第311話 リポーション
実は俺の重力魔法の中で、使いこなせていない魔法が一つある。
その名も、『リポーション』。効果は『反発』だ。
反重力的な動きをする魔法で、攻撃着弾時に最大にすることで衝撃を多くすることができる。というのが今までの使い方。
「……で、その反発効果のある魔法を、全身に掛けることで防御にしたい、と」
「起きたら内臓食われてたっていうのは、流石に二度は味わいたく無くてな。びっくりするし」
「びっくりする、で済むんだねウェイド君は……。いや、いつものことと言えばそうだけど」
「最近痛みが感情に結びつかないんだよな。腕落とされても『やったな~!』レベルっていうか」
「ウェイド君、ほぼ不死だしね」
「っていっても、シグ並みの暴力で全身バラバラにされたら結構痛いけど」
「結構……」
俺の話に終始引き気味のクレイである。
「で、リポーションを防御にする、っていう発想に至ったわけだ。『死なない』にプラスして『殺せない』を追加していく感じだな」
「覚えたの、確かナイトファーザーの時だったと思うけど。随分かかったね」
「だってなまじっか無敵になったら戦闘難度が下がるじゃん」
「そうだ、君はそういう人だった」
クレイから呆れられつつ、「さて」と俺たちは訓練を開始する。
「ウェイド君、どうすればいい?」
「強めの力で殴ってくれ。俺はリポーションで【反発防御】を行う」
「分かった。早速やってみよう」
クレイは拳を固める。呪文を唱えずとも、どこからともなくその拳に土が集まっていく。
こりゃあちゃんと防げないと、上半身くらいは吹き飛ぶな。俺は苦笑しながら、呟いた。
「
真言を呟くと、俺の戦闘準備が一息に整う。心臓、目、脳の三種のチャクラに、自らに掛ける重力魔法、加重、軽減、反発の三つが同時に発動する。
俺はその中でも【反発】を意識して操作し、ニヤリ笑う。
「来い」
「じゃあ―――遠慮なく」
クレイは踏み込む。ズン、と音がして、踏み出した前足が地面に沈む。
放たれる拳は、巨人のそれだった。
バゴォン! と土くれをひっくり返し、それを拳上に纏って、クレイの一撃は放たれた。土くれでできた巨人の拳だ。
それが、俺の目の前で止まる。クレイの拳が眼前に迫るも、ブルブルと震えて近づけない。
俺から放たれる斥力が、クレイを強く遠ざけている。
「なるほど……確かに、これがあるのとないのとでは、戦いの難しさは全く違うね」
クレイが力を抜いた瞬間、その拳が大きく弾かれた。土くれは役目を失って、散り散りに消える。
俺はイメージ通りの結果が出て、ホクホクでクレイに笑いかけた。
「いい感じっぽいな」
「そうだね。攻撃がそもそも近づけないようになってるのか。素早く放てる一撃の範囲では全力だったのに、近づくまでしか行けなかった」
「ガチの本気なら破れるだろ?」
「そりゃあ巨人のテュポーンで殴れば違うさ。けど、この魔法で防ぎたいのは奇襲だろう?」
十分すぎる守りだね。そうクレイに言われ、俺は頷く。意識外の攻撃は、この【反発防御】を展開していれば大丈夫そうだ。
とりあえず、これで起きたら魔人奴隷に内臓を食い散らかされている、ということもなくなるだろう。
「……」
何だこの心配。おかしいだろ。普通内臓を食われることはないんだよ。
「はぁあ……」
「どうしたんだい?」
「いや……」
今まで俺だけがこんなに無防備だったのか、とちょっと反省する思いだ。
確かに、アイスも氷兵、トキシィもヒュドラ、サンドラはスワディスターナチャクラと、全員意識外の攻撃から身を守っている。師匠連中は知らんが、何かしらあるだろう。
そりゃあ防御の甘い俺ばかりが絡まれるわけだ。
ともかく、これで新技は固まった。と言っても、すでに使っていた魔法を転用しただけだが。
あとは実戦で確かめるだけ―――
そんな風に思っていたら、クレイが「あ」と呟いた。
「魔獣が来たね」
「ん?」
気配は察知していたが、遠いのと弱いのでスルーしていた気配が、俺たちに高速で近づいてくる。
森から現れるのは、巨大な熊だった。俺たち目がけて走ってくる、全身にルーン文字が刻まれた異形の熊。ルーンベアだ。
ルーンベアの突進が、俺たちに直撃する。俺はリポーションを展開したままだったので、そのまま棒立ちでそれを待った。
激突。大体、俺が手を伸ばして届かないくらいの距離で、クッションに受け止められたようにルーンベアはピタリと止まる。
そして、弾かれた。
巨大な熊の体が、まるで車に衝突したかのように大きく飛んだ。そして、周囲の木にぶつかって息絶える。
その様子を確認しつつ、俺は呟いた。
「運用的に百点叩きだしちゃったなこれ……」
(半分)意識外からの攻撃に対する完全防御。しかも反撃機能付き。うーん、完璧だ。これ以上ないなこれ。
俺はむしろ、今までが正しい使い方ではなかったのでは? と疑ってしまう。威力増加より明らかにこっちだろこれ。
今まで引き出せていなかった魔法の、真価を引き出してしまったな……。
そんな風に思っていたら、「そういえばウェイド君」とクレイが俺を呼ぶ。
「恐らく、このままの速度だと魔王城下街には今日着くことになるよね。前みたいに演説はするのかい?」
「あー、そうだな。魔王城下街に着くにあたって、色々と話すつもりだったんだ」
俺は思い出し、言うべきことを脳内でリストアップする。
魔人に何を期待するか。どう釘を刺すか。どんな楽しみがあるか。そういう話をして、魔人の動きをある程度制御しなければ。
「ウェイド君の得意分野だからね。楽しみにしてるよ」
「得意分野なつもりはないんだがなぁ。ま、いつも通りにやるさ」
クレイの激励に答えて、俺は頭の中でどんな風に話し出すかを考える。
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