第195話 戦略

 どう動くか。ということは、話し合いで決めた。


「『憤怒』と戦って分かった。俺は全員と戦った方がいい。戦いの度に俺は強くなれる」

「なら……常にだれか、ウェイドくんを助けられる人が、傍にいるといい、よね……っ」

「どっちかというと、ウェイドが飛びまわるのがよさそうって私は思うな。ウェイドはどこでもどんな相手でも戦えるし。例外はあるけどね」

「例外の方が多い状況下にはなってきたと思うけれど、どうかな。ウェイド君がたくさん戦いたいなら、むしろウェイド君は一人で飛びまわるようにして、班に分けた僕らに合流、というのが良さそうに思えるかな」

「死ににくい面子基準で組むのがいい。あたしはほとんど死ぬ要素がないし、アイスもそう。でも、トキシィとクレイは状況によって破られる程度の不死性、耐久性しかない」

「えー! 私結構タフのつもりなんだけど!」

「いや、トキシィさん。僕らは安定して強いけれど、死ににくさではアイスさん、サンドラさんに劣るよ。多分トキシィさんが一番死にやすくて、次に僕なんじゃないかな」

「二人は分けて、死ににくさトップの二人でサポートするのが良いんじゃないか? クレイもトキシィも攻撃力ではパーティトップだろ」

「なら、トキシィはあたしが貰った」

「貰われちゃった。じゃあアイスちゃん・クレイペアに、私、サンドラペア?」

「でもわたし、どっちのサポートも出来る、よ……っ? そもそも、家から出る必要、ないから……っ」

「そっか。となると、私とサンドラ、クレイは一人で、常にアイスちゃんが両方をフォロー」

「そこに、ウェイドくんが点々と飛びまわれば、安定性は高い、はず……っ」

「よし、それで行こう」


 結論が出る。単独のクレイに、トキシィ・サンドラペアが動いてもらい、常にアイスが両者のサポート。そこで俺が情報を下に二パーティのどちらかに合流して、可能な限り四天王を相手取る、という形だ。


 四天王が両方のパーティと遭遇したらどうするか、とか。殴竜が出たら、とか。そういう話も、ある程度詰めておく。


 そして思う限りの話題を話題にあげて議論した翌日、俺たちは正式に戦場に赴いた。


「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃい……っ。いつでも、みんなのこと支えてるから、ね……っ」


 一人家に残るアイスが、穏やかな頬笑みを浮かべて、小さく手を振っていた。俺はそれに手を振り返し、みんなで戦場に出る。


 ひとまず、俺はクレイと一緒に行動することになった。懐にはそれぞれアイスの雪だるまだ。


「お前、現地で分裂できるようになったんだろ? や~ホント、アイスも頼もしくなったよな」


「キピッ」


 雪だるまが元気に合図している。俺は雪だるまと指でハイタッチして、四人でカルディツァの門を出た。


「お、ウェイドパーティか。頑張ってくれよ」


「アンタらには期待してるよ! カルディツァを、守っておくれ」


「ウェイドパーティだ! いっぱい倒してきてね!」


 道行く道で、次々に声をかけられる。冒険者や、事情通の女性、小さな子供にまで。門兵にも、「お前らが頼りだ」と念押しされたうえで、上げていた跳ね上げ橋を下ろしてもらう。


 そして俺たちは、城壁を出た。徒歩。何故なら、俺たちには便利な移動手段があったから。


「キピピピピッ」


 みんなの懐から、アイスの雪だるまが出現する。すると雪だるまが、何やら分身を作り出した。


 鳥。それは小さな鳥だった。だが、次第に大きくなって、人ひとりが乗れるほどになる。


 事前に説明を受けていた俺たちは、「つめて~」とか笑いながら、その鳥に乗り込んだ。


 そして鳥が、大きく羽ばたき飛び立った。


「う、おぉ。わ、地面が離れていく」と動揺するクレイ。


「うひゃ~! これ結構怖いねアイスちゃん! あ、安全運転でね!?」と心配するトキシィ。


「楽しい。高いところ、いい」と嬉しそうなサンドラ。


「快適だなぁ」と一息つく俺。


 四羽の巨大な氷の鳥が、空高く舞い上がっていく。アイスの魔法は、雪だるまに留まらず、形を変えて様々なことが出来るように進化した。


 例えば分裂。一体でも残っていれば、そこから軍隊を回復できる。形状を変えて兵科運用も出来れば、氷の鳥のように空を飛ぶことも。


 その恩恵を受けた俺たちは、空をひとっ飛びする形で戦場へと向かう。空高く、上空百メートルくらいに上がって、戦場を見下ろすように空を進む。


「おぉお、戦場が一望できるな。軍隊は、三つ塊があるな」


 俺がアジナーチャクラの千里眼で見ていると、クレイが言った。


「領主軍は、逐次僕らの捕獲したドラゴンを調教して、戦場に投入するといっていた。今朝も街の人がドラゴンの話をしていたよ。注目点はそこだと思う」


「ええっと、つまり」


「ドラゴンが死んだら、そこには四天王がいる」


 トキシィの疑問にサンドラが言う。同時、アジナーチャクラが、それを捉えた。


「おい、右の戦場で、ドラゴンが死んだぞ」


 千里眼に映るのは、荒れ狂う魔法に打ちのめされ、倒れ伏すドラゴンの姿だった。ファイアードラゴン。戦った覚えがあるが、そう簡単に勝てる相手ではない。


 ならば、と俺は笑う。


「俺とクレイは右の戦場に行く。トキシィとサンドラは?」


「んー、様子見つつ、乱入できそうならしよっかな。人数の多い敵陣の中心に降りて、私の毒の海で大ダメージとか楽しそうじゃない?」


「あたしならトキシィ爆弾を投下してからすぐに回収できる。真ん中の戦場が人数多くておススメ」


「真ん中行ってきまーす!」


 決まりだ。俺とクレイは右の戦場に、トキシィとサンドラは中央の戦場に。話を聞いていたアイスは、氷の鳥の行き先を指定通り二方向に分けて進める。


 そして俺はクレイと二人で右戦場の中央、前線まで飛んで、「さて」「うん」と声をかけあった。


「じゃあ、どうするか。戦略的には―――クレイのがインパクトあるよな」


「それはそうだね。なら、落下をウェイド君にサポートしてもらって、四天王と当たるまでは僕が派手に暴れようか」


「ああ、そうしよう。いやー楽しみだな。クレイの真骨頂、実は見るの初めてなんだ」


「はは。それなら期待して欲しい。きっと、予想以上だよ」


 俺たちはニヤリ笑い合う。そして二人頷き合って、氷の鳥の背を軽くたたいて飛び降りた。

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