第318話 魔人に酒
一仕事を終えた俺たちは、キリエの強い勧めを受けて、共に酒場で呑むことになった。
「いやぁーウェイド! マジですっごいよ君☆ いやもうマジですごい! 尊敬! 強すぎでしょ君~!」
「もう五杯も飲んでる」
「ごめんなウェイド。ウチのリーダーが……」
瞬時に一抱えもある木ジョッキを五つも飲み干して、キリエはへべれけだ。そんなキリエに変わって謝るのが、大きな常識人らしいガンドである。
「いつもこんな感じなのか?」
「リーダーが全部引っ張ってめちゃくちゃして、アタシたちがいつもその尻拭いって感じだよね、ガンド」
「いつもこんな感じだ。巻き込んで済まないな」
「何をおおおおう! そんなこと言う奴らは……おごっちゃう! パァーッとおごっちゃうもんね!」
リィル、ガンドのフォローを、赤ら顔でメチャクチャにするキリエだ。こいつは仕方ない奴なんだな、と俺は理解し始める。
一方で、と俺はアイスを横目に見た。アイスは酒ではなく、ジュースをちびりちびりと飲んでいる。言葉は発さず、静かに三人を警戒している様子だ。
アイスは、この場に必要だった、と俺は思う。
俺一人だと、人当たりの良いこいつらに心を許してしまっただろうから。というか、現在進行形で許しつつあるから。
だから俺は、アイスのスタンスにありがたさを感じつつ「アイス、これもうまいぞ」と目の前に飯を置く。
するとアイスは俺にだけ「ありがと……っ、ウェイドくん」と笑顔を見せてくれる。うーん俺の嫁が可愛い。
「さて、じゃあリーダーがこんな様子だから、オレが代わりに今回の礼をしよう」
ガンドはそう言って、懐から金貨を取り出した。
「今回の依頼はかなり大口でな。金貨一枚の依頼だったんだ。これで公演が開ける……予定だったんだが、倒した敵の人数で割ると、少し心もとないな」
苦笑するガンドに、俺は手を振る。
「生憎と、金に執着がないもんでな。そっちが納得できる程度の金があればいい」
「……本当か? いや、ありがたい。じゃあせめて、大銀貨を四枚贈ろう」
俺は大銀貨を四枚受け取る。割合としては四割だが、金が欲しくて乗った依頼ではない。それに大銀貨も十分大金だし。
どちらかというと、怪しまれない程度に受け取っておこう、という感じだ。俺たちにとって本当に重要なのは、情報である。
俺は言う。
「いやでも、働き口というか、ツテが見つかって助かった。また頼っていいか?」
「もちろんだ。ウェイドほどの実力者が協力してくれるなら、ありがたい」
ガンドの頷きに、リィルが口を出す。
「それでなくとも、同じ新参で働き口もあるしね。骨董品屋のバーカウさんとことか、人手足りなくて困ってるって言ってたし」
「そうだな、リィル。定期的に働きたいなら、そういうツテもある。こちらからも、荒事で頼みたいこともいくらかある」
よし、と思う。うまくこの辺りに馴染めそうだ。情報も、自然と集まってくるだろう。
それはそれとして、と俺は本題に切り出す。
「そういえばさ、城下街に来る前に見たんだが、この街ってこう……等間隔に塔が建ってるよな? あれ、何なんだ?」
俺は雑談の振りをして、一番聞きたい最重要情報を問う。ガンドは、「ああ、アレか」と軽い調子で答えた。
「アレは、魔王城の保護塔だ。十の塔で魔王城は守られているって話だぞ」
ビンゴ、と俺は内心でほくそ笑む。俺たちが魔王城侵攻に先駆けてどうにかすべき塔は、アレで間違っていないようだ。
「十の塔?」
俺がすっとぼけて繰り返すと「そうだよー」と肉をかじりながらリィルは言う。
「バザール、スラム、サーカス。それぞれの地域に、二つずつ。魔王城を囲うように、四つ。全部で十の塔が、魔王城を守ってるの」
「各地域に二つずつなのか」
「ああ。辺境から来たら、アレは確かに珍しいだろうな。あの塔に、魔王軍は常駐しているんだ」
「へぇー」
俺は考える。魔王軍常駐……つまり魔王軍の基地も兼ねてるのか、アレ。
俺はいくらか考える。元々数が多く、制圧状態を維持する必要がある、と聞いていた魔王城の保護塔。攻め入るには……。
そんな風に思考を深めている俺の横で、アイスがクライナーツィルクスに問う。
「さっき言ってた、人手が足りないってとこの話を、聞かせてもらってもいいです、か……?」
「あ、興味ある~? じゃあね~☆ 紹介してあげゆ!」
よっぱらって話にならなさそうなキリエが反応して、アイスは一瞬すごい嫌そうな顔になった。
「そこの人もね~新参でね~でも商売がうまくって~気づいたら店持ってたすごい人でね~」
「まぁ、何というか、素朴な人だ。素朴に商売をして生きている。ウェイド達が気に入るかどうかは分からないが……」
ガンドの言葉に、俺は呟く。
「俺、もしかして血に飢えてるみたいな目で見られてるか?」
「違うのか?」
「ちがわい」
失礼な。アレは全部効率的なパフォーマンスという奴だ。
「けど、いいな。ひとまず身を置く場所としての働き口はありがたい限りだ。頼んでいいか?」
俺が言うと、キリエがジョッキを掲げていった。
「もっちろ~ん☆ ささ、ウェイド達も~、カンパーイ! キリエ達も~、カンパーイ!」
言って、キリエはぐびぐびと酒を飲み干す。何杯目だろう本当に。キリエのところにだけ無数の空の木ジョッキが並んでいる。
ともあれ、出だしは上々というところだろう。情報収集は順調に進んでいる。ここから数日程度働いて、街に馴染めば常識程度の知識は手に入るだろう。
俺はキリエに続いて、ゆっくりと木ジョッキを傾けた。仕事終わりの、爽快な酒の味がした。
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