第169話 フレインの大魔法

 俺の目から見ても、レベリオンフレイムの動きには、実に無駄がなかった。


「カドラス、詰めろ」


「おう」


 フレインの指示に従ってカドラスは傀儡子たちに肉薄し、傀儡子たちが何かする前に切り伏せる。それが物理的な攻撃だろうと、魔法的な攻撃だろうと、反魔の魔法がかかった双剣は全てを迅速にねじ伏せる。


 そこに、フレインの射撃が刺さるのだ。


「スナイプファイア」


 長く変形された変形杖から、まるで狙撃銃の射撃のように貫通力のある一撃が放たれる。


 それは一直線にカドラスの脇を潜り抜け、数人の傀儡子を貫いた。貫通する際に色んなものを引きちぎっていったのだろう。頑丈そうに見えた傀儡の身体は、それだけで沈黙する。


『やっぱ銀等級の時点で超強いよなぁ』


「金が何か言ってら」


 フレインは俺の言葉ならば賛辞だろうと受け取らないらしく、軽い調子で受け流して「次行くぞ」と呼びかける。


「まぁまぁ調子いいな、クソガキ。ここまでは順調だ。……いくら殺しても終わる気がしないのが難点だが」


「次行く? 来るの間違えじゃない?」


 シルヴィアが指さす先に、傀儡子が四人、猛スピードで迫ってきていた。


「向こうからも来るぞ。挟み撃ちにされたな」


 カドラスがシルヴィアの反対からくる傀儡子の勢力を指さす。こちらは五人。フレインは嫌な顔をする。


 俺は言った。


『他の道からも来てるが、そこの曲がり角のほっそい裏路地からは来てない。脱出するならそこがいいと思うぞ』


「おっ! 流石金等級! 何で分かんのか意味分からんが助かったぜ!」


「フレイン、ウェイドが言ってるけど、行くのでいい?」


「チッ。人数は問題ないが、陣形が悪い。仕方ないから従ってやる」


 フレインは俺の助言に従う形で走り出した。その後ろからカドラス、シルヴィアがついてくる。速度は並。俺とサンドラが速いという基準だとだいたいの連中が並になるが。


『そこの木箱から屋根上に登れるぞ。今の距離感なら多分屋根に上ったってバレない。裏をかけるはずだ』


「……ウェイド、お前にこんなこと言いたくないんだが、お前便利だな」


『今日だけだぜ、そんな楽しそうな祭りから距離とって、サポートに徹してやるのは』


 フレインの言葉に軽口で返すと、「ふっ、お前が大人しくしてる方が気持ち悪い」とフレインは僅かに口端を持ち上げる。


 三人は、流れるように速やかに木箱を登り、屋根に上がった。その数秒後、傀儡子の大群が濁流のようにその場を押し寄せ、さらに先へと流れていく。


「おーおーおっかねぇ。あの人数の傀儡子相手は、ちょいと怖いね俺も」


 カドラスはとぼけた調子で肩を竦める。それから、「んで、ここからどうするよ、バカリーダー」とフレインを呼んだ。


「……策は、なくもない。が、正直大掛かりになる。虱潰しとどっちが大変かは推して知るべしってとこだな」


『前に隠してた大魔法か?』


「そうだ。見せる予定なんてなかったが、今回ばかりは仕方ねぇ」


「アレかぁ……」


「面倒なのよね……アレ……」


 カドラスとシルヴィアはもちろん知っているらしく、ため息をついている。一方俺は、大魔法、で思い出すのがウィンディなので、そんなに大変なのかと考える。


『大魔法って準備が必要なのか? 俺使えないから知らないんだよな』


「逆にあの攻撃力を大魔法なしで出してるのが信じられんが、ともかくオレの大魔法は面倒でな。準備が必要になる」


『準備ってどんなだよ』


「3つの質問に答える必要がある」


『は?』


「あと666発の攻撃を与える必要がある」


『多いな』


「この二つが揃えば、恐らく倒せるだろうな。だが、実に面倒くさい。攻撃を与える回数も666ちょうどにする必要があるし、そもそも3つの質問が非常にかったるい」


 俺は電話越しに何だと思う。会話を聞いてる俺の周りの面々も、首を傾げている。


『3つの質問って、何が聞かれるんだ?』


「分からん。その場その場で決められる。大抵敵にまつわる質問だ。敵の秘密を暴く必要がある」


『この土壇場で?』


「そうだ」


『そりゃ面倒くさいな』


 効果にもよるなぁと思う。だから、尋ねた。


『ちなみに魔法の効果はどうなんだ? 火の竜巻を作り出すとか?』


「そんなものじゃないわ。端的に言うならば、『敵は死ぬ』よ。ウェイド、あなたでも発動さえしてしまえばきっと生き延びられない」


『……随分強い魔法なんだな』


「ああ。だから使用価値がある。普段使いは出来ないがな」


 はぁ、とフレインは面倒くさそうなため息。だがこうして吟味する時間も惜しいと判断したのか、「サモンウリエル」と唱えた。


 フレインの目の前に、小さな、翼の塊のようなものが現れた。無数の翼を羽ばたかせ、その羽ばたきの度に火の粉をまき散らしている。


 その翼の塊は、フレインに問う。


「汝の敵は何者か」


「傀儡子だ」


「然り。ならばその者の苦悩、正義、運命を答えよ」


 ほらな? と言わんばかりの嫌そうな顔をして、フレインはカドラス、シルヴィアを見た。二人も苦笑いしてるし、俺の周りも『ええ……?』と言っている。


 そこで、俺に膝枕されているサンドラが言った。


『ウェイドのアジナー・チャクラ、確か概念的なものも見通せるとかムティー言ってた。見てみたら』


「ウェイドお前マジで何ができないんだ?」


『最近料理がどう頑張ってもアイスに及ばないって敗北感を抱いたことが』


「その話は掘り下げねぇぞクソ。遠隔地からぬくぬくしやがって」


 それはそう。俺はみんなに無言で沈黙のジェスチャーをする。


『じゃあ、お詫び代わりに少し覗いてみるわ。そっちの戦況確認できないから、注意だけしといてくれ』


「言われるまでもねぇ」


 俺は目を閉じ、そしてから第二の瞳、アジナー・チャクラをひっくり返す。注目すべきは、先ほど見つけた傀儡子。その奥深く。


 俺は、その中身を覗き込む。

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