた魔人たちの使いどころなんじゃないか、って、思って……」
「……詳しく聞いていいか?」
「うん……! その、ね?」
アイスは説明する。
「つまり、商人ギルドに濡れ衣を着せたいけど、魔人だから嘘の証言をしてくれるか、信じきれない、ってことが不安材料、なんだよね……っ」
「そうだな。その通りだ」
「でも、魔王軍が商人ギルドを疑うかどうかは、大商人の一人が嘘の証言をするかどうかは、問題じゃなくて」
アイスは言葉を探すように一度口を閉ざし、再び俺を見て続ける。
「商人ギルド全員が否定しても、魔王軍が疑っていればいい、と思うの……!」
「ああ~! そういうことね~! アイス様、あったまいい~!」
カラカラと笑って、ローロは言う。「だから~!」とローロが俺たちに言った。
「塔を攻め込んだ後に、ローロたちバエル領の魔人が、噂を流せばいいんだよ~ってことでしょ? 塔を攻め込んだのは、商人ギルドだ~って!」
「―――なるほど。それは、面白いな」
うまい使い方だ、と思う。
千人規模で実行される、風説の流布。
それは、ある意味では商人ギルド内の証言よりも効果を持つ。商人ギルド以外の大人数が、商人ギルドが犯人だ、と言っているのだから。
しかし、証拠もなしに風説が流布し始めれば、魔王軍の中にも疑う者が出てくるだろう。となれば。
「何か、事件が欲しいな。噂を聞いた魔王軍が、『そういうことだったのか!』とか、『やっぱりな!』って思うきっかけになるような事件が」
そんなことを考えていると、突如部屋の扉が叩かれた。
「ん? 誰かな。誰も呼んでいないはずだけれど」
クレイがキョトンとしながら扉に近寄っていく。開くと、その人物はものすごい勢いで飛び込んできた。
「お前の所為で、ウェイドたちがどこかに消えちゃったじゃん! 二人をどこにや……ウェイド! アイスも!」
「キリエ? それに仲間の二人」
「クライナーツィルクスのリィルとガンド! 覚えてよね!」
現れたのは、キリエを筆頭とした以前仲良くなった魔人三人衆、クライナーツィルクスだった。
団長の、飄々とした中性的な赤髪の魔人、キリエ。その仲間、頬に鱗のある巨人ガンド、狼獣人魔人リィル。
……にしても、何でこいつらここに、と思う。ここ、クレイの商店の奥の会議室なんだが。普通に部外者立ち入り禁止だ。
遅れてついてくる二人の様子を見るに、団長キリエの突発的な行動を、部下二人で止められなかった、という構図らしい。俺はへの字口でキリエを見つめる。
しかしキリエはどこ吹く風。目を輝かせながら、俺に近づいてくる。
「全然元気そうじゃーん! あの後行方知れずになったから、スラムに拉致られたのかと思ってたのに☆」
「テンション高く言う内容じゃないぞ」
「いやー良かった良かった! スラムごときにやられちゃう器じゃなくて!」
「何か違和感のある心配のされ方だな……」
俺の訝しみに対して、ハイテンションのキリエである。
「ウェイド君。その人たちは?」
「ああ。前に知り合ったキリエだ。サーカス関連の」
「なるほど」
クレイは納得したように頷く。特に、部外者に勝手に立ち入られたそれこれで怒る、というのはなさそうだ。
一方お冠なのはアイスである。
「……」
冷たい微笑みでキリエを見つめている。ここまで冷ややかな視線を見たのは、出会ったばかりの頃、訓練所でドロップを見ていた時以来だ。
マジで嫌いなんだなぁ、魔人。と俺は感心してしまう。ある程度は相手にもよるみたいだが。
「何をしに来た、の……?」
仄暗さを湛えたアイスの問いに、クレイは気づいてぎょっとする。一方キリエは気づかずに「そりゃあ二人が心配だったからね!」とにこやかだ。鈍感ってすごい。
「そっか……。でも、ね? そういうのは、大丈夫、だから。わたしたち、とっても強いんだよ……っ?」
「それは知ってるけどさ~? ほらっ! やっぱり急に姿くらませると心配じゃーん☆ 強いのは知ってるけど、魔術の匂いはしないしね♪」
キリエは一見友達思いなことを言っているが、アイスの微笑みは氷点下にまで冷え込んでいる。俺とクレイは戦々恐々だ。
そういや俺たち、地獄でメチャクチャ絡まれるよな。何で舐められるんだろうと思ってたけど、魔術を使わないから『魔術の匂い』とやらがしない所為なのか。
とか思っていると、キリエがアイスの地雷を踏んだ。
「それに、アイスって遠距離は強かったけど、懐入られたらヤバそうだし☆」
「じゃあ、試してみる……?」
やべぇ。流石に止めないと。
そこで割り込んだのが、意外にもローロだった。
「お姉さんたち! 今ね! ローロたちは悪だくみしてたんだ~♡」
「え? 悪だくみ? 何々!? どんな悪いこと企んでたの~!?」
ローロの言葉にキリエが食いついて、アイスのケンカ腰がうやむやにされてしまう。
俺とクレイはほっと胸をなでおろすが、アイスは一人むくれている。
「ムカつくから、商人ギルドをぶっ壊~す! って話してたんだ~! お姉さんも一枚噛む? 多分人手が欲しいって話になると思うし~!」
「ローロ、ちゃん……っ。勝手に話を進めないよ……っ?」
アイスの制止に、ローロは「てへ」と舌を出して可愛い子ぶる。
そこで、俺は不意に並んでいる姿に、妙にハッとしてしまう。
ローロ、キリエ。この二人は、まったく関係ない二人のはずだ。
だが、何故か―――異様に似ている。
顔立ちはレンニル以上に姉妹めいて似ているし、飄々とした立ち振る舞いや、何か人格の根っこにあるモノも、同じものを持っているような、そんな。
それに気づいて、何だ? と思う。奇妙な違和感。並んでいる姿で、ハッとするほどに似ている二人。だが、二人はお互いに何も言わない。
俺は、ゴクリと唾を飲み下す。些細なことなのに、何故か、気付いてはいけないことに気付いてしまったような居心地の悪さがある。
そこで、キリエが言った。
「――――商人ギルドが狙いなら、耳寄りな話があるよ?」
全員の視線がキリエに向かう。キリエは魔人らしい邪悪な笑みを浮かべて、こう言った。
「近々、サーカスのやんちゃ組とスラムの下っ端で組んで、バザールの大商人を襲う計画があるんだ☆ それにそっちの襲撃時期を合わせれば、商人ギルドぶっ壊れちゃうかも♪」
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