第156話 親睦会:戦闘スタイル

 自己紹介も終わって、コース料理が運ばれ始めた。


 料理を食べながら何となく色々と話していた。例えば、フレインが横暴とか、カドラスがずっと疲れてるとか、シルヴィアが根暗とか、そういう話だ。


 俺側も、俺が強すぎてちょっと前までみんな絶望してたとか言われて困惑したり、逆に俺が責任を感じすぎて良くなかったり、みたいな話をした。


 そうこうしていると、「そういえば」と俺はふと思いついて、みんなに問いかけていた。


「連携組むなら戦闘スタイルがどんな感じなのか、みたいな話はしておいた方がいいんじゃないか? フレインとシルヴィアは魔法属性分かるけど、カドラスは魔法属性すら分からないし」


 俺が言うと、フレインが「確かにそうだな。オレもお前の大魔法に巻きまれて死にたくねぇ」と頷く。どういうポジションなんだろうか俺たち。


 あ、でも適切だわ。トキシィの猛毒の海はマズイわ。


「そうだなぁ。じゃあフレイン側から聞きたい」


「あ? 何でだよ」


「……俺たちのは、よくよく考えると連携も何もないから、話のオチというか」


「マジで何なんだお前ら」


 まぁいい。とフレインは語り始める。


「オレの最近の戦闘スタイルは、基本的に遠隔で火魔法をぶつけまくるだけだ。ファイアーボールだけの時から本質的には変わってねぇ。戦術は変わったがな」


「クソガキは最近クソ強いからなぁ……。近距離中距離遠距離、隙がねぇ」


 カドラスのお墨付きをもらう程度には、フレインは強くなっているらしい。「具体的には?」と問うと、フレインは説明する。


「今覚えてる魔法でざっくり説明すると、手投げ爆弾、高速無音矢、連射射撃、超長距離狙撃、散弾だな。奥の手も一つあるが、言わねぇ」


 フレイン何? こいつだけ現代の銃撃戦か何かしてるの?


 まぁでも、確かにファイアーボールとか、よくよく考えればただの爆弾だよな、と思う。熱した火の玉で、着弾すると周囲に弾けるのとか完全に。成長すれば威力も上がるだろう。ただの爆弾だ。


 と考えると、かなり強いな、と思う。変身魔法自体が初期から割と強い魔法には分類されるが、フレインは現代戦の感覚で敵に挑めるという事だ。マシンガン、スナイプ、ショットガンも完備している。


 それに加え奥の手―――大魔法があるというなら、ウィンディにも並びかねない。俺が言えたことではないのかもしれないが、フレインもまた引くほどの天才なのだろう。


 俺が納得して頷くと、次はカドラスが「じゃあ次俺な」と手を挙げる。


「前に比べても強くなったんだぜ? 前はただの双剣をぶん回すだけだったが、今は―――」


 カドラスは、机の下からキラキラとした装飾のなされた二振りの剣を取り出した。


「このように、武器がアーティファクトになったんだ! 反魔の魔法が掛かったアーティファクトでな、魔法を切れるし、少年みたいに相手に直接作用させる魔法にも効果がある」


