第277話 到着、アレクサンドル

 衛兵と手続きをして門をくぐると、城下町が広がっていた。


「グラーツ辺境伯領です。ここに王と総大将とウェイド君のパーティメンバーが揃い、そして大迷宮が口を開けています」


 ロマンの解説に「国境に大迷宮があるのか」と俺は返す。


「ええ。奪われやすい立地でも、王からすれば『寸前で暴走させてから渡してやればいい』ということだそうで。本当に我が王で良かったと、その時しみじみ感じたものです」


「アレクは見るからに敵に回したら嫌な奴だからなぁ……」


 そんなことを話していると、馬車が止まる。領主邸門の前につき、ウィンディが城壁と同じ手続きを済ませて開門。また進む。


 そうして、俺たちはグラーツ辺境伯邸の玄関で馬車から降りた。従者たちがぞろっと出てきて「お疲れでしょう。ヴュルテンベルク侯、マンハイム伯、及びモルル様、リージュ様はこちらへ」と案内される。


「他の皆様は、別邸にて受け入れ態勢が整っております。そちらでお休みください」


 馬車が走り出し、使用人ポジとみなされたみんながドナドナされていく。休めってことは、あいつらは休めて、俺たちは休めないということみたいだ。上に立つ人間の責務って感じ。


 俺たちは迎え入れられて、真っ先に風呂にぶち込まれた。メイドさんたちがわさわさやってきて素早く体を洗っていくものだから、恥じらう隙もない。


 数分後、長旅の汚れを完全に落とされた俺たちは、貴族服に身を包まれて揃っていた。モルルも貴族のご令嬢といった服装だ。抵抗しきれなかったかオキニの首輪も取られている。


「ないと落ち着かない~……」


「そろそろ卒業ってことだろ。これからモルルも貴族だぞ。気合入れてけ」


「ん~……分かった……」


 不満そうだが、しぶしぶ受け入れるだけ分別がついたなぁなどと思う。モルル三日目を離したら大人になってたりしない? これから離れ離れ耐えられるかな俺。


「では、こちらに」


 メイドの中でも偉そうな女性が、俺たちを案内する。廊下を歩いた先の重厚な扉を開く。


 その先に、皆がそろっていた。


「―――ウェイドくんっ」「ウェイドっ!」「待ってた、ウェイド」


 アイス、トキシィ、サンドラの三人が、俺を見てパァッと顔を華やがせる。俺も再会が嬉しくて、「おぉー! 久しぶり~!」と駆け寄る。そのまま勢いで全員抱きしめる。


「きゃっ?」「わー! びっくりした!」「大胆。うれしい」


「俺もみんなに会えて嬉しい! 寂しかったぞこのぉ~!」


 満面の笑みでいう俺に、三人はクスクスと笑う。みんな貴族服で着飾っていて綺麗な限りだ。再会が堪らなく嬉しくなる。


 すると俺が三人を解放した辺りで、大柄な影が声をかけてきた。


「やあ、ウェイド君。息災のようで何よりだよ」


「おう、クレイも元気そうだ。……うん、やっぱりだな。みんな強くなった」


 俺が言うと、皆の顔がキリリと引き締まる。愛嬌があるなぁと思う中で、アイスの表情に僅かに陰があることに気付き、眉を顰める。


 だが、一旦それは後だ。さて、と最奥に視線を向けた。


 近づく。それから片膝をついて、貴族式の一礼をした。


「遅ればせながら、ご挨拶を。久方ぶりでございます。我が王――――こんな感じで良いか?」


「中々貴族仕草が堂に入ってるじゃねぇの、ウェイド。久しぶりだな」


 玉座に座ったアレクが、ぐしゃぐしゃに俺の頭を撫でる。俺は「アレクはいつ会っても王より兄貴って感じだな」と笑った。


「さて、これでシグ以外が揃った感じだな」


「あ、そうかシグいないわ。どこ行ってんだ?」


 アレクの確認の俺が訪ねると「んー? 下見」とアレクが言う。


「下見?」


「今朝方に大迷宮の様子見て来いって言ったんだよ。そろそろ戻ってくんじゃね?」


 そんなことを言うアレク。俺はその時、背後の廊下から大きな足音を聞き取って振り返る。


「ただいま戻ったぞ、アレク。む! ロマンにウェイド! 帰ってきたか!」


「ええ、ただいま戻りましたよ、総大将」


「お前とも久しぶりだな、シグ」


 シグは相変わらずの巨躯で現れる。ロマン、俺の順番でハイタッチしてから、シグはアレクの下にひざまずいた。


「大迷宮の地下99階まで確認してきた。100階の番人は倒さなかったが、これで良いんだったな」


「ああ、あの番人はなるべく殺さない方がいい。今回みたいに魔王討伐が目的の場合は特にな」


 警戒される、というアレクの物言いに、その場の空気がじわりと緊張感に帯びるのを感じた。


 魔王討伐。


 俺たちが今回集められたのは、その為だ。


「さて、これで晴れて全員そろったってとこか」


 アレクの確認に、その場の全員がアレクを見た。アレクは注目を浴びてなお悠然とした態度を保って、ニヤリと俺たちを睥睨する。


「まずは集まってくれたことに感謝を。お前たちみたいな歴戦の強者どもに慕われて俺も幸せ者だぜ。―――と、前置きはさておこう」


 アレクの表情から、ふざけが抜け落ちる。張り付くのは、超然とした不敵な笑みだ。


「今回集まってもらったのは、ウェイドパーティを主体とした魔王討伐のためだ。シグとロマンはここまでウェイドたちの補助と育成、ご苦労だった。しばらく休んで次の命令を待て」


「「ハッ」」


 シグとロマンが臣下の礼を取る。アレクは鷹揚に頷いて「で、ウェイドパーティ」と俺たちを見た。


「まずは、お前たちの成果を報告してもらおう。それから魔王討伐―――女王ヘルをどう殺すか、という話に移ることとする。まず」


 アレクは、ニッと俺と目を合わせた。


「ウェイド。お前の報告から、聞かせてくれ」


 俺は頷いて、口を開く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る