「その所為で突撃隊長はいつもカドラスだけれどね」


「ふさわしいだろ。至近距離じゃなきゃバカドラスは雑魚だ」


「クソがよ!」


 淡々とキツイ役割を押し付けられていることが発覚して、カドラスは叫ぶしかない。本当に苦労しているらしい。


「ちなみに、カドラスって魔法は使わないの?」


 トキシィが首を傾げると、「あ~」とカドラスは頭を掻く。


 フレインが説明を始めた。


「カドラスは一身上の都合で魔法は使えねぇんだよ。魔法印が傷ついてんだ」


「あっ……。ごめん」


「いいや、いいんだよ。気になって当然だ。ま、そう言う奴もいるってな」


 カドラスは肩を竦めながら、右手を晒した。そこには、大きく×が傷となって魔法印を破綻させていた。


 痛ましい、と思う。そんな感傷を押しのけるように、シルヴィアが口を開いた。


「最後、アタシ。まぁ、普通よ。鉄魔法で、武器が作れるってだけ。剣、盾、鎖を作れるわ。……クリエイトブレイド、クリエイトブレイド」


 2回の詠唱で、シルヴィアは異なるサイズの剣を2つ作成した。片方はナイフ。片方はロングソード。同じ詠唱でも、幅があるという事らしい。トキシィと同じだ。


 俺はふとアイデアを思いついて考える。するとトキシィが「あの、もしかしてなんだけど」と俺に話しかけてきた。


「ルーン魔法と相性良さそう、とか考えてる?」


「はは、気が合うな、トキシィ」


「アハハッ! だよねだよね! あーでも、どうなのかな。私たちが教えるのはアレク的に

いいのかな……」


「まぁ、存在を教える分には良いだろ。本当に叩き込むのはどうせできないし」


「それもそうだね」


 言い合って、俺たちはシルヴィアに向かう。シルヴィア変なものを見ているという顔で、俺たちを見つめていた。


「な、何」


「シルヴィア、ナイフ貸してくれ」


「……良いけど」


 シルヴィアからナイフを受け取る。俺はそれを右手に持ち、左手の平にルーン文字を刻んだ。


「は?」


「お、おい。少年?」


「え、何よ。こわい。やめて」


「まぁ見てろって」


 俺はルーンを3つ手の平に書いて、シルヴィアに見せた。ルーンはとても単純だ。『力』『鋭さ』『強い』。シンプルな強化のルーン。


「これを刀身に彫り込んだ状態で剣を作ってみて欲しい。で、出来たらその文字をなぞってみてくれ」


「……分かった。クリエイトブレイド」


 シルヴィアはもう一つナイフを作った。ルーンは問題なく刻まれている。そしてシルヴィアはルーンをなぞった。


 刀身が、僅かに光に包まれる。シルヴィアはパチパチと目をしばたかせた。


「どういう、こと?」


「ルーン魔法っていう、俺たちが普通使ってるのとは別の魔法が掛かってるんだよ、それ」


「力が入りやすくて、鋭くて、強い剣になってると思うよ」


 シルヴィアは眉根を寄せながら、俺が返したナイフに、ルーン入りのナイフを当てる。


 すると、まるでバターを切るように、ゆっくりとルーン入りのナイフは通常のナイフを切り落とした。


 キィン、と切れた刀身が机に転がる。


「……えっ」


「はっ?」


 シルヴィアは言葉を失い、カドラスは目を丸くする。


 しかめっ面のままでいるのは、フレインだけだ。


「技術の押し売りで、オレたちのなけなしの金を奪おうってんじゃないだろうな?」


「しねぇよそんなこと」


「い、いや、フレイン。これ、本当にすごいわよ。戦略、相当広がる」


「おい、少年。金取らなくていいのか? マジですげぇぞこれ」


 信じられない、という顔をする二人に、俺は笑って返す。


「まぁ1つ2つくらいなら問題ないぞ」


「そうそう。本気で学ぼうとしたらメチャクチャ量あるけど、そこまでは教えないし」


「誰が知っているの?」


 シルヴィアはとても食いつきがいい。


「アレクって商人が知ってるな。ルーン魔法の教本だけなら、大枚叩けば買えるんじゃないか?」


「わ、分かったわ。買う。これはその価値がある」


 興奮気味のシルヴィアだ。ここに至るまでずっと嫌そうな顔をしていた少女とは思えないほど、目をキラキラさせている。


「で?」


 フレインは言った。


「ウェイド。お前その手の平の傷、ただシルヴィアに見せるためだけに刻んだんじゃねぇだろ? もったいぶらず、早く教えろよ」


「ああ、何だよバレてんのか」


 じゃ、さっと見せてしまおう。


ブラフマン


 俺は手の平をみんなに見えるように上向きに広げながら、真言を口にした。するとアナハタ・チャクラが起動し、見る見るうちに傷が癒えていく。


「わ……知ってはいたけど、やっぱりすごいね」


 トキシィが目を丸くする。だが、フレインパーティはそれどころじゃない。


「……」


「しょ、少年? い、今の何だ?」


「……き、傷が、ひとりでに治った……」


 くくっと笑って、俺は補足した。


「要するに、基本的に負傷は気にしなくていい身体になったんだ。身体能力も上がったから、連携時は適当にそっちに合わせる。厳しい状況なら、とりあえず俺を突っ込ませるので問題ない」


 驚かされっぱなしの3人に、俺はほくそ笑む。そんな密かな楽しみを見抜くようにして、フレインは「ハッ」と吐き捨てた。


「決めた。―――もうオレは、ウェイドが何をしても驚かねぇ」


 毎度この二人みたいにバカみたいな反応してられるか。とフレインは皮肉げに手を広げる。

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